第二話 クラリスは機械じゃない。僕の妻だ
私は少し考えると、正直に答える。
「ソフィアが、私ならこんな人生は絶対嫌だと言っていたのです」
「へえ?」
レナードの眉が上がる。
「年子なんて嫌だそうです」
「もちろん大変だけど、一人より二人の方が幸せも倍以上なんじゃないかな」
「あと、子供を産む機械みたいだ、と」
レナードが瞬きをする。
もう一度して、それから本気で不思議そうな顔になった。
「機械?」
まるで意味がわからないと言いたげだった。
「僕はクラリスに二人の子供を授けてもらえたことを、人生最大の幸運だと思っているんだけど」
「……」
「それに」
レナードは次男を抱いたまま私を見る。
「クラリスは機械じゃない。僕の妻だ」
真っ直ぐな声に、ソフィアの肩がぴくりと震えた。
「子供たちの母親で、そして僕がこの国で一番愛している女性だ」
レナードは少しだけ笑うと、ソフィアの顔が引きつった。
私は思わず吹き出しそうになる。
本人は本気なのだ。
だから余計に強い。
「そういえばソフィア。あなたの旦那様も、夜泣きの対応をしてくださるの?」
私はにこりと微笑んだ。
「え……」
「レナード様はいつも、私より先に起きてくださったのよ」
「それは当然だろう」
「私が気がつかないこともあるくらい」
レナードが頷く。
「子供たちと過ごせる時間なんて、きっとあっという間だからね」
「ミルクも作ってくださるし」
「温度管理は重要だからね」
「お風呂も」
「好きだよ」
「寝かしつけも」
「最近は僕の方が上手いかもしれない」
ソフィアの顔色がどんどん悪くなるのも気にせず、続ける。
「あなたの旦那様はどうなの?」
「そ、それは……」
「確か、今夜も外泊予定だったかしら?」
「……」
「借金の返済でお忙しいのよね」
何も言い返せないらしい。
ようやく現実と理想の差に気付いたのかもしれない。
しばらくして、ソフィアは立ち上がった。
「もう帰るわ」
「そう」
「お姉様も、お元気で」
逃げるように部屋を出ていくと、やっと静寂が戻ると、レナードが不思議そうな顔で首を傾げた。
「彼女は何をしに来たんだい?」
「私にもわかりません」
「変わった人だね」
ソフィアの本当の目的は、侯爵家への援助だというのは最初からわかっていた。
母に「王家の信用に関わるから、気をつけなさい」と忠告されていたから。
けれど、偶然現れたレナードの言葉と雰囲気から、言い出せなくなったのだろう。
彼は心底不思議そうにしているけれど、天然というのは本当に恐ろしい。
その時、ベッドで眠っていた長男が寝返りを打つ。
「ぱぱ……しゅき……」
小さな寝言に部屋が静まった。
レナードが固まる。
「……聞いたかい?」
「聞きました」
「本当に聞いた?」
「聞きました」
「僕のことを好きだと言った」
「寝言ですけどね」
「好きだと言った」
レナードは感極まった顔で長男を見つめる。
そして次男を抱いたまま宣言した。
「明日の政務は休もう」
「だめです」
「なぜ」
「王太子だからです」
即答すると、レナードは本気で残念そうな顔をした。
私は呆れながらも笑う。
窓の外から初夏の風が吹き込み、白いカーテンを揺らす。
腕の中の次男とベッドで眠る長男。
そして親馬鹿で天然な夫。
確かに忙しい。
着飾ることも、自分の時間だって減った。
けれど、もし人生をやり直したとしても、私はきっと同じ人を選ぶだろう。
そう思えるくらいには――今、とても幸せなのだから。
最後までお付き合いありがとうございました。
宇宙猫が脳内に現れるくらいには、「お前が言うのか」という瞬間ってありますよね。
少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ




