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【8/2番外編追加】『年子なんて絶対嫌』と言う妹の夫は、今日も愛人の家にいるそうです【完結】  作者: 木風


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3/3

番外編 わたくし、自分の時間の方が大事ですもの

 第二王子誕生のお披露目を兼ねた夜会の日。


 ソフィアの夫は入ってくるなり、酒のテーブルへ一直線。


「おっ、酒だ!」


 グラスを手に取り、給仕が止める間もなく、誰よりも早く一杯目を飲み干す。


「あなた……!」

「まあいいじゃないか。祝いの席だろ?」


 ……いや。

 夜会が始まってまだ三十秒も経っていないし、何も祝いの言葉すらもらっていないのだけれど。


「ソフィア、きてくれたのね」

「……お姉様」

「どうしましたの?」

「どうして……そんなに普通なんですの?」


 ……普通?その言葉に思わず首を傾げる。

 何が普通なのだろう。

 脳内に、ぴょこん。と、小さな宇宙猫が一匹現れた。


「第二子を産んだばかりですのよ!?もっとやつれて、お化粧どころではないのかと思っていましたわ」


 なるほど、そういうことか。

 私は苦笑した。


「今日は乳母や侍女たちが総出で支度してくださいましたから」

「え?」

「髪も、お化粧も、衣装も。私は座っていただけですわ」


 すると近くにいた侍女が照れくさそうに笑う。


「お世継ぎ様のお披露目ですからと張り切ってくれたのよ。乳母も『今日は奥様に何もさせません』と言ってくれたわ」

「そんなに人に任せて平気なんですの?」


 ソフィアはきょとんとしている。

 宇宙猫が二匹になった。

 ……いや。任せられることを任せるのも仕事でしょう?


「クラリス」


 聞き慣れた声がして振り向く。

 レナードが次男を抱き、長男の手をしっかり握っている。

 王太子とは思えないほど自然な光景だった。


「支度は疲れなかった?」

「皆が頑張ってくださいましたので」

「そうか」


 レナードは周囲の侍女や乳母へ笑顔を向ける。


「いつもありがとう」


 その一言だけで、皆がぱっと表情を明るくした。


「殿下にはいつもそう言っていただけますから」

「私たちもやりがいがあります」


 そんなやり取りを見ながら、ソフィアがぽつりと呟く。


「……わたくしなら嫌だわ」


 宇宙猫、三匹目。

 今度はちょっとぽっちゃりとした猫だった。


「今度は何ですの?」

「そんなに大勢に囲まれて子育てなんて。気を遣って疲れそうですもの」


 ……いや。

 それは気を遣われる側ではなく、支えてくださる方々へ感謝する場面では。

 頭の中で宇宙猫たちが一斉にこちらを見ていた。

 レナードは事情を知らないまま穏やかに笑う。


「一人じゃ到底できないからね」

「え?」

「乳母も侍女も、料理人も侍医も、本当によく支えてくれている」


 そう言って、長男の頭を優しく撫でた。


「もちろん僕もクラリスも親だけど、皆が力を貸してくれるから、子供たちと向き合う時間をたくさん作れるんだ」

「……」

「だから感謝しかないよ」


 周囲の使用人たちは、どこか誇らしそうだった。

 その時、一人の侯爵夫人が微笑みながら尋ねる。


「殿下。お子様がお二人になって、毎日お忙しいでしょう?」

「もちろん大変ですよ。でも、一人より二人の方が幸せも倍以上なんじゃないかな」


 会場の空気がふっと和らぐ。


「夜泣きもありますし、寝不足にもなります。でも、子供たちと過ごせる時間なんて、きっとあっという間でしょう?」


 本当に、この人らしい言葉に、私は笑みが溢れる。

 すると今度は別の貴族が口を開いた。


「第一王子殿下には、将来ぜひ立派な国王になっていただきたいものですな」


 レナードは長男を見つめ、それから静かに笑った。


「それは本人が決めることですよ」

「ほう?」

「王になることだけが幸せとは限りません。親として、好きな道を応援できれば十分です」


 その言葉に、周囲は感心したように頷いた。

 私は改めて思う。やっぱり、この人には敵わない。


「……わたくしには無理だわ」


 また聞こえた。

 宇宙猫、四匹目。次に現れた猫は耳が折れていた。


「今度は何ですの?」

「そんなに子供中心の生活なんて。わたくし、自分の時間の方が大事ですもの」


 ……いや。

 それは別に否定しない。

 人それぞれだ。


 でも、借金まみれで、愛人の家へ通い、ほとんど帰ってこない夫を持つあなたが、それを私に言うの?


 宇宙猫たちは、もう考えることをやめたらしい。

 その時だった。


「ぱぱ!だっこ!」

「はいはい」


 長男がレナードへ飛びつく。

 レナードは次男を乳母へ預けると、今度は長男を抱き上げた。


「今日は楽しかったかい?」

「うん!」

「それは良かった」


 その様子を見た貴族たちが、思わず目を細める。


「本当に仲の良いご家族ですな」

「理想のご夫妻ですわ」


 夜会も終盤に差し掛かり、ソフィアがまた私へ近付いて来ようとした、その時だった。


「お嬢さん」


 聞き覚えのある声に振り向く。

 そこには、給仕の若い女性へ笑い掛けるソフィアの夫の姿があった。


「こんなところで給仕なんて勿体ないな。夜会が終わったら、一杯付き合わないか?」

「け、結構です」

「遠慮しなくていいって」


 女性は困り果てて後ずさる。

 腕へ触れようとしているのを見て、私はソフィアへ視線を向けた。


「……それより、ソフィア」

「え?」

「あなたはもう少し、旦那様をちゃんと見なさい」

「あ、あなた、何をしているのーーーっ!!」

「おっと」

「おっと、ではありません!」


 顔を真っ赤にして駆け寄ると、そのまま夫婦喧嘩が始まる。

 その光景を見て、レナードが苦笑する。


「妹君は相変わらず面白いね」

「……」


 本人は本気でそう思っている顔。

 やはり、天然ですわ。


 ソフィアはこの日も最後まで、侯爵家への援助の話を切り出すことはなかった。

 言い合いをしながら会場を出て行く二人の背中を見送りながら、私は心の中で小さくため息をつく。

 きっと次に会っても、また言うのだろう。


『お姉様みたいな人生、わたくしなら絶対嫌だわ』と。


 ……そう。

 それは、本当にその通りなのだと思う。

 だってこの幸せは、レナードと、子供たちと、乳母や侍女たち。

 みんなで少しずつ積み重ねてきた、私だけの人生なのだから。

日間完結済3位と日間異世界恋愛・完結済3位感謝です。

ソフィアの旦那さんを登場させたくなり、書いてみました。いかがでしたでしょうか?

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
ちょっとカウンセリングが必要なのでは、妹ちゃん… というか、この侯爵家がきちんと回ってる気がしないので監査を
宇宙猫から猫ミームしてそうな気がしてきた。
王太子レナードの親馬鹿&溺愛夫ぶりと王太子妃クラリスの幸せ生活が素敵すぎて楽しい作品でした♪ 妹ちゃん、親から姉と比べられ続けて『お姉様とは違う自分』であることにアイデンティティを見出して自己防衛を…
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