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銀翼の渡来人5

頭上から迫る死の質量に対し、タロは一歩前へと踏み込んでいた。


黒い骨の怪物の大剣が、凄まじい風切り音を伴って振り下ろされる。タロは機体の腕を操り、手近な得物を盾にするようにしてその一撃を受け止めた。


鉄と鉄が激突する、鼓膜を震わせるような鈍い衝撃。火花が散り、強烈な負荷が骨の触手を伝ってタロの四肢へと跳ね返る。


だが、タロの意識は「明鏡止水」の冷徹さを保ったままだ。


受けた衝撃の反動を利用し、タロは泥を蹴って前方へと低く跳躍した。

思わぬ抵抗と推進力に、敵の怪物はたじろぎ、数歩後退りして石畳を激しく踏み鳴らす。


二機の巨躯が、泥と血に塗れた広場で対峙した。

じりじりと詰まる、一触即発の間合い。周囲の兵たちの息を呑む気配さえ、タロの拡張された聴覚にはっきりと届いていた。


沈黙を破り、敵機が獣のような咆哮を上げて再び斬りかかってきた。大剣が頭上から、タロを縦に両断せんと真っ直ぐに振り下ろされる。


「……遅い」


タロはその鋭い軌道を冷徹に見切っていた。

降り掛かる大剣の刃を、斜めに構えた剣の腹で受け止める。その瞬間、激突の衝撃をいなすように手首を柔らかく返し、敵の頭部へと白刃を激しく叩きおろす。――剣道で言うところの、返し面。


鈍い破壊音が広場に轟く。

だが、手応えは不十分だった。慣れない未知の機体だ。人間の肉体とはわずかに異なる神経の伝達速度のズレが、打突の威力を殺してしまった。敵機の頭部は無残にひしゃげ、赤い燐光が激しく明滅したものの、トドメには至らない。


生命の危機を感じたのか、敵の骨の怪物は泥を爆ぜさせ、一気に上空へと跳躍して逃れた。

胸ポケットから顔を出したギギが、タロの服を掴んで叫ぶ。


『タロ! あんたも飛ぶのよ!』


「飛ぶって、どうするんだよ! 操縦桿スロットルはどこだ!」


『血を! あんたの「血の昂り」に応じて、ガラダインは何でも出来ちゃうんだから!』


上空へ逃れた敵機が、空中できりもみ反転し、今度は猛烈な急降下でこちらへ向かってきた。質量を乗せた、凶悪な脚部による踏み付けの突撃。


しかし、拡張された三次元の視界を持つタロには、その軌道が止まって見えた。


直線的な降下。退路を断った、ただの肉弾攻撃。


「馬鹿め、そうなってはもう旋回もできまい」


タロはフットペダルを踏み込む代わりに、己の半身を引くイメージを機体に叩き込んだ。


巨軀が滑るようにして直撃のラインを外す。敵機の巨大な足がすぐ側を掠める。


次の瞬間、タロの胸中で、零戦と共に大空を駆けた記憶が、熱い血の昂りとなって爆発した。

背中の骨の節々から、藍色の光の奔流が翼のように噴き出す。


突撃をかわした推進力のまま、タロの機体は垂直に、空へと舞い上がった。下方では、目測を誤った敵機が制御を失い、轟音を立てて広場の泥の中へと激しく衝突するのが見えた。


胸ポケットのギギが、歓喜の声をあげる。


『すご……っ、本当に飛んじゃった!』


上空数百メートル。あの懐かしい、透き通った風がコックピットの隙間からタロの肌を撫でる。

眼下には、無防備に泥に伏せる敵の背中。


「空戦ってのはこうやるんだぜッ」


タロの瞳に、氷のような光が宿る。

空中でふわりと機体を反転させ、重力落下へと移行。地球の引力そのものを刃の重さに変え、タロは一気呵成に大剣を振り下ろした。


吸い込まれるような急降下。

叩きつけられた未完成機の大剣は、しかし、敵の肉体を鮮やかに両断することはなかった。この異界の武器は、研ぎ澄まされた日本刀とは違う。


骨と骨が噛み合い、強烈な質量が敵の背甲を、そして内部の構造ごと肉を「叩き潰す」泥臭い感触が、タロの右腕にズシリと伝わってきた。


鈍い圧殺音と共に、黒い骨の怪物は泥の海へと沈み、今度こそ完全に沈黙した。

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