異界の騎士達23
城内の中庭は、すでに血で血を洗う白兵戦の坩堝と化していた。
タロはふらつく足を殴りつけながら前線で指揮を執るセゼ王女の本陣へと走った。城の各方面からは不気味な火の手が上がり、石造りの回廊には、侵入したギド兵たちと防衛兵たちの肉と鉄のぶつかり合う鈍い音が反響している。
走り抜けながらセゼ王女の健在を目視で確認したタロは、迷うことなく腰の搭乗員刀を荒々しく抜き放ち、敵の集団へと身を投じた。
巨大な肉と鋼鉄が噛み合う修羅場。拳銃の弾薬はとっくに底を突き、予備の弾倉もすべて使い果たしている。頼れるのは、己の手中にある一振りの刀のみだった。
一人、二人、三人。
肉を断ち、骨を砕いて敵を屠ったところで、四人目の分厚い鉄盾に刀身を深く受け止められた。吸い込まれるように盾の隙間に食い込む刃。タロが力任せに引き抜こうとした刹那、横合いから鋭い槍の刺突が迫る。
タロは身を極限まで捩ってそれを紙一重で回避し、同時に刀を引き抜いた。だが、手元に戻った刀は無残な有様だった。刃こぼれが激しいばかりか、激しい衝撃の連続によって刀身に明らかな歪みが生じている。これでは、打ち下ろしても力が分散して使い物にならない。
タロは瞬時に思考を切り替え、敵の喉元を深く突き刺した。一人を仕留めると同時にその刀を捨て、転がった敵兵が遺した大剣の柄を両手で掴み上げる。
(使い慣れないが……両手剣なだけマシか)
ずっしりとした金属の質量を掌に確かめながら、タロは迫り来るギド兵を迎え撃った。間合いを測り、大剣の自重を利用して一刀両断にする。武器の構造や戦闘思想が違えど、己が磨き上げてきた一刀流の骨子にブレはなかった。
重たい鉄のブレードを右肩に乗せ、肩の僧帽筋を爆発的に連動させて跳ね上げるように振るう。野太い軌跡が空間を薙ぐたび、敵の四肢が宙を舞った。
気がつけば、包囲を破って城内に侵入していた敵兵は、あらかた始末し終えていた。だが、息を整える余裕などない。
東の地平線からは、夜闇を切り裂くように、今まさに鮮血のような朝日が昇ろうとしていた。その瑞光を浴びるように、城壁の奥から大きな歓声が伝播してくる。
「ジギ王だ! ジギ王が目覚められたぞ!」
疲労困憊だった兵たちの顔に、一気に生気が戻る。
「待たせたな、皆の者! さぁ、ギドの雑兵どもを我が領地から追い散らすぞ!」
猛々しい老兵の姿に、地響きのような「おう!」という雄叫びが応じた。兵たちの士気は、文字通り天を突く勢いで跳ね上がる。
タロは、同じく呪いから這い上がってきたゾガ、そしてゼグと合流し、セゼ王女の本陣へと戻った。
銀髪を血と煤に汚しながらも、セゼは毅然とした将の顔で彼らを迎えた。
「私の騎士たちよ、本当によく持ち堪えてくれました。さあ……我々は約束通り、裏門の守備へと回ります。皆の者、進め!」
セゼの凛とした合図とともに、ゴバの近衛兵たちが一斉に行軍を開始した。
重々しい音を立ててジギ城の裏門が開け放たれる。
まだ敵の手が伸びていないゴバ王国への街道方面。タロたちは門の前に、侵入せんとする敵軍を各個撃破するための強固な防衛陣形を敷いた。
だが、その戦力は完全に満身創痍だった。
ゾガのガラダインは昨夜の墜落によって完全に大破し、駆動不能。そのため、ゾガはゼグのガダインを無理矢理奪い取っていた。
代わりに、城の整備兵たちが、大破したゾガのガラダインから生きていた部品を剥ぎ取り、タロのガルの応急修理を施してくれていた。タロは不格好に補修されたコクピットに滑り込み、神経接続を済ませる。
(……脚部の神経伝達が、めちゃくちゃだ……)
操作に対する反応に妙な違和感があるが、今の状況で飛べるだけ奇跡だった。文句を言える立場ではない。
一方で、乗機を奪われて徒歩となったゼグは、セゼ王女の直属護衛に任じられたことで、露骨に相好を崩して喜んでいた。
裏門の彼方、朝日が照らす街道を、使用不能となったガラダインの残骸と、潰れたガルの脚部パーツを山積みにした数台の馬車が、南のゴバ王国へと向かって静かに離脱していくのが見えた。
「さぁ、どこからでもかかってきな!」
ガダインの拡声器を通じて、ゾガが獰猛に鼻を鳴らす。
ゼグは王女の傍らで、有頂天のまま槍を握りしめている。
そして、少女としての甘えを完全に脱ぎ捨て、冷徹な将の顔つきに変わったセゼ王女。
しかし、ガルの胸ポケットに収まったギギが、不気味なほど沈黙して微かな光を澱ませているように、タロの胸の奥に這い寄る「言い知れぬ不安」だけは、朝日の光を浴びてもなお、一向に拭い去ることはできなかった。
退路を固める布陣――だが、もしもこの配置そのものが、ドクター・バグの描いた「盤面」の上だったとしたら。
運命の陽光が、裏門に集う者たちの影を、長く不気味に荒野へと引き伸ばしていた。




