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ガランド戦記  作者: 拝頼人
2章:異界の騎士達-ジギ城攻防戦-
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異界の騎士達19

「そこだ!」

 ザガの咆哮とともに、ドル・ゾの腕部から二本の大振りな矢が相次いで放たれた。漆黒の夜闇を引き裂き、鋭い風切り音を伴ってガルの肉薄する軌道へ殺到する。


「甘い! 同じ手は二度喰わん!」

 タロは視界を過る死線を見据え、限界まで神経を研ぎ澄ました。ガルの大太刀が半円を描き、迫る矢尻を正確に叩き落とす。火花が飛び散り、闇に弾け飛んだ。


 すかさずタロは、零戦から移植した、使い慣れた光像式照準器(九八式射爆照準器)のレティクルへと片目を寄せた。ガルの右腕に新設されたバリスタの照準線が、急進するドル・ゾの胴体を完全に捕らえる。


(軌道が直線的すぎるぜ、異界の騎士さんよ)

 右腕の筋肉を緊張させ、強弓を引き絞って放つイメージを神経接続リンクを通じてガルへと叩き込む。


 放たれた強烈な矢が、ドル・ゾの骨の翼の基部を容赦なく射抜いた。

 体勢を大きく崩す敵機。タロの身体はすでに次の挙動に移っていた。ガルの脚部ラックから次の矢を引き抜き、流れるような動作でバリスタへとつがえる。

(トドメだ――)


 引き金に指をかけたその時、タロの網膜に飛び込んできたのは、不気味に蠢く十の影だった。丘陵の死角から這い出てきた、バガロの増援部隊。


「くそ、まだ隠してやがったのか! ゾガさん! ここは俺が食い止める!」


「無茶だ! あんな数は、いくらタロさんでも――!」


「俺じゃないと、このガルじゃないと、これだけの数は捌ききれない! 残りを追い散らし、ジギ王やゼグと合流してくれ。陣形を崩さずに城を守るんだ!」


 通信の向こうで、ゾガが一瞬の沈黙を挟み、絞り出すように応じた。


「タロさん……相打ちとか、そういう不条理なのは無しだぜ?」


「無論だ」

 タロはふっと息を吐き、視線を胸ポケットへと落とした。


「さて、ギギ。少し荒っぽくやるぞ。もし俺が、あの『血の昂りの呪い』に飲まれそうになったら……その時はガルを上手く地上に降ろしてくれ」


 胸ポケットから顔を出したガラスの精霊は、その硬質な顔を変えることなく、しかし体躯の奥底で、かつてないほど緊迫した深紅に近い光を激しく明滅させていた。


「わかったけど……タロ、本当にやるの?」

「あぁ。皆を守る」


「……わかったわよ! 気絶した後は私に任せなさい。あんな鋼骨騎の紛い物、徹底的にやっっちゃえ!」


「おう!」

 前方では、翼を大きく損傷したザガのドル・ゾを、他の二機が左右から抱え込むようにして、這う這うの体で後方へと退却していくのが見えた。


(ザガを戦線から離脱させられたのだけが、唯一の救いだな。さぁ、来い――!)


 タロはガルの操縦桿を両手で強く握り締め、全身の神経を骨の翼へと注ぎ込んだ。


「大日本帝国海軍一等飛行兵曹、日向太郎――参る!」


 ガルが大きく骨の翼を羽ばたかせ、夜気を激しく引き裂く。大太刀を右肩に担ぎ、一直線に十機のバガロへと突撃を敢行した。対する敵機もまた、粗末な大剣を構えて迎撃の態勢を取る。

 激突の瞬間――。

 すれ違いざまの一閃。ガルの大太刀が、先頭のバガロを胴体から一刀両断にした。肉肉しい骨の破片を散らしながら崩壊する敵機を余所に、タロは離脱の瞬間を利用して右腕のバリスタを至近距離で発射。追従していたもう一機の頭部を正確に撃ち抜いた。


 そのまま、急激な上昇旋回をかけながら、ガルの指先が三発目の矢をバリスタへ装填する。海軍航空隊で鍛え上げられた、極限の空中機動の極致だった。

 またたく間に二機を葬られたバガロの群れは、動揺したように左右へと分かれ、タロのガルを包囲するように展開した。


(お前らの機体には、飛び道具が無いのは百も承知だぜ)


 タロが包囲を狂わせるべく、急降下へと機体を傾けた、まさにその刹那だった。

 周囲のバガロたちが、一斉にその左腕をタロへと突き出した。

 直後、夜の静寂を切り裂く、激しい発砲音が鼓膜を打つ。


 強烈な衝撃が、ガルの機体を襲った。軽量化のために装甲を限界まで削ぎ落としたガルの骨殻に、それを防ぐ術は皆無だった。


「まさか……腕部に、銃が……っ」


 タロは奥歯を噛み締め、ガルとの神経接続を確かめるように右手の指を動かした。機体の右腕もまた、わずかに遅れてその拳を握りしめる。伝達系は死んでいない。


(まさかとは思うが、単発式フリントロックだよな……?)


 だが、タロの淡い期待はすぐに半分打ち砕かれた。

 バガロたちは間髪入れず、今度は右腕を突き出してきたのだ。

 再び走る無数の閃光。連続する硝煙の破裂音とともに、容赦のない鉄の礫がガルの機装を容赦なく穿ち、破片がコクピットのタロの肌をかすめていく。


「やってくれるな……!」


「タロ! 血が!」

 胸ポケットのギギが、恐怖を示すせわしない光を明滅させながら叫んだ。


「大丈夫だ、ただのかすり傷だ!」

 タロは顔に流れる熱い液体を手の甲で拭い、冷徹な目を前方へ据えた。


「ギギ、ここから少し集中する。アイツらの動きを見て、後ろから接近してくる奴の情報だけを伝えてくれ!」


「わ、わかったわ……!」

 ギギの体躯が、戦場の推移を追うように忙しなく明滅を繰り返す。

 タロは操縦桿を引き絞り、ガルの全出力を解放した。


「さて、お返しの時間だ!」

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