異界の騎士達18
「敵の大将は俺が引き受ける。ゼグはジギ王の後ろについて学ばせてもらえ!」
タロは神経接続されたガルの思考伝達の念話を通じて、迅速に指示を飛ばした。
「ゴバの若き騎士よ、しっかり着いてきたまえ!」
老練なジギ王の骨董機が、その言葉とともに夜空へ鋭い弧を描く。
「は、はい!」
ゼグのガダインが、その荒々しくも無駄のない軌跡を必死に追いかけていく。
「ゾガさんは……自由にやってくれ」
タロの投げ遣りにも聞こえる采配に、通信の向こうでゾガが呆気にとられたような声を上げた。
「はっ? 好き放題暴れさせてくれるなんて泣かせるねぇ! 惚れちまいそうだよ!」
「すまないが、俺には祖国に許嫁の静が居て、ゾガさんにはゼグが――」
「ば、ば、バカ言ってんじゃないよ! あーもう知らない知らない! ちくしょう、全員落としてやる!」
突如として通信機から上がったゾガの金切り声。だが幸いなことに、すでにジギ王の追従に必死となっていたゼグの耳には届かなかったようだ。
「タロ、あんたデリカシーなさすぎ。やっぱりモテないでしょ?」
胸ポケットから顔を出したギギが、呆れたような冷ややかな輝きを放つ。そのガラスの体躯の奥で、不満を示す鋭い光がせわしなく瞬いていた。
(今のは、俺でもわかる。面目ない)
己の失言に内心で頭を抱えるタロだったが、戦況はその猶予すら与えてはくれない。
「それよりタロ、来るよ! ザガが! 『ドル・ゾ』が!」
ギギの警告と同時に、ガルの視覚センサーが上方からの強烈な殺気を捉えた。
「油断したな、渡来人!」
ザガの駆る漆黒の鋼骨騎ドル・ゾが、月光を浴びた大剣を振り翳し、猛烈な速度で肉薄してくる。
「前とは完成度が違うんだよ!」
叩きつけられる大質量の一撃。だがタロは冷静だった。ガルの翼を瞬時に反転させ、振り向き様に腰の大太刀を引き抜く。肉肉しい金属同士が噛み合う激しい衝撃とともに、ドル・ゾの一撃を文字通り円を描くように受け流した。
体勢を崩したドル・ゾだったが、流石はギドの精鋭騎士だ。すんでのところで骨の翼を激しく羽ばたかせ、強引に推力を得て夜空へと急上昇していく。
(流石はギドの騎士様だ……。落ち着け、心を落ち着けろ。明鏡止水を忘れるな。この身体を巡る、血の昂りの呪いを今受けるわけにはいかない)
タロは深く息を吐き、ガルの胸中で己の精神を研ぎ澄ました。
「前のようには行かんぞ、渡来人よ!」
急上昇から鋭い反転を見せ、ドル・ゾが再び旋回降下を仕掛けてくる。夜闇を裂くその機動は、確かに以前の拙劣なものとは一線を画していた。
「このような芸当、私にも出来るのだ!」
「それはそれは、殊勝なことで!」
迫り来る死の質量に対し、タロは真っ向から受け止める愚を犯さなかった。ガルの姿勢制御をわずかに傾け、柳の枝のように身を翻してその突撃を紙一重で回避する。
ザガのドル・ゾは、そのまま突き抜けるように急降下し、タロとの距離を大きく引き離した。
「タロ! 追いかけなくていいの?」
胸ポケットのギギが、不思議そうに明滅する。
「ギギ、こういうのは熱くなって追いかけた奴の負けさ。俺の前にいた世界でも、空中戦の鉄則はそうだった」
「ふぅん。タロって女心はてんでダメだけど、こういう時は本当に冷静よね?」
「ギギ、少し黙っててくれよ」
「はぁい」
不満げに小さく一度だけ光り、ギギはポケットの奥へと引っ込んだ。
タロはガルを上昇させ、翼を緩やかに羽ばたかせながら、上空から戦況の全容を見極めにかかった。
(ジギ王は流石の武人っぷりだな。ゼグもよく喰らいついている。ゾガさんも、城壁に取り付こうとする敵の『バガロ』を上手く上空から潰していってくれている。やはり、この戦域における唯一の脅威は……ザガ一人!)
◇
ジギ城を見下ろす遠方の丘陵。
陣頭で長大な望遠鏡を覗き込んでいたドクター・バグは、冷徹に口元を歪めた。
「ふん、ザガの猿め。大口を叩く割には奇襲の効果も薄く、たった四機の鋼骨騎すら落とせないとはねぇ。非効率だなぁ」
バグは望遠鏡のレンズを、戦場を縦横無尽に駆ける一機の異形――ガルへと向けた。
「それにしても、あの機体は……? どう見ても飛行機のパーツ。そして、あのミートボール(日の丸)は……」
レンズの向こう、ガルの装甲に刻まれた鮮烈な赤円を捉え、バグの眼鏡の奥の瞳が、狂気を孕んで怪しく発光した。
「なるほど。あちらの渡来人は、少しは進んだ『野蛮人』でしたか。くくく……」
バグは望遠鏡から目を離し、傍らの伝令兵へ冷酷な視線を走らせた。
「さぁて、フィナーレ……いや、メインディッシュの時間ですね。合図を!」
兵士が大きく色旗を振ると、それに応じるように、さらに遠方の丘の上の兵士が旗を翻した。
次の瞬間、城壁の防衛兵たちからは完全に死角となっている、暗い丘陵の向こうの闇から、不気味な骨の羽音が大気を震わせ始めた。
姿を現したのは、十機ものバガロの増援部隊。
静まり返る夜の荒野を、圧倒的な数の死神たちが埋め尽くしていく。
「さぁて……」
ドクター・バグは眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、残酷な笑みを深く刻んだ。
「カミカゼジャップのお手並み拝見と行きましょうかねぇ?」




