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ガランド戦記  作者: 拝頼人
2章:異界の騎士達-ジギ城攻防戦-
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異界の騎士達14

ジギ城攻防戦の火蓋は切って落とされた。

城壁を包囲した一万のギド軍が一斉に押し寄せ、荒野は地鳴りのような火薬の爆裂音と、視界を覆い尽くす濃厚な白煙に包まれる。

ジギ城からは決死の投石と弓矢の雨が注がれ、壮絶な応酬が続く。ジギの兵たちにとってはこれこそが本土決戦。故にその士気は恐ろしいほどに高かったが、あまりにも兵力差がありすぎた。一万対、わずか千六百。


城壁に次々とかけられる敵の梯子。それを外そうと身を乗り出したジギの防衛兵たちが、容赦なく放たれる不可視の鉄の礫に撃ち抜かれ、次々と崩れ落ちていく。


タロは出撃待機状態のガルの機内で、その凄惨な光景を歯噛みする思いで見つめていた。操縦桿を握る拳が白く強張る。


「出撃の許可を! ジギ王! セゼ王女!」


タロはガルの発声を外部へと響かせる『拡声機能』を使い、格納庫中に響き渡る大音量で叫んだ。「今出なければ城壁が持たない!」


だが、司令部から伝令の兵を介して返ってくる答えは非情な「否」であった。

なぜなら、敵の主力である十機以上の鋼骨騎が、未だに後方に布陣したまま一歩も動いてこないからだ。


(なぜだ? 余裕のつもりか!? 出し惜しみは全滅を招くぞ!)


焦燥感に駆られるタロの脳裏に、直接ゾガの意識が流れ込んできた。神経接続された機体同士が共鳴し、思考を交わす『念話』だ。


『落ち着きなよ、タロさん。向こうの鋼骨騎が動かないうちにこっちが飛び出せば、稼働時間の差で城を守れなくなっちまうよ』


女騎士ゾガの冷静な念話に続き、舎弟となったゼグの焦った思考も頭の中に飛び込んでくる。


『そうですアニキ! 姫様たちも、1番美味しいところを俺達に回してくれますよ!』


タロの肩の上では、何度も格納庫と司令部を直接往復させられたギギが、体内の光をすっかり弱らせてペタンとへたり込んでいた。


「もう駄目……へとへとよぉ……。タロ、今は耐えてってセゼも直接言ってたわ……」


今この三機で突撃し、敵の先鋒の戦意を挫かなければジギ城は擦り潰される。そう確信しながらも、タロはハッチの向こうの硝煙に煙る空を睨みつけるしかなかった。


その頃、ジギ城を包囲するギド帝国の巨大な軍幕内でも、酷似した怒号が響き渡っていた。


「ドクター・バグよ! なぜ私を出撃させないのだ!」


ギドの誇る上級騎士ザガが、机を拳で叩きつけて吼えていた。


「私のドル・ゾと部下のバガロ十騎が一斉に飛び立てば、あんな小城、いや城とも言えぬ砦など、半刻もあれば落とせるものを!」


作戦机の前に座る白衣の渡来人――ドクター・バグは、眼鏡の奥の細い目をさらに細め、退屈そうに肩をすくめた。


「騎士ザガ様、貴方の勇猛さは大変よろしい事ですがね。今はその時ではないと言っているのです」


「な、何を……! 学者風情が、人を見下しおって!」


激昂したザガの右手が、腰の剣の柄へと向けられる。張り詰める軍幕内の空気。

しかし、ドクター・バグは怯むどころか、薄薄とした笑みを浮かべてみせた。


「騎士ザガよ。私はギド皇帝陛下より、この遠征軍の全権を預かっております。そ・れ・に……私の開発した『銃』、そして量産に成功した鋼骨騎『バガロ』。これらの有用性を一番理解しているのは、他ならぬ貴方でしょう? 安心してください。貴方の輝かしい活躍の場は、ちゃんと手順通りに用意してありますから」


「ぐぬ……ッ、その言葉、違えるなよ……!」


皇帝の威光と現実の兵器技術の前に、ザガは忌々しげに剣から手を離し、乱暴に軍幕を蹴立てて出て行った。

残されたドクター・バグは、癖毛の金髪をがしがしとかき上げると、やれやれと椅子に深く腰掛けた。


「知恵の足りない原始人め……。あー怖かったなぁ。しかし、向こうの連中も無駄に頑張るなぁ、不条理だなぁ。物理的にも戦術的にも絶対に勝てないんだから、さっさと降参しちゃえばいいのになぁ」


男の呟きは、冷酷な合理主義そのものだった。


軍幕を飛び出したザガは、怒りが収まらず、自身の私物天幕の中にある酒樽を思い切り蹴り飛ばした。中身が派手に飛び散る。


「鼻につく渡来人め……! 急に現れたかと思えば、あの魔術のような発明品で皇帝に取り入り、好き放題にしおってからに! いつかこの手で奴の失態を暴き、生きたまま切り刻んでくれる!」


「ザガ様、声が少し大きうございます……!」


控えていた部下の騎士が慌てて周囲を警戒する。


「構うものか! 私はギド帝国の騎士ザガ・フォン・ディキテンスタインだぞ! 古くから帝国に仕える名門の上級騎士だ! それを、あのような萎びた学者風情に軍の大権を握られて、黙っていられるかぁ!」


ザガの顔は屈辱で赤黒く染まっていた。


「ザガ様! どうか落ち着いてください!」


「黙れ! タロだ……タロ・ヒムカと今すぐ戦わせろ! あの忌々しいゴバの機体を、この手で引き裂いて……あの山脈での雪辱を、今すぐ果たさせろ!!」


大国ギドの絶対的な優位の裏で、伝統ある騎士のプライドと、歪んだ近代の知性が激しく摩擦を起こしていた。その歪みはやがて、ジギ城の戦況を大きく揺るがす火種になろうとしていた。

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