異界の騎士達13
ジギ城の作戦会議室は、重苦しい沈黙と、未知の恐怖への動揺に支配されていた。
先頭に立って敵を駆逐するはずだった高名な騎士たちが、姿も見えぬ鉄の礫に射抜かれ、無残に泥に伏したのだ。誰もが言葉を失う中、タロは作戦机の前に進み出た。
「あれは『銃』という兵器です」
タロの硬質な声が、張り詰めた室内に響く。
「火薬という爆発する粉の力を使い、筒の中から金属の礫を高速で飛ばす道具です。有効な射程距離は約百メートルほど。確実に狙って当てるとなると、五十メートルといったところでしょう。連発はできず、一度撃てば次の発射までに数十秒の装填時間がかかる。それが唯一の弱点です」
タロの淡々とした解説に、眉をひそめた近衛の将軍が口を挟んだ。
「ならば、射程も連射性も我が軍の弓矢の方が勝っているのではないか? なぜ我が精鋭の騎馬隊があれほど容易く崩された」
「弓矢は、長年血の滲むような訓練を積んだ兵士が使ってこそ、初めて脅威となるのです」
タロは将軍を真っ直ぐに見据え、冷徹な事実を告げた。
「ですが、銃は違います。昨日今日初めて武器を握ったような、訓練していないただの市民であっても、引き金を引くだけで、生涯をかけて武芸を磨いた高潔な騎士を一発で殺すことができる。それが、あの兵器の本質です」
会議場が、一瞬にして蜂の巣をつついたような騒然とした空気に包まれた。鍛錬を否定し、命の価値を均一化する異世界の兵器。その恐怖が、騎士たちの背筋を凍らせていく。
タロは腕を組み、頭上の天井を見上げた。
「昨夜の空爆のタイミング、 そして銃撃。抱いていたすべての疑念が、これでやっと晴れました。あっちの陣営にも、俺と同じ『渡来人』がいます。それも、俺のようなただの兵士じゃない。兵器の構造と運用を知り尽くした、厄介な科学者が……」
一万の軍勢が、近代の火器を手にして押し寄せてくる。対するこちらは、原始的な鉄と弓の世界。本来なら戦いにすらならない。
「ですが、唯一の救いは、これが防衛戦(籠城)だということです」
タロは作戦地図を指で叩いた。
「あの銃も万能ではありません。兵士を殺せても、この城の強固な石壁を破壊する力は不足している。それに、狭い隘路に敵を誘い込めば、遮蔽物のない場所から狙い撃てる防衛側の弓の方がむしろ使いやすい。敵の鋼骨騎をすべて撃墜できれば、残りの歩兵は、こちらの鋼骨騎による蹂躙で押し返せます」
昨夜、空戦で叩き落とした量産型の『バガロ』。あの程度の有象無象であれば、新生した我が『ガル』や、改修されたガダインの敵ではない。
しかし、敵の主戦力である『ドル・ゾ』の性能は極めて高い。あの山脈で互角に切り結んだザガのドル・ゾをはじめ、あのクラスの機体が複数投入されていれば、数の暴力も相まって一瞬でこちらが圧殺される危険がある。敵にはまだ後ろに控える援軍があるかもしれないが、こちらはもう手一杯の、退路なき背水の陣だった。
重苦しい空気の中、ジギ王が静かに口を開いた。
「朝の突撃のタイミングで、城内の女子供はゴバへの避難経路へ上手く逃がすことができた。……あとこの城に残っているのは、戦う意志を持つ戦士だけだ。皆、最後まで私に付き合ってくれるか?」
「もちろんです! 王よ!」
騎士たちが一斉に剣の柄を叩き、地鳴りのような応えが返る。小国ながら、彼らの士気は頗る高かった。
タロは作戦机の横に立つセゼ王女を振り返り、低い声で進言した。
「セゼ王女、あなたも避難を。ここからは、ただの消耗戦なります。王族が残るような場所ではない」
「私はここを動きません」
セゼは一歩も引かず、その涼やかな瞳でタロを見つめ返した。
「私はゴバの王の名代として、このジギへの援軍を率いて参りました。民や戦士たちをここに残し、私だけが安全な場所へ逃げることなど、絶対にできません」
(まったく、頑固な王女様だ……)
タロが内心で溜息をつき、なおも説得を試みようと言葉を探した、その時だった。
バタバタと足音を荒らしく響かせ、伝令の兵士が会議室へと飛び込んできた。
「敵軍、動き出しました! 一斉に進軍を開始!」
「各々、持ち場につけ!」
ジギ王が大剣を引き抜き、吼えた。
「追い詰められた小国の意地を、ギドの侵略者どもに見せてやるのだ!」
その言葉を聞いた瞬間、タロの胸の奥が微かに疼いた。
圧倒的な物量を誇る大国を相手に、己の誇りと、守るべき故郷のために、限られた資材で気高く抗う小国の姿。それは、タロがかつて生まれ、そして散っていった、あの遥かなる東洋の島国の姿に、あまりにも酷似していた。
(――なら、やるべきことは変わらないな)
タロは踵を返し、格納庫へ向かって走り出した。
近代の硝煙が立ち込めるガランドの荒野で、神鳥ガルが再びその翼を広げようとしていた。




