異界の騎士達10
「ギギ! ガルに乗り込め!」
タロは思考を戦時仕様へと瞬時に切り替え、鋭く叫んだ。
「え? 何よ? 何なのよ!」
困惑するギギの声を、大地を激しく震わせる大爆発の音が掻き消した。
タロは格納庫の外へと飛び出し、険しい表情で夜空を見上げる。月明かりに照らされた影。数は少ないが、間違いない。鋼骨騎だ。
「夜襲だ! 敵襲! 敵襲ーっ!」
「空から来るぞ!」
城内に悲鳴が木霊する。見上げれば、敵の量産型鋼骨騎『バガロ』が骨と鉄の翼をひらめかせ夜空を駆けていた。しかも、その手に保持しているのは――爆弾か。
(この時代に、空爆の概念なんてあるのか? まさかな……敵にも進んだ考えの戦術家がいるもんだ!)
感心している場合ではない。このままでは城が内側から灰にされる。
「何より、セゼ王女を守らねば……! タロ、ガルで出るぞ! 兵士たち、もっと篝火を増やしてくれ!」
操縦席へ滑り込み、神経接続を果たす。
(向こうの世界で夜間航法の訓練は嫌というほど積んだけど、この暗闇での空戦か……っ!?)
だが、ガルと意識が連動した瞬間、タロは目を見張った。操縦席のモニターに投影されたガルの視界は、まるで昼間のように鮮明に夜の闇を透かして見せていたのだ。
「これなら……征ける!」
爆音を響かせ、ガルが一瞬にして骨の翼を広げて跳躍した。背部と脚部の尾翼が夜風を捉え、凄まじい加速を生む。空中で敵のバガロの一機を瞬く間に追い抜きざま、工房の職人たちが命を削って鍛え上げた大太刀を一閃。バガロの飛行翼が紙のように切り裂かれ、轟音と共に一騎が墜落していった。
高い位置まで上昇し、戦況を俯瞰する。
「残りは四機か。量産のカトンボどもめ、夜襲での爆撃とは確かに良い作戦だが……!」
その時、一機のバガロが爆弾を抱えたまま、セゼ王女たちのいる城の一画へ向けて急降下を開始した。
「あそこ! セゼが危ない!」
肩の上のギギが、恐怖で身体の光を激しく点滅させながら騒ぎ立てる。
「させるかァッ!」
ガルの翼を翻し、重力に従って急加速。操縦席に移植された照準器の十字線に敵の影の少し先を捉える。右腕に装備したボウガンを構え、一直線に敵の突進軌道へ割り込みながら、引き金を引き絞った。
放たれた巨矢が、バガロが抱え込んでいた爆弾に正確に直撃。夜空に巨大な炎の華が咲き誇り、敵機は爆散した。
「危なかった……」
タロは城のテラスへとガルを急接近させ、コックピットハッチを乱暴に開いて叫んだ。
「ジギ王! セゼ王女! 敵襲です! 敵は空から来ます! 地下室があれば、そちらへ今すぐ退避してください!」
「感謝する、ヒムカ殿! さあ、セゼ王女、こちらへ!」
ジギ王が叫び、王女の肩を抱く。セゼは避難しながらも、タロを振り返った。
「タロ……気をつけて」
「セゼ王女こそ!」
「ちょっとタロ! いちゃついてないで! まだまだ来るよっ!?」
ギギの警告が飛ぶ。爆弾を落とし終えた残りの二機が、大剣を抜いてガルの背後から急速に襲いかかってきていた。
「甘い!」
タロは操縦桿を思い切り引き戻した。ガルはその場で綺麗な『ループ・ザ・ループ(宙返り)』を描き、追撃してきた敵機の背後を瞬時に取る。完全に優位を奪った状態で、大太刀を縦一閃に振り下ろし、一機を背中から一刀両断にした。
「流石、工房の親方たちが徹夜して研いでくれた太刀だ! ……おっと!」
最後の一機が狂ったように切り掛かってくる。しかし、タロはガルの身体をわずかに半身にするだけで、その刃を完全に回避した。
(神経接続も、だいぶ馴染んできたな。もっとだ……もっと戦わせろ……!)
アドレナリンが五感を支配していく。しかし、その瞬間――。
――ドクンッ!!
(……しまっ、た……!?)
脳裏を焦がすような衝撃。気持ちが昂りすぎた。かつて真珠湾の空で、炎上する敵艦を前にした時のような狂気的な『血の昂り』が、タロの制御を超えて肉体を侵食する。あまりの熱さに、タロの口から鮮血が噴き出す。
「タロ!? 大丈夫!? 血の昂りに負けないで、タロ!」
ギギの悲痛な叫びが響くが、ガルの動きは急激に鈍り、その場にガタガタと静止してしまう。敵のバガロはその隙を見逃さず、勝ち誇ったように大剣を大きく振りかぶった。
(南無三……ッ!)
だが、その剣が振り下ろされることはなかった。
側面から突っ込んできた二つの鉄の質量が、バガロを左右から激しく挟み撃ちにしたのだ。ゾガのガラダインと、ゼグのガダインだった。二つの大剣が敵機を十文字に切り裂く。
「タロさん! 助けに来たよ!」
「アニキ! アニキを助けられて俺、俺は……っ!」
致命傷を負ったバガロは、なおも僅かに抵抗しようとしたが、やがて力尽きたように項垂れ、地上へと墜落していった。
夜襲部隊、全機撃墜。
城中が、一転して勝利の歓喜に沸き上がった。
ガルは尾翼を震わせながら、ゆっくりと地上へ軟着陸した。
ハッチが開き、外の冷たい夜気が流れ込む。しかし、タロにはもう限界だった。ふらふらと操縦席から這い出たものの、そのまま地面へと崩れ落ちる。
「タロ! タロ!!」
ドレスの裾を泥に染めながら、セゼ王女が必死の形相で走り寄ってくる。
「どうしよう、どうしよう! タロ、しっかりして!」
ギギが頭上で半狂乱になって飛び回っている。
遠のいていく意識、視界が急速に黒く染まっていく。
その失われゆく暗闇の中で、タロの耳には、セゼが自分を心配して呼びかける悲痛な声だけが、いつまでも鮮明に響き続けていた。




