異界の騎士達9
行軍を始めて五日目。
タロたちの部隊は、緩衝地帯にそびえる小国ジギの居城へと辿り着いた。幸いにも、ギド帝国の軍勢はまだ地平線の彼方だ。文字通りギリギリのところで、ゴバの援軍は間に合った。
城内に招かれたタロたちは、ジギ王直々の謁見を受ける。
ジギ王は背が高く、綺麗に整えられた口髭のよく似合う、いかにも戦士らしい立派な王だった。王はセゼ王女へ深く一礼した後、その視線をまっすぐにタロへと向けた。
「君が噂の渡来人か! 援軍、誠に感謝する。異世界の戦士の奮戦、期待しているぞ!」
「はっ!」
タロは背筋を伸ばし、右手を鋭く額へと掲げる海軍式の敬礼で返した。
その無駄のない、洗練された軍人の挙動を見たジギ王は、満足そうに目を細め、感慨深げな表情を浮かべた。
「明日には、城内の女子供をゴバへと逃がす。そして我々男衆はここで時間を稼ぎ、あわよくばギドの奴らを撤退させるつもりだ。……それでなければ城を枕に討ち死にだが、付き合ってくれるなよ、客人!」
「ジギ王、ご冗談を……」
タロは不敵な笑みを浮かべて返した。馬車の中での猛特訓の甲斐もあり、この程度のやり取りなら、ギギの通訳なしでも現地語で即座に返せるほどに上達していた。
ゴバからの援軍は、ジギ城の防衛戦における『左翼の守り』を任されることとなった。
タロはセゼ王女直属の騎士ではあるが、城の中で王女の傍らに控えているだけでは戦には勝てない。有事の際までは、最前線での遊撃戦力として投入されることが決まった。
だが、夜半にもたらされた斥候の報告は、血の気が引くほどに絶望的なものだった。
押し寄せるギド帝国の軍勢は一万を超え、投入されている鋼骨騎は十体以上。
対して、ジギの防衛軍はわずか千。タロ達ゴバ国の援軍六百を合わせても、総兵力は千六百に過ぎない。数字の上では圧倒的な、壊滅的劣勢だった。
(十体以上の鋼骨騎……。きっと、あの山脈で戦った勇猛な騎士、ザガも来ているはずだ)
前回はどうにか撃退できたが、今度は向こうも大軍を率いて万全の構えで来る。果たしてこの寡兵で勝てるのか。
タロは夜の帳が下りた城の格納庫へと足を運び、月光を浴びて佇む愛機の足に手を触れた。削ぎ落とされた装甲、背中と足に移植された零戦の尾翼。
(いや、弱気になってどうする。俺が職人たちと作り上げたこの『ガル』なら、絶対に負けはしない)
「ガルって何? ガラダインのこと?」
タロの肩にふわりと飛び乗ったギギが、体内の光を不思議そうな緑色に灯して首を傾げた。
「あぁ、そうだ」
タロは愛機の鉄の肌を見上げながら、静かに頷いた。
「俺の国の、古い神話のようなものに出てくる神鳥『ガルーダ』。どこか空を統べるその鳥のような異形を、この機体から感じたんだ。だから、ガルだ」
「へぇ……カッコいいじゃん。よろしくね、ガル!」
ギギは嬉しそうに体内の光を七色に明滅させ、ガルの装甲を小さな手で優しく撫でた。
神鳥の名を冠した、鋼骨騎ガラダイン一号機改。
明日、この鉄の鳥が異世界の戦場に初陣の羽ばたきを見せる。一万の軍勢という圧倒的な絶望を前に、タロは愛機の操縦桿の感触を思い出しながら、静かに闘志を研ぎ澄ませていた。




