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ガランド戦記  作者: 拝頼人
2章:異界の騎士達
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異界の騎士達7

大戦果を挙げた騎士団の凱旋に、ゴバ王国の城内は割れんばかりの歓声に湧き立っていた。


その熱狂の中心で、ただ一人、文字通り苦虫を噛み潰したような顔で行列を睨みつけている大臣ガズド・オンの姿は、滑稽というほかなかった。謀略が完全に裏目に出たのだ。(そんなに顔に出すなよ)と、タロは心の中で冷ややかに突っ込みを入れた。


その日のうちに開かれた謁見の間で、タロの戦功に対する恩賞が言い渡された。


結果は、満場一致――正確には、ガズドの一票だけが不承不承に反対に回ったが、そんなものは大勢に影響しない。タロには正式に『上級騎士』の位が授けられた。玉座の国王も、そしてその傍らに立つセゼ王女も、これまでの張り詰めた表情を和らげ、心底安堵したような顔でタロを見つめていた。


しかし、タロは自らの栄誉を祝う豪華な祝宴を早々に抜け出し、油と鉄の匂いが満ちる工房へと逃げ込んだ。

地位や名誉など、明日をも知れぬ戦場では何の盾にもならない。必要なのは、命を預けるに足る本物の「武器」だ。


「よし、野郎ども! 最高の素材は揃った! 最後の追い込みだ!」


親方の怒号が響き、煤塗れの職人たちが一斉に動き出す。ガガ・ゲゲの腱から切り出された強靭な索が、複雑な滑車を経由して機体の隅々へと張り巡らされていく。


そして数日後。

密閉された工房の奥で、遂にその機体が産声を上げた。


――『ガラダイン一号機改』。


それは、この世界のいかなる鋼骨騎とも異なる、異形の進化を遂げた鉄の巨躯だった。

タロの要望により、余剰な重装甲は徹底的に削ぎ落とされ、限界までの軽量化が施されている。操縦席には、あの零戦の残骸から慎重に移植された高度計や速度計、そして九八式射爆照準器が鎮座していた。

最大の特徴は、その背部と脚部にある無事だった零戦の垂直尾翼がガラダインの背中に、そして水平尾翼が両脚部へとそれぞれ移植されていた。

ガガ・ゲゲの腱を用いたワイヤー操作により、これらを操縦桿と連動して細かく傾けることができる。これにより、従来の鋼骨騎には不可能だった、風を味方につけた超精密な三次元機動が可能となったのだ。


さらに、大国ギドの鋼骨機『ドル・ゾ』を迎え撃つための遠距離武装として、右腕部には大型の機械式ボウガンを増設。脚部装甲には、予備の巨矢を収めるラックが装着された。


だが、何よりも職人たちを一番泣かせ、そして驚嘆させたのは、その主兵装だった。

この世界の騎士が使うような、ただの厚い鉄板を研いだだけの鈍器ではない。タロがうろ覚えの記憶を頼りに、職人たちへ必死に伝えた日本刀の製法――折れず、曲がらず、よく切れる『鍛造』の技術。ゴバの職人たちが寝食を忘れて叩き上げたガラダイン用の大太刀は、抜けば周囲の空気を凍らせるほどの、禍々しいまでの銀光を放っていた。

これこそが、空の武人である日向太郎が求めた、極限の完成系だった。


「……やっと、出来たんだね、タロ」


ガラダインの計器盤の上に浮かんだギギが、体内の光を、どこか感慨深い藍色へと染めて呟いた。


「あぁ、やっとだな」

タロは操縦桿の確かな感触を確かめながら、小さく息を吐いた。


「この世界に飛ばされて、もう二月も経つのか……」

懐かしい日本の空、そして静の面影。一瞬だけ感傷に浸ったタロだったが、その静寂は、工房の扉を蹴り開けて飛び込んできた伝令の悲鳴によって、無残に引き裂かれた。


「急報! 急報を伝えます!」


息を切らせた兵士が、絶望に顔を戦慄かせて叫んだ。


「我がゴバの隣国にして、強力な軍備を誇っていた大国『ゲル』が……ギド帝国の総攻撃を受け、僅か数日で完全に滅亡いたしました!」


工房内の空気が、一瞬で凍りつく。


「現在、ギドの軍勢は、我が国との間にある緩衝地帯――小国『ジギ』へと進軍中! ジギの王より、我が国へ至急の救援要請が届きました! 本隊は直ちに出撃準備に入られたし!」


風雲急を告げる、最悪の知らせ。小国ジギが抜かれれば、次はゴバ王国が文字通り戦火に包まれる。

誕生したばかりの新生ガラダイン一号機改、そして上級騎士となったタロを待つのは、異世界の空を血で染める本物の激戦だった。


(――来るなら来い。俺の翼は、もうここにある)


タロは愛刀の柄を強く握り締め、完成した愛機を見つめた。ギギの光が、戦意を示すかのように鋭く明滅を始めている。


続く

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