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ガランド戦記  作者: 拝頼人
2章:異界の騎士達
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異界の騎士達3

「――大国ギドとの戦争が始まった今、我が軍には圧倒的に武具が不足している」


伝令の若い兵士は、息を切らせながらも、手にした書状を張り詰めた声で読み上げた。


「そのため、騎士団は精鋭を選抜し、北の森にて原生生物『ガガ・ゲゲ』の討伐を敢行する。完成したばかりの鋼骨騎、ガラダイン二番機を騎士団長へ授与。随行の主戦力として、騎士ゴーガ、騎士ゾガの両名をガダインに配する。さらに、騎士ゼグ、および最下級騎士タロウ・ヒムカ。以上数名に手勢五十名を加え、明日にも出立せよ。……ガズド官房大臣閣下からの、直接の下知である!」


タロは思わず、呆れを含んだ声を漏らした。


「おい、待て。何で官房大臣のガズドが、軍事のまつりごとに口を出して指示を飛ばしてくるんだ? 将軍たちや国王、セゼ王女の認可は本当にあるのか?」


タロの不躾な問いに、伝令の兵士は困惑したように視線を泳がせ、横から親方が苦々しく応じた。


「タロ、この国じゃそれが『伝統』なんだよ。会議で決まった決定事項を軍や国に下知するのは、古くからガズドの家系が握っている特権なんだ。……悔しいが、前線に武具が足りねえってのも事実だしな」


(伝統、か)

形骸化した歪な政治構造への嫌悪感が口の中に苦く広がる。ガズドの狙いは明白だ。最新鋭の二番機を団長に引き渡し、自分たちの息の掛かったゴーガやゼグを同行させ、タロを危険な前線へ放り出す。合法的な間引き。どこまでも胸糞悪い男だった。


「せめて、俺のガラダインが完成していればな……」


タロが鉄の巨躯を見上げると、肩の上のギギが体内の光を「藍色の冷やかし」へと変化させた。


「でも、完成させるためには、その怖ぁいガガ・ゲゲをやっつけなきゃいけないんでしょ、タロ? 丁度いいじゃない」


「それもそうか。全長十メートルの巨大トカゲ、か。意思の疎通ができる人間と違って、一筋縄じゃいかないだろうな……」


タロが最悪の戦場を想定して思考を巡らせていると、工房の入り口から甲高い足音が近づいてきた。


「おい、タロ・ヒムカ! 王女殿下をたぶらかす不届きな渡来人が!」


現れたのは騎士ゼグだった。相変わらず張り詰めた敵意を剥き出しにし、端正な顔を歪めている。


「我らの足を引っ張って、セゼ王女殿下のお名前を汚すような真似だけは絶対に許さんからな!」


タロはゼグの怒声に視線すら向けず、肩の上のギギとの会話を続けた。


「ギギ、北の森の地形はどうなってる?」


「さあ? 私はあんなジメジメしたところ近づかないもん」


完全に無視されたゼグは、顔を屈辱で真っ赤に染め上げ、タロの元へと詰め寄った。


「私の方が、階級が上だ! 少し剣が立つからと調子に乗るな!」


激昂したゼグの手が、タロの肩を掴もうと強引に伸びる。

その刹那、タロの肉体が反射的に動いた。

相手の突進する勢い、その力をそのまま己の右手に巻き込む。掴まれかけた手首を制し、軸足を滑り込ませてゼグの懐へと入り込む。梃子の原理を利用し、腰の回転とともに相手の重心を虚空へと放り出した。


柔術


ゼグの金属鎧が宙で一回転し、背中から練兵場の地面へと叩きつけられた。激しい衝撃の音が工房の床を揺らす。


「な……な、んだ……? 今のは……魔法か……っ!?」


地面に這いつくばったまま、ゼグは息を詰まらせ、信じられないものを見る目でタロを見上げた。この世界の甲冑剣術には存在しない、力を受け流す異世界の体術。


タロは小さく息を吐き、構えを解いた。


「いや、違う。何と言えばいいか……人間の簡単な体の構造と、力学を学べば誰でもできる護身術みたいなものだ。すまんなゼグ、つい体が反応してしまった」


タロが和解を求めて手を差し伸べる。しかし、ゼグはその手を烈火のごとく叩き落とし、土塗れのまま立ち上がると、足早に宿舎の方へと立ち去っていった。その背中には、未だに消えぬ少年のごとき意地と、底知れぬ恐怖が混ざり合っていた。


その夜。

遠征を明日に控え、タロは宿舎の私室で静かに座していた。

どうにも心が落ち着かない。戦前のこの奇妙な静寂は、かつて空母の中で出撃を待っていた夜と全く同じだった。


タロは無言のまま、机の上で十四年式拳銃を部品ごとに分解し、油を染み込ませた布で丁寧に手入れをしていた。隣には、抜き身の搭乗員刀が鈍い銀光を放っている。研ぎ石を当て、微かな摩擦の音だけが暗い室内に響いていた。


その静寂を破るように、部屋の木扉が低く叩かれた。


「タロさん、起きているかい? 少し、話さないか」


入ってきたのは、大柄な女騎士ゾガだった。その手には、この世界の粗末な酒瓶が二つ、握られていた。

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