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ガランド戦記  作者: 拝頼人
1章:銀翼の渡来人
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銀翼の渡来人11

山脈の空が、二人の武人の殺気で歪む。

ザガ・フォン・ディキテンスタインが駆る鋼骨騎『ドル・ゾ』は、まるで彼の手足そのものだった。幾多の戦場を潜り抜けてきたその連撃は、タロの想像を遥かに超えていた。


「流石に使い慣れてやがるな、あの騎士様は……!」


タロはガラダインの機動を極限まで絞り込む。全天周モニターに映るドル・ゾの動きは、洗練された一振りの名刀のようだった。


その時、ドル・ゾの腕部に装着されたバリスタが鈍い音を立てる。次の瞬間、人の胴体ほどもある巨大な長矢がタロの視界を裂いた。


「くっ!」


タロは反射的にガラダインを捻る。長矢はガラダインの頭部をかすめ、断崖の岩肌を砕いた。だが、この回避行動がタロの命取りとなる。


「しまった、位置エネルギーが!」


上昇の勢いを殺してしまったその刹那、ガラダインの背後の死角から、もう一本の長矢が放たれた。

耳を裂くような破裂音とともに、ガラダインの左腕が根元から四散した。


「ああああああっ!!」


タロは操縦席で絶叫した。腕を失った直接的な衝撃が、神経伝達を通じてタロの左肩に突き刺さる。


「タロ! しっかりして! 鋼骨騎の神経伝達は、痛覚すらもパイロットとリンクしているのよ! ダメ、無理しちゃ!」


胸ポケットから身を乗り出し、ギギが蒼い光を激しく明滅させながら泣き叫ぶ。だが、タロの耳には、その忠告すら遠く響く轟音の一部に過ぎなかった。


「……くっそ、痛ぇな……!」


「はっはっは! 渡来人よ、ここまでのようだな! 俺のこの手で、伝説を終わらせてやる!」


ザガが勝利を確信した笑みを浮かべ、巨大な騎士剣を空高く振りかざす。ドル・ゾがトドメの一撃を叩き込もうと、急降下してきた。


タロは歯を食いしばり、折れた左腕の断面から火花を散らすガラダインを強引に前へ出す。


「へっ……! 片腕でも戦えるのが、武士ってもんだぜ……騎士様よ!」


タロは右手で大剣を、あえてガラダインの重心を崩しながら低く構える。ザガの重い一撃が振り下ろされる、その瞬間。タロは敵の右目に、一点集中で剣先を合わせた。


左脚を引き、手首を柔らかく回す。

祖父に叩き込まれた剣術の理合が、異世界の鋼骨騎の中で開花する。


ザガが振り下ろした大質量の剣は、タロの剣先によって滑るようにいなされた。重い重量を受け流されたドル・ゾは、その慣性で前へと大きく姿勢を崩す。


「なっ……!?」


タロは、相手の剣を受け流したそのエネルギーを、そのまま大剣の回転力へと変えた。

片手で放たれる袈裟斬り。重力と勢いを味方につけた一撃が、ドル・ゾの左翼を完璧な軌道で切り裂く。

空中に、羽を模した鈍い鉄板の破片が雪のように舞い散った。


「ぐわぁぁっ!!」


ドル・ゾは体勢を立て直せず、山脈の谷底へ向かって墜落していく。だが、ザガは空中で強引に噴射骨を再起動させ、火花を散らしながら低空飛行で戦線を離脱していった。


遠ざかりゆくドル・ゾの中から、ザガの悔悟を孕んだ声が響く。


「……渡来人、タロ・ヒムカ……か。……その名前、忘れんぞ……!」


戦闘が終わった。

静寂が山脈に戻る。

タロはガラダインの機体を、重い動作で山道の平地へと降ろした。着地した瞬間、機体のコアから遮断されたはずの痛覚が、怒濤のようにタロの全身を駆け巡った。


「……っ……」

操縦席から這い出る力すら残っていなかった。タロはハッチを開けたまま、ガラダインの足元に力なく崩れ落ちる。

全身を襲うのは、かつて感じたことのない猛烈な倦怠感。


まるで魂そのものを絞り取られるような疲労の中、遠くでギギの震える声だけが、何度も、何度もタロの名前を呼んでいた。

(……ああ、そうか。……これが、血の昂りの、代償か……)


タロの意識は、暗い泥濘の中へとゆっくりと沈んでいった。

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