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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
91/234

21話

 

 こうして僕らは部屋出た。

 階段を下りると、そこには間宮さんたちと奏ちゃんたちがいた。


「ごめんお待たせ」

「すいません。お待たせしましたー」


 二人で簡単な謝罪をしながら合流する。


「別に時間内だし、いいわよ。それよりも九重たちよ。男二人なんだから一番早く着替えられそうなのに、何やってるのかしら」


 間宮さんはそう言って腕を組んだ。

 そのポーズすらモデルさんみたいで様になっている。

 ちなみにみんなの水着も紹介しておくと、間宮さんの水着は桜ちゃんと同じくビキニタイプで腰にパレオを巻いている。色は黒で大人の女性という感じだ。

 次に彼方ちゃん。彼女もビキニタイプの水着で腰にパレオを巻いている。色は水色で波のようなデザインだ。間宮さんや桜ちゃんの水着と違った良さがある。

 次に安藤さん。白の水着で背中やお腹の横の辺りが出るようになっているタイプの水着だ。ビキニに比べれば露出度は少ないものの、落ち着きのある大人の女性の雰囲気を醸し出している。

 最後に奏ちゃん。彼女は唯一のワンピースタイプの水着のようだ。黄色の水着は奏ちゃんのイメージに合っていてとてもかわいく見える。


「……」


 ただ、奏ちゃんはなぜか不機嫌そうだ。


「……どうかしたの奏ちゃん?」

「……なんでもないわよ」

「何でもないことはないと思うんだけど……」

「何でもないったらなんでもないのっ!」

「そっ、そうなんだ。ごめんね。僕の勘違いだったよ」


 絶対に勘違いではないけれどここは一度引いておくことにした。

 こんなことで詰まらないケンカをしたらせっかくの楽しい計画が最初から破綻してしまう。

 それだけは避けなければならない。


「佐渡様」


 僕が少し奏ちゃんと距離を取っていると安藤さんが小声で話しかけてきた。


「どうかしましたか?」

「あの、お嬢様の件なのですが……」


 安藤さんがみんなには聞こえないくらい小さい声で事の真相を教えてくれた。


「……あー。そういうことでしたか」

「……はい。どうにかしていただけませんでしょうか? さっきから口も利いてくださらなくて……」

「わかりました。何とかしてみます」


 奏ちゃんが不機嫌な理由がわかった。

 安藤さんがすべて教えてくれた。

 その理由はどうやらあのワンピース型の水着にあるらしい。

 どうやら最初は奏ちゃん自ら選んだ水着で今日を迎えるつもりだったらしい。

 その水着というのが、ビキニタイプの水着だったそうだ。

 それくらいなら少し大人になりたいだけの普通の女の子のような感性だった。僕と一緒に暮らしてた時もそういうことがあったし、その気持ちもわからないことではない。

 僕だって小さいときは早く大人になりたかった。

 しかし、問題は別にあった―――


 Lサイズ


 奏ちゃんの選んだ水着のサイズだ。

 どうやら大人っぽさを重視した見た目だけで選んだらしく、試着をしなかったらしい。そして運悪く、その時に安藤さんは別の仕事に就いていてその場にいなかったらしい。

 安藤さんが仕事から奏ちゃんのところへ戻ってみると、そこには購入済みのLサイズの水着。

 それが昨日の出来事だったそうだ。

 流石にいきなりだったので安藤さんも同じデザインの奏ちゃんに合ったサイズを用意することができなかったらしく、このままでは奏ちゃんが泳げない。楽しめないと思い、こっそり夜中に水着を変えたそうだ。

 それが今のワンピースの水着。

 正直、ビキニタイプの水着より絶対に似合っていると思う。

 僕は安藤さんに頼まれて引き受けた手前、何もしないということはできないので、再び意を決して奏ちゃんに話しかける。


「その水着すごく似合ってるね」


 早速さっきの桜ちゃんとの特訓? の成果が出た。

 噛むこともなく、変に肩ことになることもなく、いつも通りの自然体で褒められたはずだ。


「……本気で言ってるの?」

「う、うん」


 こちらを向いてくれたと思ったらすごい目で睨まれたので一瞬怖気づく僕。

 奏ちゃん……その眼は女の子がする目じゃないよ……


「奏ちゃんに似合ってる。どんな服でも着こなせちゃうなんて奏ちゃんはすごいよ。これなら前にサイズが合わなくて買うのを断念した服を着れる日も近いかもしれないね」

「ホ……本当っ!? あの服が着れる日も近いっ!? ふふふ……私もまた少し大人になってしまったようね。少し気に入らないけど、天王寺家の人間たる者どんな服でも着こなさないといけないわ。今回はこの水着で我慢してあげる」


 半分本心とはいえ、半分は嘘なのでここまで喜ばれるとさすがに心が痛い。

 ちなみに本当の部分は似合ってる。どんな服でも着こなせちゃうというところだ。

 嘘の部分はおそらく本人的には一番嬉しかったであろう、あの服が着れる日も近いというところだ。

 いくら子供は成長が早いとはいえ、二、三か月で大人になれれば苦労はしない。

 ごめんね。奏ちゃん

 心の中で奏ちゃんに土下座をした僕だった。




 それから少しして翔君たちがやってきた。


「……どうしたのその格好?」


 二人がやってきたのはよかった。翔君は普通の海パンを履いていて、僕とは違って少し筋肉質なので海パン姿もよく似合っていた。

 広志くんの方はと言えば……すごい不自然な格好をしていた。

 他のみんなも口には出さないけど、きっと僕と同じような感想を抱いているはずである。

 彼方ちゃんに至っては呆然としている。


「……山中……さっさと着替えてきなさい」


 間宮さんが冷たい視線と声で広志君に命令した。


 他のみんなも首を一斉に縦に振る。

 振らなかったのは僕と呆然としていた彼方ちゃんくらいだ。

 ちなみに僕も呆然としていて首を振らなかっただけで、今の広志君の格好で海に行くのは全力で止めたい。


「だから言ったじゃねぇーか山中。絶対に間宮に止められるぞって。他のみんなだってスゲー目でお前のこと見てるぞ」


 翔くんが間宮さんに続いて広志君を部屋に戻そうとする。


「なっ、何を言ってるでありますかっ。私はただこの広い砂浜と海で、サバゲーの練習をしたいだけなのでありますよっ。これのどこがいけないのでありますか!」


 意見を曲げまいと主張をする広志くん。

 今の広志君の格好はよくはわからないけど、たぶん軍隊とかの水中訓練かなんかの服だと思われる。

 簡単に言ってしまえば軍服だ。下も海パンではない。

 しかも背中に酸素ボンベのようなものまで付けている。本物だとしたらすごい。


「……あんたねぇ。そんな格好で泳ぐつもりなの?」

「もちろんでありますよ間宮司令官」

「誰が司令官よっ」

「間宮殿でありますよ?」

「一旦死んで来なさい。そして生き返ってもう一回死んで来なさい」


 ……広志くん二回死ぬんだ。


「そ、そんなあんまりでありますよ」


 流石にショックを受けた様子の広志くん。

 これはいつもの流れで少し可哀相だけど広志君が普通の会パンを履いてくれるのなら僕はここは心を鬼にして黙っていよう。


「……わ、私はその服山中さんに似合ってると思います……よ」


 天使が降臨した。

 彼方エンジェルが山中君に救いの光をもたらした。

 流石天使彼方ちゃん。こんな時でも優しい。

 でも、やっぱり少し抵抗があるのか目は広志君方を向いておらず、泳いでいた。


「本気で言ってるの水無月? 本気ならあんたの感性を疑うところよ。天王寺家専属の精神科の医者でも呼んであげましょうか? あと山中、あんたさっさと着替えてきて。時間の無駄なのよ」


 それに対して、悪魔のような言葉を返す奏ちゃん。

 でも、今回ばかりは怒るに怒れないところもある。


「くっ! そこまで言うなら実力行……」

「実力行……なんですか? 山中さん?」

「……」


 銃のようなものを取り出そうとした山中君を行動する前に動きを止めた。桜ちゃんと安藤さん。

 桜ちゃんが広志君の足を素早く払い、安藤さんがそのことを予測していたとばかりに体勢を崩した広志君の腕を後ろにに練り上げた。

 しかも桜ちゃんも山中君の背中を足で踏んで起きれない様にしている。

 これが天王寺家のメイドの条件だとしたら、僕は絶対に天王寺家の執事にはなれない。


「な……なんでもないでありますぅー」


 情けない声を上げて降参を示す広志くん。

 でも、その気持ちはよくわかる。だって桜ちゃんは笑ってるけど、なんか怖いし、安藤さんも無言だからこその迫力がある。

 僕ならあれだけでショック死できるだろう。


「そうですか。それはよかったです。でも危ないのでこの道具一式は全部あずからせてもらいますね」


 笑顔で広志君の軍隊用バックをもぎ取る桜ちゃん。


「一応部屋の中も確認させていただきます。お嬢様や皆様にもしものことがないとも限りませんので。失礼ですが九重様、お部屋を少し拝見させていただきます」

「おう。いいぜ。ってか、山中のヤツ変なもんたくさん持ってきてるから全部回収してくれよ」

「承知いたしました。迅速に対処に当たらせてもらいます」

「まかせたぜ」

「そ、そんな殺生なっ!」

「山中は黙りなさい」

「桜、あなたは今ここで回収したものを私と奏お嬢様の部屋まで運んでおいてください。私は部屋を見てきます」

「わかりましたメイドちょ……安藤さん」


 すごいコンビネーションだ。

 まるでお互いが何を求めていて、どう行動したらいいのかわかりきっている動きだ。

 ただ少し気になることはやっぱり桜ちゃんが天王寺家のメイドとしてではなく、ただのお手伝いとして行動していることだ。

 変にギクシャクしていないことだけが救いだが、このままではまずい。

 安藤さんと桜ちゃんがいなくなったのを確認してから僕は奏ちゃんにある相談を持ちかけた。


「ねえ奏ちゃん」

「なによ佐渡。もしかして天王寺家に仕えたくなったの? 佐渡なら私専属の執事兼コックとしていつでも歓迎するわよ。もちろんいい待遇で」

「……あはは。うれしいけどその話はまた今度で……」


 まだこの話残ってたんだ。


「……そう……それでそれ以外の話ってなんなの?」

「それなんだけど……」


 僕はここにいるみんなにも奏ちゃんと桜ちゃんとの関係修復を手伝ってもらおうと提案した。

 そして僕がその関係修復をこの海に行こう計画に賭けていることも。

 すべてを話した。


「……そうね。わかったわ。それに佐渡だけに押し付けてたのも悪いと思ってはいたし、ここにいる佐渡の仲間なら……私も信用できるわ」


 照れくさそうに頬を赤く染めながら奏ちゃんはそう言ってくれた。


「ありがとう奏ちゃん。絶対にこの計画中に二人の仲を元に戻してみせるよ」

「期待しないで……なんて言わないわよ。期待して待ってるわ」

「任せて」

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