11話
「……って事があって……うれしかったけどさすがに恥ずかしかったよ」
「あははっ。そりゃー傑作だな誠也。まあ、彼方ちゃんみたいな可愛い子にそんなこと言われたらたまらないわな」
「彼方ちゃんもすごいわね。私なら絶対に無理よ。もし、そんなことしたならその場で恥ずかしくて死んでるわ」
「現実でもそんなことがあるとは……やはり天然はおそるべし……」
彼方ちゃんの家を桜ちゃんと訪問した次の日、僕は翔くんや間宮さんたちと夏休みの海に行こう。計画についての話し合いのために集まっていた。ちなみに桜ちゃんは誘ったのだが、メイドですので、ご主人様の居ない間に部屋の掃除をさせていただきます。と丁寧に断られた。気にしなくてもいい。と言ったのだが、「ダメですっ! 私は奏お嬢様に認められるようなメイドになるんですっ!」と、強引に意見を押し通された。
まあ、僕としても、その意見はまちがっていないと思ったので、今回は僕が折れることとなった。
そして現在に至る。すぐに計画の話し合いが始まることなく、普段の楽しい話をしている中、僕が桜ちゃんともことをみんなにも話しておこうと話を切り出し、口が滑って昨日のことを話してしまった。
みんなの反応は見ての通り、翔君がおかしそうにお腹をかかえて笑い、間宮さんも翔君ほどではないほどのいつもは滅多に見せてくれないほどの笑顔で笑い、広志君は笑ってはいなかったが、何か僕にはわからないことを考えていた。
「それにしても本当に仲がいいわね。佐渡と彼方ちゃん」
「そうかな? 普通くらいだと思うけど……」
「いやいやー。あれを普通とは言わねえよ誠也。俺たちから見たらただのカレカノだぞ。お前たちの関係」
「……カレカノ?」
僕は翔君の使った言葉の意味がわからなかったので、翔君の言葉をそのまま繰り返した。僕は高校を卒業してすぐにこちらに住居を移した。それは翔君も、間宮さんも、広志君も同じだ。同じ高校だったのだから当たり前なのだが、その割にはこっちでの知識量には差があった。それこそ、天と地、月とスッポンのぐらいに大きな差が……
みんなはすぐにこっちでの生活に慣れたようだった。しかし僕は全然慣れることはなく、しばらくの間、簡単に言ってしまうと鬱だった。
たぶん翔君たちがいなかったら、僕は大学を止めて、田舎に、実家に帰ってしまっていただろう。もし、そうなっていたら彼方ちゃんと僕が出会うこともなく、奏ちゃんと僕が出会うこともなく、桜ちゃんとも出会うことなく、翔君たちとも疎遠になっていたことだろう。今思うと、すごく怖い未来だ。
「……って意味だよ。わかったか誠也」
「えっ? ごめん、聞いてなかったや……」
僕の悪い癖のおかげでまたしても話を聞きそびれてしまった。せっかく翔君が説明してくれていたのに、本当に申し訳ない。
「なんだよー。せっかく説明してやったのにー」
「……ごめん翔君」
僕が完全に悪いので謝った。
すると翔君はいつものようにさわやかに笑って、「まあ、いいけどな。もう一度説明してやるから今度こそ頼むぜ」と、僕を許してくれた。
「その前に佐渡。また考え事してたでしょ? 今度は何? さっき言ってた桜ちゃんのこと?」
どうやら僕が悪い癖を発症させていたのを間宮さんは見抜いていたらしい。この前も見抜かれていたし、間宮さんには完全に見抜かれてしまうようだ。
「考え事の方はあってるよ。でも、桜ちゃんのことじゃないよ。確かにどうすればいいか正直わからないけど、今回は急ぐようなことでもないし、ゆっくりやっていくつもり」
今回の桜ちゃんと奏ちゃんとのことは今までのように時間制限のようなものがない。彼方ちゃんの時はなるべく早めに解決しなければならない状況だったし、知らなかったとはいえ、彼方ちゃんのお父さんとお母さんは大変な状況にあった。知らなかっただけで制限時間は確かにあった。奏ちゃんの件も彼方ちゃんの件と同様に制限時間のようなものはあった。正確な時間が決まっていたわけじゃなかったけど、なるべく早めに解決しなければいけない内容だったし、向こうが僕の家を特定し、最終手段として乗り込んでくるまで、もしくは外に出ている際に捕まるまでという具体的な制限時間があった。
しかし、今回は違う。なるべく早めに解決しなければならない内容であるのは今までと同じだが、今までのような危険性もないし、具体的な制限時間はない。なのでゆっくりと着実に話を進めることができる。
だからと言って僕は甘えるようなことはしないつもりだ。時間があるから大丈夫という考え方は危険だ。いつまでも進まない危険性がある。それに早く奏ちゃんと桜ちゃんの仲を元通りに、いや、昔のように戻してあげたい。
「そうなんだ。なら何を考えてたわけ?」
「そのー……こっちに来たばかりの時のことを少しね」
「どういうことでありますか教官?」
どうやら今回の広志君の中の僕の設定は教官らしい。なんの教官なんだろう。
「いやさ。あの時は不安だったなって。それにこっちに来て結構経つのに、僕はみんなに比べてこっちの流行みたいなのに疎いなって思って……」
「なーんだ。そんなことかよ誠也」
「えっ?」
「あのね佐渡。別に私たちだって流行に敏感なわけじゃないのよ。それに佐渡は今のままがちょうどいいわよ」
「そうでありますな。教官はそのままでいいでありますよ。困ってる人を無意識に助けちゃうくらいがお似合いであります」
「……みんな」
どうやらみんな曰く、僕は今の僕のままでいいらしい。
みんなが言うのならきっとそうなのだろう。
「まず、こっちに来たからってこっちの生活に全部合わせるってのが無理なんだよ。ある程度はこっちが合わせるにしてもさ」
「そうね。私も確かに田舎居た時よりはファッションとか興味持ったけど、そこまで気にしてるわけじゃないし……」
「俺に言わせりゃあ、間宮の場合は性格はともかく見た目は良いからもったいない気がするけどな」
僕も一部を除いては翔君の言うとおりだと思う。もちろん一部を除いたのは性格はともかくというところだ。間宮さんは綺麗だし、気が利く。田舎にいたころの高校でも同じ制服を着ているはずなのに、他の女生徒より大人っぽく見えた。
「ちょっと九重それはどういうことかしら?」
「だってよ。間宮って少しなんつーかな。無愛想っていうか、俺ら以外の友達がいなそうというか……」
それは僕も思ったことがある。高校の時から間宮さんは僕達以外の誰か特有の友達を持っている様子がなかった。僕は別に友達が少ないことを悪いことだとは思っていない。が、心配なのはそれとは別の話だ。僕達は間宮さん以外全員男だ。今では彼方ちゃんや奏ちゃん。桜ちゃんに安藤さんといった女性の知り合いも増えたが、みんな僕らとは年がちがう。離れすぎている訳ではないものの、やはり同い年の友達も一人くらいいてもいいのではと思う。
「ま、まあ。確かに完全に否定はできないわね……」
「だろ? 別に俺だって間宮の悪口を言いたいわけじゃないけどよ。俺ら全員男だろ? 少し、その、なんだ。心配……なんだよ」
そう言って翔君は顔を間宮さんから背けた。照れているのかもしれない。
「へえー。驚いたわ。佐渡ならともかく九重からそんな風に思われていたなんて……」
「お、俺だって俺なりに周りを見てるんだっつーのっ」
「ふふっ。心配してくれてありがとう。佐渡もね。でも大丈夫よ。友達ってほどじゃないにしろ、講義で話したりするぐらいの付き合いの子はいるわ」
んっ? なんで今間宮さん僕にもお礼を言ったのだろう。もしかして口に出していないだけで顔に出ていたのかな? 間宮さんは僕の悪い癖を見抜くことができるくらいだからそのくらいのことはできるかもしれない。
「そ、そうか。ならいいけどよ。なんかあったら相談くらい乗るぜ。なっ! 誠也」
「うん。もちろんだよ。僕にできることならなんだって協力する」
「自分もでありますぞ間宮殿っ」
「なに山中。あんたまで心配してくれるの?」
間宮さんが再び驚いたように今度は広志君の方を見た。
「当たり前でありますよ。我々は苦楽を共にした仲間ではありませんか。楽しいことも辛いことも分け合いましょうぞ」
広志君はそう言うと笑った。
「……山中」
「なんでありますか?」
「……気持ち悪いわ」
「なぜっ!?」
「いやだってね。九重はこの前の奏ちゃんの件で窓を割ったときとかに、意外と周りを見てるとか思ったけど、あんたはいつもふざけた冗談言ったり、行動を取ったりばかりじゃない? 1だからなんかいきなり真面目なことを言われるとなんか……キモいわ」
「……」
広志君が目に見えるほどに落ち込んでしまった。下を向いて、負のオーラのような黒いものが漂っているように見える。
「……間宮さん……さすがに言いすぎなんじゃ?」
さすがに広志君が可哀相だったので広志君に助け船を出す。
でも、間宮さんは僕が言うまでもなく、広志君の状況を見て、言い過ぎたと思っていたらしく、少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「え、ええ。さすがに言い過ぎたわ。ごめんなさいね山中」
「いいんでありますよ。普段の我がいけないのでありますから……」
今回のは真面目なことを言って否定的な事を言われたからなのか広志君の落ち込み方がいつにもましてひどい。いつもならここで仲直りして終わるのに。
「だからごめんなさいってば。そうだ。この前の屋敷の中でサバゲー仲間だっけ? 連れてきてくれたときはかっこよかったわよ」
「ほ、本当でありますか?」
「ええっ。今までで一番かっこよかったわよ!」
「おおーっ!!」
どうやら広志君のやる気と元気は戻ったようだった。




