9話
それから少しして桜ちゃんと彼方ちゃんからの有難いお説教が終わり、彼方ちゃんのお母さんが戻ってきた。
「ごめんねー。遅くなっちゃって……どうしたの三人とも?」
戻ってくるなりそうそう彼方ちゃんのお母さんが驚いた顔をした。でも、それもまあ頷ける。
僕だって戻ってきていきなりこんな状態の人を見たら、こういう反応をするだろう。もしかしたら呆気を取られて無言で立ち尽くすかもしれない。
そしてどうして彼方ちゃんのお母さんがこんなに驚いているのかというと、もちろん僕たちに原因がある。
どういうことかというと、僕は現在さっき桜ちゃんの言った罰を受けている。そしてその罰というのが―――
―――僕の膝に座るというものだった。
あの後すぐに罰だと言って桜ちゃんが僕が避ける暇も与えずに膝に座った。恥ずかしさのあまり逃げようとしたら、抱きつかれて逃げたら抱きつき続けます。と言われて僕は何もできなくなった。
はずかしさのあまりに顔を真っ赤にしながら罰を受けていると、桜ちゃんが彼方ちゃんも一緒に僕の膝に座ろうと誘った。
心の優しい彼方ちゃんなら僕の嫌がることはしないだろうと、安心していたら、「……罰ですもんね。……お、おじゃましますっ」と、桜ちゃんが片方開けた僕の膝に座った。
それが彼方ちゃんのお母さんが見ている今の僕たちの光景である。
「あ、あはは。そのー、ははは」
適当に笑って流すことにした。
流石に、二人を怒らせた罰で二人を膝に座らせています。だなんて恥ずかしくて言えたもんじゃない。
悪いのは僕だったけれど、やっぱり恥ずかしい。
「佐渡さんはー。私たちを怒らせたので、その罰を受けているんですよー」
隠し通そうとしたのに桜ちゃんがばらしてしまった。
しかし、まだ肝心の部分は明かされていない。まだ、大丈夫だ。
それにしても、もうそろそろ、この罰を終わりにしてもらいたい。さっきから桜ちゃんが動くたびに綺麗なピンク色の長髪が花を掠めてくすぐったかったり、彼方ちゃんの髪からいい匂いがしたり、桜ちゃんの女の子特有の部位が当たっていたりと、とにかく死ぬほど恥ずかしい。
「あらそうなの。彼方ー。よかったじゃない佐渡さんの上に座れてー」
彼方ちゃんのお母さんがさっきのような悪戯な笑みを浮かべて彼方ちゃんに話しかけた。
「……」
「んっ? 彼方?」
しかし彼方ちゃんからの返答がない。
僕がどうしたことかと、少し無理な体制をして彼方ちゃんの顔を覗き込む。
すると、そこには顔を真っ赤にして固まっている彼方ちゃんの姿があった。さっきからずっと黙って座っていると思ったらこういうことだったのかと、納得した。
それにやっぱり彼方ちゃんも恥ずかしかったようだ。まあ、彼方ちゃんも恥ずかしがり屋だし、当たり前と言ったら当たり前だった。
「……桜ちゃんもうそろそろ……」
「えーっ! まだ座ったばかりじゃないですかー。もうちょっと座らせててくださいよー」
「でも、彼方ちゃんも恥ずかしそうだし、ねっ?」
僕がそう言うと桜ちゃんは彼方ちゃんの方を少し見てから「仕方ないですねー」と、退いてくれた。
少し強引な所があるけど、桜ちゃんも基本的に優しい子なのだ。それにその少し強引な所もみんなを笑わせてくれたり、楽しませたりしてくれるので、いい意味で少し強引、という感じだ。
「佐渡さんすいません。……私も調子に乗り過ぎました」
彼方ちゃんも桜ちゃんの後に続いて僕の膝から退いた。
桜ちゃんは特に気にしたこともない様子だが、彼方ちゃんは未だに顔をリンゴのように真っ赤にしている。
といっても僕も同じくリンゴのように顔を真っ赤にしているんだろうけど。顔もなんか熱いし。
「いいんだよ。元はと言えば僕が悪いんだしね」
なるべく彼方ちゃんが気にしないように声を掛けておく。今言った通り悪いのは本当に僕だし。
「そうですよー水無月さん。佐渡さんがあんなこと言うのが悪いんですっ」
桜ちゃんも僕の意見に賛成してくれた。、少し心が痛いけど、正論なうえ彼方ちゃんを気遣っての言葉なので、特になにか言うこともない。
「でも……少しやり過ぎてしまいました。すいません。佐渡さん」
そう言って彼方ちゃんは僕に頭を下げた。
「彼方ちゃん頭をあげてよ。本当に悪いのは僕だったんだし。それでもって言うならお互いが少しずつ悪かったってことでお互い様ってことにしよう。ね?」
僕は妥協案として一つの案を提案した。実際問題では僕は全部悪いわけだけど、彼方ちゃんは心から優しい子なのできっとそれを認めないだろう。実際、僕と桜ちゃんが二人で彼方ちゃんは悪くないと言っているのに、彼方ちゃんは自分も悪かったと言っている。本当に優しい子だ。
だからそんな優しい彼方ちゃんを納得させる方法は一つしかない。お互いの妥協案を提案すること。お互いが少しずつ悪かったということにすることだけだ。
僕としては誠に不本意ではあるが、彼方ちゃんが完全に悪いということにはしたくないので、ここは僕が少し妥協しておく。
「もーっ。これじゃあ謝ってない私だけ悪者みたいじゃないですかーっ!」
「そんなことないですよ。悪いのは佐渡さんに罰を与えるって提案を止めなかった私の責任です。あなたは悪くないですよ」
「そうだよ。桜ちゃんは悪くないよ。もちろん彼方ちゃんもだけど、悪いのは僕……」
「あーっ!。わかりましたっ。この件はみんな悪かったですっ。すいません佐渡さん私も調子に乗り過ぎました。だから謝らないでくださいっ」
「で、でも……」
「止めてください佐渡さんっ。このままじゃ話が終わりません。それよりほらっ。水無月さんに話があるんですよね。早く話しちゃいましょう」
会話を強引に切り裂いて、桜ちゃんは最初に座っていた椅子に座った。彼方ちゃんもおずおずといった様子で元の椅子に座り、彼方ちゃんのお母さんは僕らのやり取りを面白そうに見ている。僕もこのまま立ち尽くしていてもどうしようもないので椅子に座った。
「それで彼方に話ってなんなの佐渡くん?」
椅子に座ってからの少しの沈黙を破ってくれたのは以外にも彼方ちゃんのお母さんだった。僕はこの機に口を開いて話しの糸口をつかむことにする。
「はい。あのさ彼方ちゃん。夏休みに僕と翔君たちと奏ちゃんたちみんなで海に行こうって話になってるんだけど。一緒に行かない?」
「海……ですか?」
「……嫌だった?」
彼方ちゃんの反応が少し予想と違って薄かったので少し不安になる僕。隣を見ると、桜ちゃんも少し意外そうな顔をしている。
「そ、そんなことないです! 行きたいです! 一緒に行かせてください!」
「本当にいいの? もし嫌なら無理しなくても……」
彼方ちゃんは少し自分の意見をみんなの空気を読んで言わない時がある。一応もう一度確認しておく。
「ホントに大丈夫ですっ!」
今度はテーブルに手を付いて身を乗り出しながら彼方ちゃんがそう言った。どうやら本心から行きたくないわけではないようだ。むしろこっちが驚くくらいの勢いで賛成された。
「そう? ならよかった。詳しい日時はまだ決まってないから決まったら連絡するよ。彼方ちゃんも都合の悪い日があったら遠慮なく言ってね」
「はい、わかりました。
こうして奏ちゃんに続き彼方ちゃんの海に行こう企画の参加が決まった。




