23話
人ごみをかき分け、翔君たちの姿を探す。周囲には僕らと同じくお花見をしに来ている人がたくさんだ。こんな時間からお酒を人でいる人、走り回っている子供、まったりと談笑している老人、様々な人が今日という日を楽しいんでいる。
「どこかなー。混んでいるとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ」
「早く見つけなさい。私もう疲れたしお腹が減ったわ」
「んー」
奏ちゃんの気持ちはよくわかるのだけど、全然翔君たちが見当たらない。電話をかけてもこれだけの人がいて電波が悪いのか、電話が繋がりにくいようだ。そんな時天使のような声が耳に届いた。
「さわたりさーん! ここでーすっ!」
声のする方に目を向けると、知らない人の頭の上から彼方ちゃんらしき手が見えた。ジャンプもしてくれているのか時々顔も見ることができる。
「奏ちゃんあっちだ」
「言われなくてもわかってるわよ」
他の人たちの邪魔にならない様に注意しながらどうにかみんなの居るところまで来ることができた。
「おせーぞ誠也っ。奏でちゃんも大変だったな」
僕の姿を見るなり、翔君が勢いよく立ち上がり肩を組んでくる。
「話は聞いたわ。二人とも大丈夫だった?」
間宮さんは心配してくれた。
「主君、なぜ我に連絡をくれなかった。連絡さえくれればすぐに駆けつけて、拙者の体術をもって撃退したというのに……でふっ」
広志君もいつもの調子で話しかけてきてくれた。ちなみに最後のはいつものように呆れた間宮さんが広志君の足を掛けて転ばせたときに出たうめき声だ。やっぱり二人は仲がいいな。
「大丈夫でしたか佐渡さん。奏ちゃんも。私、別れてから心配で心配で……」
そして彼方ちゃんも今にも泣きだしそうな目になりながら心配してくれた。
「そうだぜ。彼方ちゃんずっとお前の名前呼びながら「大丈夫かな、やっぱり私も残った方が、って」それはもう逆にこっちが冷静になっちゃうくらい心配してたんだぜ」
「こっ、九重さんっ。そんな恥ずかしいこと言わないで下さいよー。佐渡さんっ。今のはですね九重さんの話が少し大げさなだけで、いえ、でも決して心配してなかったというわけでもなく、えっと、えっと……」
「はははっ。大丈夫だよ。それくらい僕らを心配してくれてたんだよね。嬉しいよ。ありがとう。」
「佐渡さん」
それに翔君の言っていることはたぶん本当だ。彼方ちゃんは本当に優しい子だ。だから僕らのことをそれくらい心配してくれていてもおかしくはない。
「それじゃあ。お花見はじめっかー」
翔君の号令のもと楽しいお花見が始まった。
「ふぃい。もういい時間だな」
「そうね。ここらでお開きかしら」
楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまう。思わぬトラブルで開始時間が遅れてしまってはいたものの、僕らはここで五時間という時を過ごした。なのに、気分的にはまだ一時間も経っていないような感じだ。
少しみんなに心を閉ざしていた奏ちゃんも今日で少しはみんなと打ち解けられたのか、少しずつとはいえ僕を介さずにみんなと話せていた。特に年が近いからなのか彼方ちゃんとは特に会話が弾んでいたようだ。そこには僕にもあまり見せてくれないような笑顔があったりもした。
翔君たちともぎこちないものの、話はしていたし、最後の方には変なことを言う広志君を、間宮さんと一緒に蹴ったりもしていた。
奏ちゃんとゴミを捨てに来た僕は気になって聞いてみた。
今日が楽しかったか、みんなと話してどうだったか、みんなと手分けして準備して楽しかったか、すべての意味を込めて聞いた。
「どうだった。奏ちゃん」
「そうね。つまらなくわなかったわよ。いつものお金持ちが集まるパーティーよりは楽しかったんじゃない」
「そうか。それはよかった」
「ねえ。佐渡」
「なにかな」
「なんであんたの周りの人はこんなに暖かいの? どうしてこんな気持ちになるの? 」
少し遠くを見ながら奏ちゃんが僕に質問を投げかけた。
「私わね。パーティーなんてつまらないと思ってた。お父様は構ってくれないし、つまらないとは思っても楽しいとは思わなかった。他の子とも遊ぶ気になれなかった。だから私はいつも桜と二人でいた。桜がいないときはいつも一人だった。ねえ、佐渡。この気持ちはなに?」
たぶん。僕はさっきの質問の答えも今の質問の答えも知っている。
その気持ちはたぶん―――
「その気持ちは楽しいって気持ちだよ。みんないて楽しくて、みんなと話して楽しくて、特に何もしていないのに楽しい。奏ちゃんは今、楽しいんだ」
「楽しい? 私が?」
「うん。まだお花見を終えたくない、楽しいからやめたくない。きっと今奏ちゃんの中にある気持ちの正体は、楽しいことをもっとしていたいって気持ちだよ」
「ふーん。そっか。私楽しいんだ。パーティーなんて嫌いなはずの私がパーティーが楽しいんだ。これが楽しいなんだ」
腕を大きく広げ、茜色に染まる空を見ながら、奏ちゃんは自分の新しい気持ちに気づいた。ゲームセンターの時も確かに楽しかったかもしれない、今までも楽しいことはあったかもしれない。でも、きっと奏ちゃんにとってパーティーが楽しかったのは初めてなのだ。
奏ちゃんが今まで体験してきた大きなパーティーでは決してない。豪華な食べ物も出ないし、すごい出し物もない。人も多くないし、規模だって小さい。それでも楽しかったのだ。このパーティーが、みんなでやったパーティーが。
「佐渡、また楽しいことあるかな」
「あるよ。ないなら作ればいい。また一緒になにかやろう。奏ちゃんの誕生日とかもみんなでパーティーしよう。みんなで笑おう。みんなで楽しもう」
「そうね。でも、佐渡、私へのプレゼントは簡単じゃないわよ。つまらないものだったら承知しないから」
「はは、それは大変そうだ」
二人で茜色の空を見ながら、いつか行われる奏ちゃんの誕生日を
待ち望んだ。
「ゴミ捨てお疲れでござる主君。奏殿」
ゴミ捨てから戻ると、あらかた片づけは終わっていた。さっきまで並べられていたお弁当箱は片付けられ、レジャーシートも畳まれ、使ったグッズもまとめられ、それらすべてがお花見の終わりを物語っていた。
「奏ちゃん。どうだった? 楽しかった?」
彼方ちゃんも僕と同じことが気になったのだろう。全く同じ質問を奏ちゃんにぶつけた。他のみんなも気になるのか、彼方ちゃんのすぐ後ろで奏ちゃんの返事を笑顔で待っている。
「どうなんだ。お嬢様」
「どうだった。奏ちゃん」
「どうでござったか。奏殿」
みんなからも同じ質問をされる奏ちゃん。
すると奏ちゃんは困ったように顔を逸らしながら、夕日のせいなのか、それとも恥ずかしいからなのか、頬を少し赤らめて
「た、楽しかった。よかったらまた一緒にパーティーしてほしい」
小さな声でそう言った。
「やっふー。それはよかったぜー」
翔君が飛び上がった。他のみんなも奏ちゃんの答えを聞いて安心したのか喜んでいる。
「また一緒に何かしようね。奏ちゃん」
「き、気分が乗ったらね」
奏ちゃんと彼方ちゃんが手を繋ぎながら新たな約束をした。
「それじゃあ今度こそ本当に帰るか。このままじゃ帰るに帰れねえ」
「ちょっと待って僕トイレ行ってくる」
「なんだよ誠也。早くしてくれよ。またパーティーしたくなっちゃうからな。なー。奏ちゃん」
「う、うるさいっ。そんなことないわよ」
「はははっ。なら急がないとね」
少し足早にトイレを目指す。すぐにトイレは見つかり、時間も時間だからなのか並ぶことなくすんなりと用を済ませた。手を洗い、外に出ると、そこには思いがけない人が立っていた。
「あのー帰ったんじゃないんですか? 桜さん。安藤さん」
「会いたくて会いに来ちゃいましたー」
愛くるしい笑顔で桜さんが僕に抱きついてきた。いきなりのことに僕が戸惑っていると、安藤さんが桜さんの首元を掴み、僕から引きはがした。人懐っこい性格なのはいいのだが、少々コミュニケーションの取り方がすごすぎる。
「桜が申し訳ありません。それでは本題に入らせていただきます」
安藤さんが腰のあたりまできれいな姿勢で頭を下げてから。本題と入ると、口を開いた。
「明日から、お嬢様、つまりは佐渡様の追手の数が増えます。正直、今までのように簡単には逃げられません。そこで明日からは私たちがサポートさせていただきます」
「サポート? どういうことですか」
「奏お嬢様のお父様である源蔵様がお怒りになられまして、捜索隊の人数と時間が大幅に増加されました。そしてそれと同時に私たちが執事とも連絡を取り合い、本拠地から現地部隊へ連絡を取ることで捕まえる確率を上げようという話になりました」
「それで私たちは本拠地で二人になれるので上手くメイドと執事の位置を動かして佐渡さんたちの逃げ道を作るの。もちろん逃げ道は私が指示するからねー。だから携帯は常に持ち歩いてね。今も持ってる?」
「うん。ここに……」
そう言って僕はポケットから携帯を取り出した瞬間、いつもの間に接近してきていたのか、桜さんに携帯を取られた。
「あー。この前の番号登録してないじゃないですかー。登録しときますねー」
「す、すいません佐渡様」
「いいですよ。登録してなかった僕も悪いですし」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる安藤さん。なんだかこっちまで申し訳なくなってくる。
「はーい。登録しときましたー」
「ありがとう桜さん」
「あー。あと、私のことは桜でいいですよ。私高二ですし、またはお嬢様みたいにちゃん付けでお願いしまーす」
「わかったよ桜ちゃん。これでいいかな?」
「はーい。オーケーでーす」
「それでは失礼いたします」
「まったねー」
二人はどこかに車でも止めてあったのか、僕の向かう方向とは逆の方向に歩いて行った。僕もみんなの元へ戻るべく安藤さんたちと逆の方向のに歩きはじめる。




