必勝の冒険者
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
「茉莉亞、起きろ。遅刻する」
「ん~、起きてるってばぁ~」
ベッドで"SMAHO"をいじりながらゴロゴロしていたマリアは、部屋に入ってきたフェリスに"SMAHO"を見せる。
「ね、フェル! 今朝のMoogleのトップニュース見た? 王都の近くに新しいダンジョンが見つかったんだって~♪」
「どうせお前はダンジョン攻略は行かねえだろ。そんなニュース見てないで早く起きろ」
「わたしは行かないけど凛は行くでしょ~、きっと♪」
この世界には『冒険者』という職種がある。
世界各地に突発的に発生するダンジョンを知略と体力をもって攻略し、最奥に隠されたお宝を持ち帰ることができれば一攫千金だ。
当然ダンジョン内には危険も多く存在するが、そんな一攫千金を狙って生活のために冒険者をしている者がほとんどな中、リンのように攻略自体を娯楽として楽しむ冒険者も少なからず存在した。
そして哀しきかな、そういった趣味で冒険者をしている者になぜか幸運は傾きやすいのだ。
出勤したマリアとフェリスは、いち早く店に来ていたリンが案の定メイド服のまま新ダンジョンの考察サイトを"SMAHO"で検索している姿を目にした。
「凛、おはよー♪」
「おはよう」
「あ、おはよ、茉莉亞、フェリス」
「新ダンジョンについて調べてるの?」
「うん。次の休みで行こっかなって思ってて。難易度結構高そうなんだよね」
初見攻略は命に関わることもあるから、できる限り情報を集めることは大切らしい。
リンにとってダンジョン攻略は「ネタバレを踏んでも簡単には攻略できないリアル脱出ゲーム」感覚だった。
「ま、とはいえ今回もお宝は私のものだけど」
リンはそう呟くと不敵に笑った。
◇
「はぁっ……はぁっ……! うぅっ……!」
男はダンジョンの中を必死に走っていた。
嘘だ、聞いてない!
ダンジョンの中に魔獣が出るなんて!
魔王の手先である獣に、俺みたいな普通の人間が敵うわけないじゃないか!
『グォォ……!』
「う、うわぁぁっ!?」
背後から飛びかかってきた魔獣に足をもつれさせて転んでしまった男は、頭を抱えて死を覚悟した。
そのとき。
パァン、パァン!
2発の銃声がして、男に飛びかかろうとしていた魔獣の眉間と心臓を正確に撃ち抜いた。
魔獣は呆気なく動かなくなる。
「はぁ……はぁ……た、助かったのか……?」
「おーい! 大丈夫っすかー!」
「!」
ダンジョン内の少し離れたところで男に手を振っていたのはカノン。
そしてそのそばには両手に銃を持っているリンがいた。
「へぇー、このダンジョンを攻略しにきた冒険者なんすね! 俺と凛さんもここには小遣い稼ぎに来たんですけど、よかったら一緒に進みます?」
「えっ……い、いいのかい?」
「いいですよ! ね、凛さん!」
リンはカノンに足の治療をされている男を見て頷く。
「うん。このダンジョンはひとりじゃ危ないよ。一緒に行こう」
なんか知らないけどめちゃくちゃ人のよさそうな青年・カノンと、そしてまさか勇者でもあるあのリチャガのリンちゃんと一緒にダンジョン攻略ができるなんて!
この強力な味方たちがいれば、今回こそダンジョンの最奥のお宝に辿り着けるかもしれない!
男は捻った足の痛みも忘れるほど浮かれていた。
「追復はこの人が歩くのに手を貸してあげて。魔獣は私が片付ける」
そう言いながらもリンは離れた場所にいる魔獣を1体撃ち抜いた。
「リンちゃん、助けてもらった弾薬代はあとで精算させてくれ」
「ん? 弾薬代ならいらないよ」
「で、でも……!」
「ふっふっふ……この2丁拳銃は勇者である凛さんが女神様にもらった加護なんすよ。名前は《無限弾奏》! 大気中のマナを魔力の弾にして自動装填するから、実質弾薬は無限でしかも全部タダ!」
「そ、そうだったのか……!」
「ちょっと、なんで追復が得意げなの……恥ずかしいからやめてよ」
「そしてこの俺! 追復の勇者としての能力は」
カチッ
どこかでスイッチが押されるような音がした直後、カノンの真横の壁から槍が飛び出してきた。
「オワァーーーッッ!?」
男を庇いながらも間一髪で避けたカノンを見てリンは確信する。
あ、こいつ運悪いんだな、と。
カノンの不運と手負いの男を連れていたとはいえ、さすが勇者ふたりのダンジョン攻略能力は高かった。
リンの知略、男の機転、2人の不運を肩代わりしてくれた頑丈なカノンという組み合わせのおかげで、3人は無事にダンジョンの最奥に辿り着いたのだ。
リンに言われて男が開けた光り輝く宝箱には、たくさんの金や宝石が入っていた。
「わー! す、すげー! これ全部俺たちのもん!?」
「これを抱えて今来た道のりを無事に帰れるならね」
「む、無理では……?」
「そう、多分無理。だから持って帰るのは持てるだけ。この財宝がなくなるまではこのダンジョンは消えないから、また取りに来ればいいよ」
そう言ったリンは両手に乗る程度の財宝を腰のポーチにしまうと、男を見る。
「宝箱を開けたことで、このダンジョンの初踏破者はあんたとして記録された。冒険者協会から初踏破報酬が貰えるよ」
「!? 待ってくれ、俺は何もしてない……!」
「ううん、私たちが攻略するよりも先に宝箱に近い場所にいたのはあんたでしょ。私たちは後から来て、美味しいところを一緒にもらっちゃっただけだから」
「り、リンちゃん…………」
「いいよね? 追復」
「はい! 凛さんがそう判断したなら! あ、でも俺もこの財宝ちょっともらっていいっすか?」
「も、もちろんだよ! みんなで分けよう」
勇者っていうのはいつだって市民の味方で、無性の愛を振りまいてくれる存在なんだなぁ……!
俺もリンちゃんを見習って、心に余裕のある人間になりたい。
「す、すごい、本物の財宝だ…………! 俺、この報酬をリチャガに還元しに行くよ!」
リンはふわりと笑う。
「楽しみにしてるね、ご主人様」
◇
翌日の朝の"Recharge Garden"。
「えー! じゃあ新しく見つかったダンジョンの初踏破報酬の賞金はその人にあげちゃったの?」
「うん」
「もったいなぁ~! 凛ってそういうところ無欲だよねぇ」
「別にそんなことないけど。財宝は分けてもらったし、また攻略しに潜ればいいだけだし」
「簡単に言うよねぇ~……だって初踏破報酬の賞金って、3人で贅沢に世界1周旅行できるくらいの金額が出るんでしょ?」
「まあね」
「それを人にあげちゃうなんて……やっぱすごいや~」
開店の準備をしながらマリアに尊敬の眼差しを向けられているリンは「別に、これでいいんだよ」と爽やかに笑う。
そのリンの笑顔の本当の意味を、ふたりの話に黙って耳を傾けていたフェリスだけが理解していた。
「(報酬として持ち帰る財宝はともかく、冒険者協会から出るダンジョンの初踏破報酬の賞金には税金がかかる。凛のやつ、それをうまく他人に押し付けたな……)」




