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4人目の勇者

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

「うう…………腹減った……」



突然放り出された世界でそれまでがむしゃらに生きてきた青年は、自身をこの世界に連れてきた女神のことを何度も恨めしく思った。





「すごーい♡ キミ、剣術の特性がEXだって!」


「え……俺、剣なんて持ったこともないけど……」


「多分持ったらその才能に目覚めるんだと思うよ♪ その剣の腕を役立てられそうなスキルー……あっ、これがいいかな? えいっ♡」



元の世界からこの世界に転移してくる際、美しい女神によって青年に与えられた勇者としてのスキル……《剣王之証(ブレイド・クラウン)》。

世界のあらゆる剣術を習得した剣王の剣技をその身に宿すというものだ。

修業段階をすべてすっ飛ばしてあらゆる剣術の達人になってしまったという、シンプルだが無茶苦茶なスキルだった。



「その女神の加護のスキルを上手に使って、魔王軍からこの世界を守ってね♪」


「ま、魔王……軍!? 俺ひとりで!?」


「ううん、ひとりじゃないよ。この世界には他にもキミと同じような勇者がいるからね! 手分けするもよし、協力するもよし! 私はその辺は勇者たちの自主性を尊重してるんだよね♪」


「俺と同じような、勇者……?」


「うん、困ったらソレイユ王国の王都、オーロリアに行ってごらん♪ 私の推し勇者がコンカフェやってるから♡」


「お、推し? 異世界で勇者がコンカフェ? な、何言ってんだこの女神大丈夫か…………って、うわぁぁ!?」


「あ。あの子幸運がD-だ……剣術伸ばすよりこっち上げたほうがよかったかな……。ま、いっか♪」



そうして青年は単身この世界に放り出されたのだった。



「こ、ここがソレイユ王国の王都、オーロリアか……! 今まで見てきた町なんか比べ物になんないくらいでっけー……」



飲食店に入れば財布を盗まれ、宿屋に泊まれば火事になり、魔王軍と相対すれば崖崩れに巻き込まれる……そんな不運に満ちた旅もここで一段落か……!



「えーと、あの女神が言うには……コンカフェやってる勇者がいるんだったか。いいなー、俺みたいにボロボロになりながら旅するわけでもなく、呑気にカフェ経営だなんて。ちゃんと勇者してんのかよ」



検問所での手続きを終えて王都に足を踏み入れた青年は、異世界に来てから見たこともないような物珍しい物や店にすぐに釘付けになった。



「(なんだあれ、テレビ!? ってかなんかみんなすげースマホ持ってる! え、王都ってこんななん!? ガチ最先端じゃん!!)」



青年がキョロキョロしながら歩いていると、突然今通り抜けてきたばかりの検問所が大きな音を立てて門を閉じ始めた。



「な、なんだ?」


「周辺住民はすぐに避難してください! 魔王軍の魔獣が襲来しました! 周辺住民はすぐに避難してくださーい!」


「(ま、魔獣!? こんな街中に!?)」


「勇者様を呼べ! すぐに"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"に人を派遣しろ!」


「すでに向かわせています!」



リチャ……な、なんだって……?

って、ボーッとしてる場合じゃねえ!

俺だって勇者だし、魔獣の討伐経験くらいある!



「どいてくれ! 俺が魔獣を……」



青年が逃げる人をかき分けて門まで辿りついたとき、門の外から地面を揺らすほどの大きな音が3発聞こえてきた。

思わずその場に膝をついた青年は、王都の巨大な門をまるで家のドアを開けるかのように片手で開けた清楚な黒髪の少女の姿を見て目を丸くする。



「あのぅ…………魔獣討伐、終わりました」



メイド服を着た小柄なその少女に向かって、その場の憲兵たちは一斉に敬礼をし、「ありがとうございます、勇者セイラ様ッ!!」と声を張り上げたのだった。



「(来るときは店長の《希望創造(ホープ・リアライズ)》でひとっ飛びだったけど、帰りは歩いて帰らないといけないのダルいな……まあ、言ってもしょうがねえか)」



憲兵団への報告と討伐完了手続きを終えたセイラは"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"を目指して走り出す。

今も店は営業中だ、先輩ふたりが頑張ってくれているから急いで戻らなければ。



「あ、あのッ!」


「?」



不意に呼び止められてセイラが振り返ると、そこに居たのは背中に大きな剣を背負った青年だった。

冒険者だろうか。



「今南門で……魔獣を3発で仕留めたの、あんただろ?」


「そうですけど……あなたは?」


「俺の名前はカノン。えっと……世界を旅して回ってる冒険者、なんだ。ある人に王都で勇者がカフェをしてるって聞いて……その、修業の一環で立ち寄ってみたくてさ。あんたの店のことだよな?」


「(! …………こいつの言葉……)」



カノンと名乗った青年。

歳はセイラと同じくらいだろうか。

辿々しくそう説明した怪しい青年に、セイラは清楚な笑顔を向けた。



「確かに、私の働いてるお店は王都で唯一勇者が働くコンカフェです……♡ いつでも歓迎しますよ、ご主人様……♡」


「! あ、ありがとう!」



"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"に向かいながら、セイラはカノンと他愛のない世間話をしていた。



「その"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"には聖良(セイラ)ちゃんの他にも勇者がいるのか……!」


「はい。リチャガの中では勇者としてもメイドとしても、私が一番年下で新人です」


「ええ……? 3発で魔獣を全滅させたのに……?」


「ふふ。先輩たちはもっと強くて素敵ですよ」


聖良(セイラ)ちゃんよりも……? なるほどなぁ、それじゃあ王都は安全だよな」



セイラは小さく笑う。

普通の人間はそう思うだろう。

けれども実際は逆だった。


()()()()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()



「カノンくん、着きましたよ。ここが私たちが営むコンセプトカフェ、"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"。ご主人様方は親しみを込めてリチャガ、と呼んでくれています」


「リチャガ……」



外観は愛らしい装飾と淡いピンクの色合いをした店だ。

どう見ても普通のカフェではなく、どちらかというと若い女子向けの雑貨屋のような雰囲気だった。



「(元の世界で俺が知ってるコンカフェって大抵ビルの中にあったけど……ここは普通に路面店なんだな)」



セイラが店のドアを開けて中に入ると明るい声でマリアが出迎えてくれた。



「セイラちゃんおかえり♡」


「ただいま戻りました。店長、新規のご主人様をお連れしましたよ」


「わぁ! おかえりなさいませ、ご主人様♡」


「た、ただいま……」



せ、聖良(セイラ)ちゃんもかわいいけどこの人もめちゃくちゃかわいいな!?


セイラから"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"のシステムとルールについての説明を丁寧に受けたカノンは、メニュー表を開いてその個性的なメニューに目を丸くする。



「すげー……! ちゃんと全部ウマそう!」


「どれも美味しいですよ……♡」


「っていうか…………えっ……」



カノンはメニュー表を縁取っている不思議な模様を見てさらに目を丸くした。


『勇者限定メニューあります』……

『唐揚げ定食』『カレーライス』『ハンバーグ』……

『クリームソーダ』『プリンアラモード』……


それは脳に埋め込まれた女神の自動翻訳機能で、異世界語の読み書き会話が問題なくできるようになっていたため、気づいたら忘れかけていた懐かしい母国の言語……日本語だった。

カノンはバッとメニューから顔を上げてセイラを見る。

セイラは穏やかに微笑むと、カノンの耳元で()()()()囁いた。



「それが読めるということは……あなたも異世界から転移してきた勇者ですね?」





"Recharge(リチャージ) ()Garden(ガーデン)"の営業終了後、マリアの家に集まった4人の勇者たち。

フェリスが淹れてくれたノンカフェインのハーブティーを飲みながら、リンがほっと一息ついて言う。



「ってか店で突然泣き出したときは何かと思ったよ。聖良(セイラ)泣かせたのかなって」


「う…………す、すみません……俺、この世界に来てからずっとひとりだったから……日本語にも故郷の味にも懐かしさが込み上げてきて、つい……」



カノンは恥ずかしそうに目を伏せる。



「今までひとりでよく頑張ってきたねぇ~。えらいえらい♪」


「うっ、や、やめてください茉莉亞(マリア)さん……! 俺、また泣くかも……うぅっ……!」



マリアに頭を撫でられてまた泣き出したカノンに、リンは苦笑しながらセイラを見る。



「……やべーやつ拾ってきたね、聖良(セイラ)


「こんなの初見じゃわからねえよ……」



マリアはカノンの背中を優しくさすってやりながらリンとセイラを見た。



「でも、まさかあのメニュー表で本当に勇者が釣れるなんてねぇ~♪」



メニュー表を縁取るように書かれた日本語は、この世界の人たちからすれば不可解な模様にしか見えない。

読めるのはマリアたちと同じくこの世界に転移させられた日本人だけだ。



「そもそも今まで私ら以外に見たことなかったしね、勇者なんて」


「誰かさんはそんなこと一言も言ってなかったしな?」


「…………」



リンとセイラからじとっとした目を向けられても、フェリスは相変わらずの涼しい顔のままだった。

その顔はまるで「言う義務なんて俺にはないからな」とでも言っているかのようだ。



追復(カノン)くんはこれからどうするの?」



マリアがカノンに聞く。

カノンは涙を拭いながら考えている様子だ。



「ぐすっ……そうっすね……。しばらくは王都にとどまって、この先の旅の路銀集めですかね。あ! あと俺"SMAHO(スマホ)"ほしい! そのあとは……また旅に出るつもりです。王都には茉莉亞(マリア)さんたちがいるし、勇者としての俺の力を必要としてる人はきっと世界中にいるから」



マリアはにっこり笑った。

この青年もまたマリアたちと同じで、世界中の人の笑顔と幸せを守るつもりでいるのだ。



「とりあえず、王都にいる間は聖良(セイラ)の家にでも泊めてもらったら? 歳も近いし話も弾むでしょ」


「え!? いやいやさすがにそれはダメでしょ(リン)さん!」


「え? なんで?」


「正気っすか!? い、一応俺も男なんすけど……そんな、歳が近ってだけで女の子の家に泊めてもらうのはマズいでしょ……」



リンは思わずマリアと顔を見合わせる。



「俺は別に泊めてもいいけど。でも追復(カノン)くんがひとりのほうが落ち着くならいい宿屋教えるよ」


「え、えぇ……!? 聖良(セイラ)ちゃんまで……! ここのコンカフェ嬢、倫理観どうなってんだよ……」



結局世話になるわけにはいかないからと宿屋に泊まることを選んだ硬派なカノン。

彼をおすすめの宿屋に案内するというセイラを見送ったマリアとリンは、静かになったマリアの家の中で呟く。



「……あいつ、聖良(セイラ)のこと女だと思ってるよね?」


「まあ、聖良(セイラ)は女の子並にかわいいからねぇ♪ ね、面白いから追復(カノン)くんが気づくまで黙ってようよ♡」


「放っておいたら気づくタイミングなくない? ま、それはそれで楽しいか」



きゃいきゃいと盛り上がる女子ふたりの脇で、フェリスは"SMAHO(スマホ)"をそっと確認する。

そこには女神から共有されている情報が表示されていた。



【勇者:追復(カノン)

メインステータス

剣術 EX

力 A

俊敏 A

頭脳 C

幸運 D-



「…………」



天界監査官になって長いフェリスだったが、勇者のステータスに『D-』という評価がついているのを初めて見た。

多分泊めてたら家燃えてたな、とセイラの無事に一安心したのだった。


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