特別なお客様
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
「おかえりなさいませ、ご主人様……♡」
恥ずかしがり屋でとても清楚な、小柄な黒髪のメイド、『セイラ』。
「おかえりなさいませー、ご主人様。別に待ってなんかなかったけど」
大人っぽいけどツンデレ(?)な、茶髪のサイドテールのメイド、『リン』。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
そして王道、明るく元気でポジティブな、金髪のハーフツインテールのメイド、『マリア』。
この世界唯一のコンカフェ、"Recharge Garden"で働く優秀なキャストたちであり、女神によって異世界から転移してきた勇者たちだ。
勇者としてもコンカフェ嬢としても王都で人気の高い彼女たちに会うため、今日もたくさんのオタクたちが"Recharge Garden"に足を運んでいる。
「ご主人様、お夕食はもうお決まりですか?」
「今日は『無限弾奏ナポリタン』と、ドリンクは『フェアリーハニーラテ』をお願いします!」
「はぁい♡ すぐ用意するのでちょっとだけお待ちくださいね♪」
「(今日もマリアちゃんかわいいな……!)」
そんな大人気の"Recharge Garden"には、しばしば特別なお客様がご来店される。
「おかえりなさいませー、ご主人様」
「ただいま、リンさんッ!」
店の入り口で元気いっぱいにそう言った男を、店内にいた他の客たちが思わず振り返って見る。
「!? あ、あれは! 冒険者ギルド王都支部唯一のS級冒険者、鷹の目のカリビアン!」
客の誰かがそう言うと、店内が途端にざわつき始めた。
「カリビアンだって……!?」
「100メートル先の鳥ですら正確に撃ち抜くっていう、あの……!?」
ざわつく客たちを全く気にする様子もなく、リンはカリビアンを席へと案内する。
「今日も最後の晩餐ですか?」
「ああ……俺は危険な冒険の前にはいつだって最後の晩餐の覚悟で飯を食う……。そして死ぬ前に食う最後の飯を選べるなら、それはここのオムライスがいいと決めているんだ」
「そんなこと言って、カリビアンさんには最後の晩餐が何回あるんですか」
「ぐっ……! だ、だって、ここで元気をチャージすると冒険がうまくいくんだ、本当に! 俺にとっては勝利のための願掛けでもありルーティンでもあるんだよ!」
「はいはい、ありがとうございます。私たちもそんなカリビアンさんをちゃんとおもてなししますよ」
そんなカリビアンの言葉に聞き耳を立てていた客たちから噂が広まり、"Recharge Garden"の一番の名物である『おかえりなさいませオムライス』は、いつの間にか冒険者たちの間で必勝メシと呼ばれるようになったのだとか。
◇
またある日は。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
「うむ。ただいま、マリアちゃん」
「(こ、ここここ国王陛下!?)」
事情を知らないらしいリチャガ初心者のオタクに、隣の席のメガネの男が親切に解説してくれる。
彼はセイラの顔がプリントされたティーシャツを着ていた。
「わかるわかる、最初は拙者も大変驚きましたぞ。でも国王くんも我らの同志……。リチャガを愛し、マリアちゃんたちに会いにくることを楽しみに日々仕事を頑張っている、しがないオタク……。我らに配慮し、店を貸切にしたりなどはせず、一般オタクに混じってこうしてリチャガに足を運んでくださっているのだ……」
「こ、国王陛下も俺たちの同志……! (っていうか誰だこいつ……?)」
「同志を笑うことなかれ! ここでは俗世での身分など関係なく、皆等しくリチャガを愛する『ご主人様』ですぞ! 故に我らがすべきはただひとつ!」
「ゴクリ……!」
「セイラちゃんの『動くホロチェキ』追加でお願いしますッ!」
「ありがとうございます……♡」
「うおーーっ! オタク先輩かっけーーー!」
店の外で護衛の騎士を待たせてはいるものの、勇者が3人もいるこの店はこの世界中のどこよりも安全だと国王陛下もその部下たちも理解している。
そして一般オタクに混じって来店してくれるそんな国王陛下のことをマリアたちも決して特別扱いはせず、他の客と同じ『ご主人様』として接するようにしていた。
◇
そしてまたある日は。
「おかえりなさいませ、ご主人様……♡」
「ただいまー、聖良♪」
「(げっ…………)」
セイラにヒラヒラと手を振りながら店に入ってきた軽薄そうな茶髪の男に、セイラは心の中で顔をしかめた。
「あ、あれは、『メーさん』ッ!? ちわーっす!」
「め、メーさん? 誰……?」
メーさんと呼ばれた茶髪の男を見たメガネの客が、立ち上がって直角になるほど深く頭を下げた。
店内には同じようにメーさんに頭を下げている客が何人もいる。
リチャガ初心者のオタクの隣の席で頭を下げていたメガネの客が、こっそりと教えてくれる。
彼のテーブルには3人のメイドたちのアクリルスタンドが並べてあった。
「あ、あれは我らがリチャガのオーナー殿ですぞ……!」
「お、オーナー!? (っていうか誰だこいつ……?)」
「そう! すなわちこのリチャガにおいて一番偉い人であり、さまざまなフードやオプションメニュー、イベントはメーさんの最終許可のもと我々の元へ届けられるのである……ッ!」
「そ、そうなのか……!」
「故に我々オタク一同は、名も知らぬあの方のことをリチャガの創造主として崇め、この世界における女神様と同等の存在として敬意と親しみを込めて、『女神様』ならぬ『メーさん』と呼んでいるのだ……ッ!」
「『メーさん』の呼び名は、まさかの女神様からきていたのか……!」
セイラに席に案内されたメーさんの元へ、マリアが笑顔でメニュー表を持ってやってくる。
さすがプロのコンカフェ嬢、その態度は相手がたとえ"Recharge Garden"のオーナーだろうと自分の上司だろうと関係なく、ブレない接客態度だ。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡ 今日もお仕事お疲れ様です♪」
「うん、茉莉亞もね♪」
「お夕食のリクエストはございますか?」
「うーん、何にしよっかなぁ」
「もし迷われているなら、今日はいいお肉が手に入ったので、『戦乙女プレート』か『ワイバーン親子丼』がおすすめですよ♪」
「じゃあフードは『戦乙女プレート』と『星屑ソーダ』、『希望のレインボーパフェ』に『応援魔法オプション(マリア)』をつけてもらって……あとは茉莉亞の『立体ホロチェキ』3つと、『魔道チェキ』に茉莉亞からの『一言メッセージ』をお願い♪」
流れるようにすらすらとそう言ったメーさんに、店内の客たちがざわつく。
さ、さすが、自他共に認める王都最強のマリアちゃん推しオタク……!
「ふふ、いつもありがとうございます♡ すぐに準備しますね♪」
◇
「さすが店長、すげえなー……俺あのひとが来ると顔引きつりそうになるのに」
「私も」
店の裏の事務所で、清楚さのかけらもないセイラが苦笑しながらぼやき、リンがそれに同意する。
「多分こういうとこなんだと思うよ、あのひとにとっての茉莉亞と私たちの違いって」
「笑顔で接してくれるかどうかってこと? ……いやいや、だって普通に無理だろ」
「その"普通に無理"を明るくやってのける茉莉亞だからこそ、あのひとは茉莉亞を推してるんだろうし、最強の力も最高位神獣も、全部あげたくなっちゃったんだよ」
「なになにー? なんの話ー?」
事務所に似つかわしくない明るい男の声に、リンとセイラは飛び上がりそうになるほど驚いた。
「ぎゃあっ! だ、だだ女……オーナー!」
「おい聖良、今私のことだ女神って言おうとしたな?」
ブンブンと首を横に振るセイラに向かって、軽薄そうな茶髪の男……メーさんは腕を組んで「ぷん!」と言いながら頬を膨らませるが、全くかわいくない。
「な、何してるんだよこんなところで……店長は?」
「猫ちゃんがオプション用のホロチェキ撮ってくれてる♪」
そう……メーさんこと"Recharge Garden"のオーナーこそ、マリアたちをこの世界に勇者として転移させた張本人である、この世界の秩序を守る女神なのだ。
ゆえにオタクたちが勝手につけた『メーさん』という呼び名はあながち間違ってはいなかった。
メーさんは勇者選びをしているときからずっとマリア推しだったらしく、彼女がこの異世界の地で少しでも快適に過ごすことができるようにと、『フェリス・アストラル・エルシオン』という天界監査官の最高位神獣……三尾を持つ真っ白な猫を専属のサポートにまでつけるという、本来あり得ないほどの破格の待遇でもてなした。
女神の独断で監査官を失った天界は当時ここ数百年で一番の大騒ぎとなり、仕事は滞り、天気は荒れ果て、物価は高騰し、人間界にまで大きな影響が出たとか出なかったとか。
ちなみにメーさんが"Recharge Garden"に客として足を運ぶときに男の姿をしているのにはちゃんとワケがあり、本人曰く、「男の姿のほうが、他の客が気を遣わずに済むだろうからね♪」というささやかな配慮らしい。
どちらにしろ目立ってはいるが。
メーさんはリンとセイラに向き直ると笑顔で言う。
「私にとって茉莉亞は確かに推しだけど、君たちだって大切な大切な、この世界を守る鍵なんだよ♪ 勇者の価値に上下はない。どうかそれは信じてほしい」
「…………」
「だから私は君たち勇者がこの世界でのびのび過ごすことができるよう、極力協力はしていくつもりだよ。それがこの世界を救ってもらうための対価だと思っているからね♪」
「…………なんか感動的なこと言ってるけど、リチャガを作ったのって自分が楽しむためじゃなかったんだ」
「~~♪」
「おい、目を逸らして口笛を吹くな」
リンとセイラに詰め寄られたこの世界の唯一神、女神という存在は、明るく楽観的で、適当な性格をしているようだ。
「ねぇフェル、どっちがかわいいかなぁ?」
「(いやどっちも同じだし……)」
魔導情報端末であるSpell Matrix Holo-board……通称"SMAHO"を握り締め、2枚の写真のうちどちらをメッセージ入りのチェキ用として残すか真剣に悩んでいるマリアに、撮影者であるフェリスは若干引き気味に適当に指を差した。
「こっちでいいんじゃねえの」
「ちょっと、ちゃんと真剣に見てる? 本当にそう思うの?」
「(なら俺に聞くなよ……)」
結局マリアは散々悩んだ末、フェリスが指差したのとは別の写真を選ぶと、"SMAHO"をプリンター端末に接続しチェキとして印刷、そこにキラキラした発色の魔導ペンでメーさんに宛てたサインとメッセージを書き込んだ。
いつでも一生懸命なマリアの様子を店内の客たちは食事を楽しみながら微笑ましく眺めている。
「でーきた♡ 喜んでくれるかなぁ♪」
ちょうど自分のテーブルに戻ってきたメーさんの元へ近づいたマリアは、彼(?)に両手でメッセージ付きの『魔導チェキ』を差し出す。
「メッセージ入り『魔導チェキ』、お待たせしました♡」
「ぐぅ……! 相変わらず天才的なかわいさ……!」
メーさんは震える手でチェキを握り締め、そこに写る笑顔のマリアと「いつもありがと♡」というシンプルだが意味深いメッセージを噛み締めた。
今日も1日、王都の市民に笑顔と元気をお裾分けしたマリアたちは無事に最後の客を見送り、"Recharge Garden"は閉店の時間になった。
万年人手不足なため、スタッフと一緒にマリアたちも店内の片付けをしながら今日のことをのんびり振り返る。
「女神様も来るなら来るって事前に連絡してほしいよな」
「心臓に悪いよね」
セイラとリンがため息をつく中、マリアはずっとにこにこしていた。
「きっといつも通りのわたしたちを見たいんだよ~♡」
「そんなの天界の鏡とかいうやつでいつだって見てんだろ、あいつ」
「茉莉亞はよく普通に接客できるよね」
「だって、女神様っていったって基本的には他のお客さんと何も変わらない『ご主人様』でしょ♪」
「はー、さすが店長だわ」
1日分の売り上げの精算をしていたフェリスは、3人の話を聞きながらマリアのメンタルの強さを再確認したのだった。




