"Recharge Garden"と3人の勇者たち
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
ここ、ソレイユ王国の王都・オーロリアには、コンカフェなる一風変わったカフェがあるという。
その名も"Recharge Garden"。
「なんでも貴族家の使用人に扮した女の子たちが、客を貴族に見立ててもてなす、コンセプトカフェってやつらしい」
「なんだそれ? つまり貴族ごっこってことか? 庶民である俺たちをバカにしてるのか?」
「それがどうもただの貴族ごっこじゃないらしいんだ。行ったやつらは口を揃えて『リチャガには夢がある!』って言いやがる」
「はは! 夢ねぇ」
「せっかく初めて王都に出張になったんだ、物好きなスタッフにもてなされてやろうぜ」
地方の銀行員である若いふたりの男たちは、そんな話をしながら王都の一角にあるかわいらしい外観の店のドアを開けた。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
「うおっ!? え、お、おかえり?」
「た、ただいま……」
膝上丈の短かなメイド服を着た金髪の少女が、男たちを笑顔で出迎えた。
「ん~、お疲れのご様子ですねぇ。今日のお食事はご主人様のお好きなものをなんでもリクエストしてくださいね♡ あっ、その前に……」
席に案内されたふたりの顔を覗き込んだ少女(胸にマリアというネームプレートが付いている)は笑顔で首を傾げる。
「ご主人様はここに来るのは初めてですよね?」
「は、はい……」
「今日は足を運んでくれてありがとうございます♡ ここのシステムやルールを簡単にご説明しますね♪」
明るく親切な様子のマリアに、2人の男は少しずつ心を開いていく。
「120分で最低ワンドリンクのご注文をお願いします♡ Spell Matrix Holo-boardを含むいかなる魔術機器での許可のない録音や撮影は禁止です♡ ご主人様のために一生懸命働いているので、わたしたちへお手を触れるようなことはご遠慮ください♡」
男たちはマリアの言葉に真剣に耳を傾け頷きながら、同時に店内を見回した。
溌剌としたマリアの他に、店内には茶髪のサイドテールの大人っぽい『リン』、小柄な黒髪ボブの清楚な『セイラ』というメイドもいるようだ。
どの子たちも方向性が違うが非常にかわいらしい顔をしている。
「今日はいい卵が手に入ったので、もし食べるものに迷ったときは『おかえりなさいませオムライス』が特におすすめですよ♡」
マリアが差し出してくれたメニュー表の後ろのページにはさまざまなオプションメニューの説明も詳しく載っていた。
「魔導チェキ500G、立体ホロチェキ3,000G、動くホロチェキ10,000G…………」
「お悩み相談1,500G、応援魔法オプション(マリア)1,000G、射撃体験2,000G……」
「えっ、まてまて、もしかして立体ホロチェキって……!」
「はい! 推しキャストを3Dホログラム撮影するので、おうちで好きな角度から眺めることができちゃいます♪」
「じ、じゃあ、動くホロチェキは……?」
「3Dホログラムの動画撮影時に、この中からお好きなセリフとポーズを選んでいただいて、5秒間撮影します! 『おかえりなさいませ♡』も『がんばれ♡ がんばれ♡』も、お持ち帰りできちゃいますよ♪」
「ま、マリアちゃんもやってくれるの?」
「もちろん! 全力でやりますよ~♡」
男たちは顔を見合わせた。
「4番卓の新規の客も完全に茉莉亞のファンになったね」
「さすが店長~♡」
店の裏で様子を伺っていたリンとセイラは魔術モニターで店内の様子を伺いながらハイタッチをする。
そんなときだった。
店の入り口が騒がしくなったかと思うと、ひとりの騎士が必死の形相で転がり込んできた。
「ゆ、勇者様ァーーーッ! 緊急事態ですッ!」
リンとセイラは顔を見合わせると急いで事務所を出て店内へ向かう。
「んもぅ! 今はご主人様のリラックスタイムですよ~!」
「ああ、マリアちゃ……勇者様! も、申し訳ありません……!」
腕を組んだマリアに諌められた騎士は一瞬ハートのエフェクトを飛ばしつつも、すぐに正気を取り戻して彼女に敬礼をした。
「ゆ、勇者様……?」
「これもなんかの演出か……?」
首を傾げた新規客の男たちを見た隣の席のメガネの男性客が、メガネの位置をクイッと直しながら得意げに声をかけてきた。
「ふっふっふ、リチャガ初来店じゃあ知らないのも無理はない、か……。我らがマリアちゃん、リンちゃん、セイラちゃんこそ、魔王軍からこの世界を守るために女神様に選ばれたガチ本物の勇者たちなのでござるよ!」
やたら饒舌な隣のメガネのその説明に、新規客の男たちは思わず身構える。
「勇者って、まさかあの伝説の……!?」
「(っつーかこのメガネ誰だ……?)」
『世界が魔の混沌に包まれるとき、異世界より訪れし勇者たちが、我らに光をもたらすだろう』……。
この世界に伝わる有名な伝説であり史実だ。
勇者は実際に市民の間に紛れて生活をする隣人でもあり、魔王軍から世界を守る身近な英雄でもあった。
「ゆ、勇者マリア様、リン様、セイラ様にご報告申し上げますッ! 王都東門に魔王軍の手下と思われる魔獣が襲来! 国王陛下より大至急出動要請です!」
店の裏から出てきたリンはサイドテールを揺らしながらその話を聞いて肩をすくめた。
「また? なんか最近多くない? だ女神の結界どうなってんの」
セイラはマリアを見る。
「店長、どうしますか? あと2時間でハッピーアワーが始まっちゃいますよぅ」
「うーん……」
「今日はイベント初日だしね。店を閉めるわけにはいかないよ」
「う~~~ん……! よし! じゃあ、じゃんけんしよ! 負けた人が出動ね」
「よしきた!」
「ゆ、勇者様!?」
「ごめんね! すぐ行くからちょっと待ってて!」
騎士にそう言ったマリアはリンとセイラに向き直る。
「じゃんけんぽん!」
マリアの元気なかけ声と共に、一発で彼女の負けが決まった。
「ひゃあああん! うそぉ……!?」
「うぇ~い。茉莉亞が出動~」
「店長、いってらっしゃい♡」
「うぅ~っ……! 負けちゃったものはしょうがないっ! ご来店中のご主人様、"Recharge Garden"はリンちゃんとセイラちゃんが全力で守ります! 絶対に安全なので、引き続き安心してお食事をお楽しみくださいね♪」
「うおおー! マリアちゃんがんばれぇー!」
「俺たちの王都を守ってくれぇー!」
「はぁ~い、任せて♡ それじゃあ、行ってきます♪」
マリアは店の入り口に立っている白髪のギャルソン服の男に目配せをすると、騎士を連れ立ってメイド服のまま店から出て行った。
マリアからの目配せを受けた男……フェリスは、店内に配置してある魔術スピーカー越しに店内アナウンスをする。
『これより勇者マリア様が戻られるまでのお時間は"魔王軍討伐応援フェア"により、お会計の総額から5%引きさせていただきます。ぜひこの機会にお食事、オプションをお楽しみください』
「うおおぉーーッ! セイラちゃんの立体ホロチェキ追加でお願いしまァーす!」
「ありがとうございます、ご主人様……♡」
「フゥーーー!!」
新規客の男たちは、途端に盛り上がり始めた隣の席のメガネの客を含む店内の客たちの様子を見て戸惑う。
「魔王軍の魔獣が攻めてきたっつったら普通すぐに非難とか外出禁止とかになるはずなのに、この店の雰囲気はまるで祭りじゃないか……!?」
「これが伝説の勇者を3人も抱えるソレイユ王国の王都、オーロリア……! 初めて来たのになんだ、この我が家のような安心感と居心地の良さは……っ!」
◇
魔獣が襲ってきているという東門にマリアが駆けつけたとき、門は騎士たちと魔術師たちの必死の防衛により魔獣のタックルをなんとか防いでいる状態だった。
「! 勇者様だ! 勇者様が来てくださったぞ!」
「わたしが来たからにはもう大丈夫! ハッピーアワーが始まる前にちゃちゃっと片付けちゃうからねぇ~♪」
「えっ!? め、メイド? っていうか、ハッピーアワーって……?」
マリアの姿を見て戸惑いの表情を浮かべた憲兵団の新人に、先輩憲兵が耳打ちをする。
「新兵、お前"Recharge Garden"のマリアちゃんを知らねえのかよ……かわいそうに、今度連れてってやるからな」
「ハッピーアワーはリチャガの名物、月に一度のイベント週間の始まりを告げる時間だ。イベント初日の17時から閉店まで、定額で飲み放題と、イベント限定衣装のサイン入りチェキ3枚が付いてくる予約完売必至の大人気イベントだよ」
「せ、先輩たち詳しいっすね……!」
「バッカ、王都に住んでるほとんどのやつがリチャガに足を運んだことがあるっての」
「だが、そんなリチャガのマリアちゃんが戦ってるところを見られるのは、王都を守る俺たち憲兵団と騎士団くらいのもんだ。しっかり見ておけよ、あの方の奇跡の力をさ」
地面を蹴って跳躍したマリアの手に強力な光が集まり大きな弾となっていく。
「魔王軍にわたしたちの世界は渡さないよ~♡」
そう言うと、マリアは門の外の魔獣たち目掛けてその光の弾を勢いよく放った。
光の弾はあたりを強烈に照らすと、東門を守る騎士や魔術師たちを温かく包み込み、魔獣だけを焼き払っていく。
新兵はその圧倒的な力に思わず目と口をぽかんと開けた。
「勇者であるマリアちゃんがこの世界の女神様から賜った力、《希望創造》。なんでも、それはマリアちゃんの信じた未来や可能性を現実に引き寄せる力……想像を現実にする能力なんだとさ」
「そ、それってなんでもアリのチートじゃないっすか……!?」
「そうでもねえよ。絶望や破滅を信じちまったらそれが現実になっちまうわけだからな。いつでも明るくポジティブな彼女だから使いこなせる能力ってだけさ」
あっさりと魔獣たちを焼き払ったマリアは東門を守っていた騎士団を相手に形式的な報告と討伐完了の手続きを終えると、"Recharge Garden"に戻ってきた。
店はちょうど前の枠の客を見送る時間帯で、マリアがいない間にリンとセイラの手厚いもてなしを受けた新規客のふたりの男たちも、隣の席にいたメガネの客と楽しそうに話をしながら帰っていくところだった。
「ゆっくりお話ができなくてごめんなさい……! またいつでも遊びに来てくださいね!」
「マリアちゃんありがとう! 俺王都に異動願出すわ!」
「わぁ~! たくさん会えるようになるの、楽しみにしてますねぇ♪」
手を振って最後のひとりの客まで見送ったマリアたちは、店内のリセットをするスタッフの邪魔にならないよう店の裏の事務所に移動する。
「凛、聖良、お店空けちゃってごめんねぇ~」
「いや、全然気にしないで。ハッピーアワーに間に合ってよかったじゃん」
「そーそー。フェリスがちょっとご機嫌斜めだったくらいで、他には特に何も問題なかったし」
「別にご機嫌斜めなんかじゃねえだろ……」
マリアは、呆れながらそう言った白髪のギャルソン服のイケメンの顔を見上げる。
「フェル、何かあったの?」
「何もねえよ」
「ほら、ご機嫌斜めじゃん」
セイラがフェリスを指差しながらけらけらと笑う。
「新規客がふたり来てたじゃん? あの人たちが興味本位で『猫フェルもふもふ』頼んだんだよ」
「えー!? 『猫フェルもふもふ』出るの1ヶ月ぶりじゃない?」
「………………」
フェリスはため息をつくとそのまま事務所から出て行ってしまった。
『猫フェルもふもふ』とは、"Recharge Garden"のオーナーが趣味で勝手に追加したメニューだ。
リチャガの受付でもあるフェリスの本来の姿の三尾の猫を、5分間5,000Gで好き放題もふれるというもの。
客は受付に立つギャルソン服のイケメンが猫の正体であることには気づいていないものの、その注文が入った時だけフェリスが受付から姿を消すことから、「あの猫実はフェリスさんなんじゃない?(笑)」という噂は(笑)付きで立ってはいた。
とはいえ、マリアたちキャストが目的で店に来ている客で、猫をもふもふしようという発想を持つ者はなかなかいないようではあったが。
セイラの言う通り決して機嫌が良くはなさそうなフェリスの後ろ姿を見て、マリアは「帰りに高級猫缶買ってあげよう……」と決意したのだった。
「ハッピーアワー開始5分前です! 本日最終枠のお客様のご案内を開始しまーす!」
店の裏の事務所にやってきたスタッフにそう声をかけられ、3人はそれぞれヘッドドレスを自分の髪色に合った猫耳のカチューシャに変えると円陣を組んだ。
「じゃあハッピーアワーから始まる1週間! 今回の猫耳メイドイベント、全力で盛り上げていこー♡」
「おー」
「おー♡」
王都にある一風変わったコンセプトカフェ、"Recharge Garden"。
そこはこの世界を救う勇者でもある3人の少女たちが、世界に笑顔と元気を発信していく、異世界のオタクたちの心のオアシスだ。




