第21話 封じられていたアクトの過去
随分と遅くなってすみません!
リアルの事情とかありまして…合間合間に書いてるので今後も遅くなると思いますがよろしくお願いします!
「逃げろー!!」「おかーさーん!」「あぁ…家が…俺の家が…」「そんなこと言ってないで早く逃げましょ!奴らに殺されるわ!」
世界は混沌に包まれていた
「母さん?」
突如として現れた怪物により街は破壊され所々から爆発音や火の手が上がっている
その怪物は「バステル」と呼ばれているらしい
「ねぇ、返事をしてよ。早く逃げよう?いつまで寝転がってるの?メーディアもいなくなっちゃったし…」
崩れた家の近くで少年は母親らしき「黒く焼き焦げ人間の半分くらいの大きさしかないもの」に必死に声をかけていた
「疲れちゃったんだね!仕方ないなぁ…僕がおんぶしてあげるからしっかりつかまってね?」
少年は黒く、大きさも半分くらいになってしまった母親を背負いもうみんな逃げ終わりバステル以外誰もいなくなった焼け野原となった街を歩き始めた
「全く…しっかりしてよね、メーディアも探さなきゃなのにさ」
未だ多くのバステルがいる中平然と話しかけながら歩いているので当然奴らにも見つかり瞬く間に囲まれてしまった
「あれ?こんなところに壁なんてあったっけ?」
だが少年は叫ばなかった…なぜならその目はとっくに現実など見ていなかったから。
昨日まで何事もなく楽しく過ごしていた。そんな日々が続くものと一切疑うことなどなかったがこの日、「永遠」なんてものはないのだと思い知らされた。
その少年はほかの子と比べ独占欲が強かったこともあり、それらが全て奪われてしまったことで防衛本能が働き現実を見ることを見れなくなったのだ
「うーん…道間違えたかなぁ?…あれ?そういえばどうして僕は母さんをおんぶして逃げてるんだっけ?」
バステルはうんうん悩みながらうろうろしている少年を蔑むように見ているだけで何もしなかった
「アクト!やっと見つけた…」
「父さん!もうほかの人への挨拶回りは終わったの?」
アクトと呼ばれた少年は父親の帰りを喜んだのだが父親の表情を見て固まった
ひどく悲しそうな…そして切羽詰まっていて余裕がない顔だったのだ
「父さんどうしたの?挨拶回りでケンカでもした?」
本当は街の人の避難を手伝っていたのだが絶望し現実を見れていない自分の息子にわざわざ現実を突きつけるのは酷だと思ったのか「ご近所さんに挨拶回りしてくる」と伝えていたのだ
「なぁアクト…その背負っているものはなんだ?」
「ものって何さ!ものって!母さんだよ!僕の母さんのアメルダ!」
「そうか…ごめんな、父さんちょっとテンパりすぎてたみたいだ」
「本当にしっかりしてよね、まだボケるには早すぎるよ?」
「本当に…8歳とは思えないほどしっかりしているな。父親として誇らしいよ」
だがそんな穏やかな会話をいつまでもしていられるほど優しい世界ではなかった
そう、2人のやり取りを見ていたバステルがついに動き出したのだ
「くそっ!つい時間を無駄にしてしまった!」
「無駄って何さ!こんな普通の会話のどこが無駄だって…うっ!」
アクトが呻いたのはいきなり父親がアクトの肩を掴んだからだ
「くそ…本当に時間が…いいかアクト、これから見せるものは全て現実だ。」
「い、いきなり何さ…」
「いいから聞いてくれ。現実を見たらきっと君は壊れてしまうだろう…だから見せた後に暗示をかけて今から前の記憶には鍵をかける」
「え?父さんは何言ってるの?現実?これが現実でしょ?今日は避難訓練の日だからみんないなくなっちゃったんでしょ?告知がないからびっくりしちゃったよ」
「すまないアクト…本当にすまない…部分記憶共有」
「え…う…うああああああああああ!!!」
「本当にすまないアクト!あとこれを飲んでくれ!“今は”それでいい!」
父親は不思議な力…今考えると魔法だったのだろう…でその日1日の記憶を強制的に見させられ、壊れそうになっているアクトに銀色の液体を飲まされた。いや飲まされたというより口に入れた途端染み込んだような感じか
「記憶封印!悪いソフィア!あとは頼む!」
『いくら媒介たる『ギリアス』から見ていたとはいえ随分と雑ですね…とりあえずここにいるバステルを殲滅すればいいんですか?』
「あぁ、それとアクトの妹のメーディアも探してくれ!」
『それも含めて了解です。それで…お前はどうするんですか?エデュー…いや教育者?』
「はは…その役目ももう終わりだね…でも今の俺はアクトとメーディアの父親、エデューだ」
『そうですか…役目の完遂ご苦労様です。あとは私に…私たちに任せて安らかにお眠りください』
「あぁ、そうさせてもらうよ…いや、やっぱり戦って死にたいからソフィアはメーディアの捜索と保護を頼む。それまでは最期の時を楽しく過ごさせてもらうよ」
『あはは!お前らしい答えで安心しましたよ。アクトとメーディアのことは任せてください、お前の最期の楽しみを邪魔するような不粋はしませんから』
「ああ、助かる!」
そう言い終わると同時にエデューは駆け出し1番近くにいたバステルを殴り飛ばした
『相変わらずの馬鹿力ですね…さて、私も任されたことをしますかね…地盤支配!!…ほぅ…こいつは独占欲が強いから適合するだろうとは聞いていましたがまさかこの事態で「独占欲」が「支配欲」に変わったと?』
アクトは何が何やらわけが分からなかった。目の前には見知らぬ男性が自分に向かって話しかけていると思ったら頭の中に直接別の女性の声が響いてくるのだ、理解しろという方が無理である。
そしてアクトの覚えていることは大まかに言えば自分の名前と唯一の家族たる妹メーディアのことだけである
だが理解していなくても事態は進んでいた。
目の前にいる怪物(記憶を封じられているため名前を知らない)を見知らぬ男が素手で殴り飛ばしていた
『どうやらやっと現実が見えてきたみたいですね』
「うおぉ!?どこから声が!?」
『気にしなくていいです。どうせ忘れるので…それより今からここにお前に妹を連れてくるので絶対に守りなさい、男でしょう?』
「メーディアを!?そんなの当たり前だ!俺の…唯一の家族だ!」
『良い覚悟です』
どこから聞こえてくるのか分からなかったがメーディアが無事なら背に腹はかえられない…メーディアが帰ってくるのだ。どうやって連れてくるのか気になるが…
『あぁ…見つけましたが…ここに連れてくるより安全な場所にいますね…どうしますか?』
「そう…か…ここより安全な場所にいるなら…でも…」
「本当に8歳とは思えないな」
『あら生きていたのですか?エデュー』
「なんとかな…でもこれまでだ。アクトとメーディアを頼む…」
『お前に何度頼まれればいいのやら…メーディアはここより安全な場所…「ユーステリア学園」に避難していますね』
「あ、あの!大丈夫ですか!?血が…血がたくさん出て…!」
アクトは血を大量に流しながらこっちに向かって歩いてくる人に驚きはしたがすぐに血を拭うために服を脱ぎ始めた
「本当に…本当に立派に育ってくれた…ありがとうありがとう」
「え…あの…なんで泣いて…」
『こらエデュー?アクトが困惑してますよ?』
「いいじゃないか…最期くらい…」
「え、ちょっ、えぇ!?」
「悪い…気持ち悪いだろうが少し我慢してくれ…本当に悪い…!」
いきなり見知らぬ男の人が泣きながら抱きついてきて大いに驚いたが…なぜか懐かしいがしてすごく安心することができた
「気持ち悪いだなんてとんでもない…辛かったみたいですね、苦しかったみたいですね。僕にはあなたの辛さは分かりません。ですが僕の胸で泣くことで報われるというのなら…救われるというのなら…いくらでもお使いください。今でも、これからも、いつまでも…」
見知らぬ男の人がアクトに泣きつきアクトに声をかけられてからおよそ1分が経った
「本当に悪かったな、もう大丈夫だ」
「そうですか!良かった…それでさっきまでここら辺にいた怪物って…」
『それはここにいるエデューが片付けましたよ』
謎の女性の声にそういわれ驚きを隠せない表情でエデューに振り向いたが…
「悪いなアクト、今日のことは悪い夢だったってことで忘れてくれ」
「え?一体何を…」
「スキル発動「熟睡」…ここでお別れだ、アクト」
さすがに何度も魔法を使うのは疲れるのか使ったのは魔法ではなくスキルだった
だがアクトにとっては両方とも訳の分からない超常の力なのだが…今のアクトには関係がなかった…眠くて眠くて…そのまま意識が飛んでしまった
これはユカルド達の“記憶共有”により魔法の概念を教えてもらった際、記憶の鍵が外れて思い出した、アクトが記憶を失うきっかけとなった10年前の出来事である