第19話 エザールの過去
「ユカルド先輩……」
「ん?どうしたクルト」
「ユカルド先輩は未だにそんな世迷い言のような予言なんて信じてるんですか?」
「世迷い言だなんてひどい言い草じゃあないかい?」
「あんなものに…あんなものに惑わされている先輩は見たくありません…!」
「あんなものって…本当に君は昔から相変わらず予言が嫌いだね」
「自分の行動や世界の命運を決められそれに逆らえないだなんて…そんなのあんまりじゃないですか…」
「確かにその通りだね。予言の通りに動くなんて思考放棄にも等しい行為だと思うよ」
「なら…!」
「でも予言が示す終末こそが最善なんだよ。だからみんな予言の通りに行動するんだ」
「神を再びこの地に顕現させ支配しこの世界を統治させるための装置に使うだなんて…そんなの神への叛逆なんじゃないんですか!?そんなことの何が最善なんですか!?」
「クルト!」
その予言従うことこそが最善の選択だと信じ行動しているユカルドにとっていくら可愛い後輩だろうと見逃せる失言ではなかった。
「…っ!でも!」
久々に感じたユカルド先輩の怒りに触れ、軽く腰が引けたがそれでも引き下がるわけには行かないのだ。
「でも予言の通りならユカルド先輩は…!」
「いいんだ、もう…いいんだよ、クルト…」
「何が…何がもういいんですか!ユカルド先輩だって最初のころは反対してたじゃないですか!倫理に反するって!なんで今更ながら予言に従うことにしたんですか!」
実はなぜユカルドが予言に従うようになったのか、クルトはその理由を知らなかったし知ろうともしなかった。だって…知ってしまったらもう止めることが出来なくなってしまうかもしれないから…
「簡単なことさ…それは自分自身のためだよ」
「自分自身の…ため…?」
「もうそろそろいいだろう?「BHF」の職員たちや私の仲間たちも心配しているだろうからね」
「まだ話は終わっていません!ユカルド先輩、逃げるんですか!?」
「いや話は終わりだよ、クルト…君と話しても平行線だからね…もう話したって無駄なんだよ」
「無駄…だなんて…!くっ…!」
平行線であり話しても無駄だってことはクルト自身にも分かっている…でも、だからって…
そうしてクルトが葛藤している間にもユカルドは空間の狭間に出入り口たる穴を開け向こう側へ行っていた。
「もう…手遅れだって言うのか…?自分には昔のあの日々に戻るどころかユカルド先輩を止めることすら…できないと言うのか…!」
あまりの悔しさに歯を食いしばり手を強く握り血が滴り落ちたが…この空間の狭間には歯軋りする音すら聞こえなかった…
時は分からず場所は訓練場
そこにはいつのまにか仲良くなったアクト、クリフェン、エザールそして楽しそうに会話をしているアクトを見つめる(危ないオーラを出しながら)セレスがいた。
「そういやエザールに質問なんだけどさ」
「あん?んだよアク坊、俺様に答えさせることならなんでも聞けよ」
エザールはアクトのことをアク坊、クリフェンのことはフェン坊と呼ぶようになっていた
「ボリダー先生を見たときに『遠距離』のボリダーとか言ってたけど…それについて教えてくないか?」
『確かにギシュルの現代でのお話は少し興味ありますね』
「確かに気になるな…あの男を獲物みたいに見る狩人の目…あんなのどこで身につけたのか…」
『それは“転生前”が関係あると思うよー?なんせギシュルって元々女だったしねー』
ソフィアとファニファはとっくに呼び戻されアクトとクリフェンに少し攻められるという一幕はあったものの今ではこのように友好を深めているのである
「その“転生”ってのと“転生前”は女だったってのも気になるけど…なぁ教えてくれるか?『遠距離』のボリダーについてさ」
「その前に俺様たちの代の“スペシャライザー”のメンバーについて説明するか…」
そしてエザールは“スペシャライザー”のメンバーの紹介を始めた
『頭脳』のロクリア
『攻撃』のボルテノ
『速度』のヴォロシティー
『防御』のディフェス
そして『再生』のエザール
「俺様たちは『叛逆の杯』っていう…まぁユカルドの言う呪われし装備ってヤツだな…を飲まされるために各地にある孤児院で殺し合いをさせられたんだよ。不意打ち、毒殺、斬殺、撲殺etc…なんでもありの殺し合いさ」
「そんな…なんで…」
手に入れたスキルは過去の後悔や自分の罪を体現しているものであると国語の授業でレーニヴァルト先生が雑談…というか授業時間を潰すために話しているのをアクトは思い出していた(そのときのクリフェンはと言うと…寝ていた)
そう考えると「治癒」のスキルを持つセレスにとって他人の生死について人一倍の後悔があり、エザールのいたらしい孤児院での殺し合いの話を聞き顔色がかなり悪くなり思わず呟いていた
「悪りぃな嬢ちゃん、聞いてて辛いようなら席を外してくれ」
アクト達と仲良くなりこいつらになら自分の過去を話してもいいと、そう思えるほど信用してしまったエザールはそれと同じくらいセレスのことも信用していた。
それ故に辛そうな顔は出来る限り見たくなかったしさせたくなかった。
「いや続けてくださいな、私には…聞く権利があり義務があると、そう思うわ」
「そうか…じゃあ続けるぞ。それで殺し合いをさせた末に生き残った者達は全員連れて行かれたよ…1人残らずな」
「連れて行かれたって…どこへ?」
聞かなくても分かっていたがアクトは聞かなくてはならないと思った
「ギルド「コフィン」。その本拠地さ」
エザールが言い切り辺りは静寂に包まれた
何も言えなかったのではない。何を言えばいいのか分からなかったのだ
「その話、アタシ達も混ぜてくれないかしら?」
「ごめんねアクト君…ちょっと野暮用があってね」
「シャドウ!」
「え、ちょっ、アクト君!?」
アクトはシャドウの姿を見つけるなり抱きついた。アクト自身ですら無意識のうちに
「あ、アクト様!?」と狼狽するセレス
「あああアクト!?俺にだって抱きついてきたことないのに…」と段々と語尾が弱くなっていったクリフェン
『アクト』
「はっ!ご、ごめん…俺…なにして…」
ソフィアに名前を呼ばれ我に返ったアクトは明らかに過剰なほど動揺しながらシャドウから距離を取った
「アクト君…?」「アクト様?」「アク坊どうしたよ?」「アクト…どうしたって言うんだよ…?」
「あ、あれ…?俺…どうしてこんなに動揺して…なんでシャドウから距離を…」
動揺のあまりブツブツ呟きながらどんどん後ずさっていくアクト
「ボリダー先生!ゴーレムを出してください!これが何か言いたそうにしています」
「えぇ、分かったわ」
『久しぶりですねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?』
空間そのものが震えたのではないかと思えるほどの大声を出した
『その喋り方…まさかムサシ!?』
『え、ウソ!?ムサシ!?』
ソフィアとファニファは驚いて声を上げたがムサシはアクトのことしか見ていなかった
というよりアクトの中にいる何かを見ていた
『こんな姿で申し訳ないのですがお会いできて光栄ですぅぅぅ!!』
そして一拍置いてから信じ難いことを叫んだ
『お会いできて拙者、感激なのですよぉぉぉ!“魔王 アークトルディア”様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』




