銀糸草を探しに
依頼の手続きを終え、私たちはギルドを出た。
大きな鞄を背負い、採取用の籠を持ったリネットと一緒に、街を出て東へ向かう。
隣を歩いていたリネットが、何度も私の服へ視線を向けていた。
「何か気になる?」
「すみません。昨日とは違う服でしたので……レースや飾りも少し違いますよね?」
「よく気づいたわね。昨日のより少し大人っぽいでしょう?」
「はい。薔薇の飾りも素敵です!」
リネットは目を輝かせ、胸元の薔薇やスカートのレースを見つめている。
吸い寄せられるように手を伸ばし、触れる直前で慌てて引っ込める。
「あっ……すみません」
「触ってみる?」
私は袖を差し出した。
「はい!」
リネットはそっと袖のレースに触れた。
やっぱりこの子は服が好きなのね。
しばらく道を進むと、東の森が見えてきた。
「銀糸草って、どんな草なの?」
「細長い葉に、銀色の線が入っている草です。茎の繊維がとても細くて……糸にすると綺麗なんですよ」
「昨日、店で見た服にも?」
「はい。あの服の刺繍に使う予定なんです」
それなら、ちゃんと採って帰りたいわね。
森へ入り、細い道を進むと、茂みから角の生えたウサギの魔物が三体現れる。
「リネット。下がって」
「はい。角ウサギは小型の魔物ですが、ツノに気をつけてください」
リネットを後ろに下がらせ、構えを取る。
「ミオさん、武器は使わないんですか?」
そっか、ゴスロリ姿の美少女が素手だと不自然よね。中身は少女じゃないけど……
「大丈夫よ。安心して見ていて」
左から飛びかかってきた一体を軽いパンチで倒す。続けて右の一体も力を抑えて殴り飛ばす。このくらいの魔物ならこれで十分ね。
最後の一体だけ、他の二体より一回り大きい。
正面から飛び込んでくる。軽く拳を合わせるが、仰け反っただけで踏みとどまった。
あれ、少し堅い?
ウサギは体勢を立て直すと、今度は角を突き出して突っ込んできた。
「フン!」
強めの右ストレートを叩き込むと、角が砕け、ウサギの魔物は大きく吹き飛んだ。
今のは力が入りすぎたわね。
しかも変な声も出た……
「凄い……」
リネットは驚いたように私を見ていた。
三体の角ウサギは黒い粉のようになって消えていった。
「あれ、魔晶核は出ないの?」
「はい。角ウサギだと、ほとんど出ませんよ。強い魔物ほど残しやすいんです」
強い魔物ほど……。
じゃあ、あの猪は結構強かったのね。
森の中をしばらく進むと、少し開けた場所に出た。
大きな木の根元には、銀色の線が入った草がまとまって生えている。
「ありました!」
リネットは嬉しそうに駆け寄り、茎を傷つけないよう銀糸草を一本ずつ採り始めた。
私は少し離れた場所で周囲を見渡す。
先ほどまで聞こえていた鳥の声が、突然止んだ。
正面の茂みから、枝の折れる音がした。
「リネット。私の後ろへ」
リネットが慌てて立ち上がり、私の後ろへ下がる。
茂みを押し分けて現れたのは、三体のオークだった。
「そんな……どうして森の浅い場所に……」
背丈は二メートルほど。豚に似た顔の口元から、短い牙が突き出している。太い腕と大きな腹。三体とも、棍棒を手にしていた。
オーク。物語では女性を狙う魔物だったはず。
これは……まさか、くっころ展開!?
「くっころ」……確か、「くっ、殺せ!」の略だったわよね。女騎士が敵に捕まったときに言う、あれ。
くっころって、なんだか妙に耳に残るのよね。
……いけない。今はそれどころじゃない。
……今の私は可愛い。奴らから見れば、格好の獲物でしょうね。
……来なさい。
私はそう簡単にやられないわよ。
気合いを入れて構える。
「グオオ!!」
三体のオークが雄叫びを上げ、一斉に走り出した。私には目もくれず、横を抜けてリネットへと向かう。
「…………」
素早く後ろへ跳び、リネットへ迫る三体を迎え撃つ。
右フック、左フック。最後の一体には、少し力みすぎた右ストレートを叩き込む。三体まとめて大きく吹き飛んだ。
「……何で私に来ないのよ」
いけない。心の声が漏れてた。
「リネット、帰りましょう」
「ミオさん…後ろ」
振り返るとオーク三体が起き上がっていた。
……あれで倒せないのね。




