ひとまず生活費は確保
少女は店の扉に鍵をかけ、私の隣に並んだ。
「そういえば、名前を聞いていなかったわね。私は澪」
「リネットです。よろしくお願いします、ミオさん」
リネットは栗色の髪をリボンで結び、緑のワンピースを着ていた。白い襟と袖口には、小さな花の刺繍が入っている。
妹がいたらこんな感じかな?…可愛い。
「ミオさん?」
「なんでもないわ。行きましょう」
……私に妹属性はない…はず。
リネットと並んで市場通りを歩く。
「お店は、いつも一人でやっているの?」
「はい。両親は仕立ての仕事で、別の工房にいるんです。ここには私が作った服を置いています」
「そうなの。自分の好きな服を置けるのはいいわね」
「はい。お客さんは少ないですけど…もっと作りたい服があるんです」
……次に来るとき、どんな服が増えてるのか少し楽しみかも。
リネットの案内で市場通りを抜け、ギルドに着いた。建物の扉を開けると、受付の前に数人が並んでいた。
「まず、身分証の登録をしてくるわ」
私の番になると、茶色い髪を後ろでまとめた女性職員が、書類から顔を上げて穏やかに微笑んだ。
「身分証の登録と、あとコレを売りたいのだけど」
アイテムボックスを開くと、拾った結晶が『魔晶核』と表示されていた。
……名前がわかると、表示も変わるのね。
魔晶核を取り出し、カウンターに置いた。
「仮入門証はお持ちですか?」
渡すと、職員は書類に名前を書き込み、小さな札を差し出した。
「こちらが身分証です。お名前と年齢を記入してください」
札に名前と年齢を書く。
黒瀬 澪 24歳
「コレでいい?」
「えっ?」
受付のお姉さんが思わず声を出す。
隣のリネットも、目を丸くしていた。
「てっきりミオさんは十代かと思ってました…。
あっ、すみません失礼なことを」
リネットが慌てて頭を下げた。
心なしか、少し引かれてる気がする…
この顔だし仕方ないか。
「問題ないわ。年齢なんて人間の価値とは関係ないから」
…言い訳ではないよ。
「…失礼しました。次に魔晶核を拝見しますね」
職員は結晶を受け取り、机の上の鑑定具に置く。淡い光が灯ると、その手が止まった。
「これは…大牙猪の魔晶核ですね。討伐されたのは、ミオさんですか!?」
「ええ。森で襲われたから倒したわ」
「念のため、こちらに手を置いていただけますか」
言われたとおりにすると、鑑定具の光が少し強くなる。職員は結晶と私を交互に見た。
「討伐した方の反応も一致しています。冒険者登録はお済みですか?」
「いいえ。登録しないと売れないの?」
「買取はできますよ。ただ、大牙猪を倒せる方でしたら、冒険者としても十分に活躍できると思います。登録していかれませんか?」
「そうね…今は身分証だけでいいわ」
「承知しました。気が変わりましたら、ぜひお声がけください」
職員は少し残念そうに微笑んだ。
「では、魔晶核はこちらで買い取らせていただきます。大きさも輝きも十分ですので、かなりの金額になりますよ」
「そんなに価値があるの?」
「魔晶核は町の結界や街灯を動かすために使われます。強い魔物のものほど、蓄えている力も大きいんです」
職員は魔晶核を脇へ置き、引き出しから硬貨を取り出して数え始めた。
「買取額は銀貨三十枚になります」
職員は硬貨の入った袋をカウンターへ置いた。
「凄い…これだけあれば、宿代と食事代で一か月は暮らせますよ」
隣からリネットの驚く声が聞こえた。どうやら、しばらくは生活に困らない金額らしい。
ギルドを出ると、通りの街灯に次々と明かりが灯っていた。
…あれも魔晶核で動いているのね。
袋から銀貨を一枚取り出し、リネットに差し出した。
「リネット、案内してくれたお礼に少し受け取って」
「そんな、いただけません。私はここまで案内しただけですから」
「でも、あなたが教えてくれなければ、魔晶核の価値も分からなかったわ」
「それなら、またお店へ来てください。私の服を見ていただけるだけで嬉しいです」
「そう。なら、次はちゃんと買わせてもらうわ」
「ミオさん、今夜泊まる場所は決まっていますか?」
「……まだだったわ」
お金の次は寝る場所。考えることが多いわね。
「それなら、近くにおすすめの宿があります。中央広場の噴水を右に曲がった先です。青い屋根と、白い猫の看板が目印ですよ」
「食事もできる?」
「はい。女将さんも親切ですし、料理もおいしいです」
「それなら、そこにするわ。何から何までありがとう」
「いえ。それではここで」
中央広場でリネットと別れ、教えられた道を進む。しばらくすると、青い屋根の建物と白い猫が描かれた看板が見えてきた。
「今度は迷わず着いたわね」
少しだけ満足しながら、宿の扉を開けた。




