服好きの少女
「凄い、全然疲れない」
スカートの裾をなびかせ、走り続ける。
しばらく走ると、木々の間に踏み固められた道を見つけた。地面には荷車の轍も残っている。
……これを辿れば、人のいる場所に着きそうね。
道に沿って進み、森を抜けると、高い城壁が見えた。門では人や荷車が行き来している。
門に近づくと、人が増えてきた。
男の人はシャツにズボン、女の人は長いスカートにエプロンと、服装はどれも簡素だった。
列に並ぶと、周りの人がチラチラとこちらを見る。
……全然気にしてないわ。という顔をしておく。
私の番になり、門の前へ行く。
門兵さんは私を見て少し驚いた表情を見せたが、すぐに仕事の顔に戻った。
……さすがプロね。
「身分証を見せてくれ」
「持っていないわ」
「この町は初めてか?」
「ええ」
「なら名前と目的を。仮入門証を出すから、今日中にギルドで身分登録してくれ」
「名前は黒瀬澪。目的は…」
少し服の汚れを見て考える。
「とりあえず、服屋へ行きたいわ」
門兵は少し意外そうな表情で、名前と目的を記録する。
「服屋なら市場通りだ。あんたの好みなら、中央広場の噴水を左へ行った先の店が合うかもしれん。少し変わった店だ」
「ありがとう。行ってみるわ」
門を潜り街に入る。
そういえば、普通に言葉が通じている。
異世界言語スキル的なものでもあるのかな?
……都合がいいわね。
少し道に迷いながらも服屋に辿り着く。
変わった店と言ってたけど…入ってみましょう。
「いらっしゃいませ」
店に入ると十二歳くらいの少女がカウンターにいた。私が軽く会釈をすると、少女は目を輝かせてこちらに来た。
「……そのレース、初めて見ました」
私の前で立ち止まる。胸元のリボンから袖口へ視線を移し、今度はスカートの裾をのぞき込んだ。
「こんなに細かい飾りがあるのに、縫い目が見えません。どうやって作ったんですか?」
「ええと……私にも、よく分からないの」
……ずいぶん近いわね。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
少女はもう少し近づきかけて、はっと顔を上げた。
「すみません! お客様の服を、じろじろ見てしまって」
「構わないわ。服が好きなのね」
「はい!」
その返事は迷いがなかった。
「服を見せてもらうわね」
「ごゆっくりご覧になってください」
店内に並ぶ服を見て回る。
……可愛い。
少し変わったデザインだけど、元の世界でも普通にオシャレな服だと思う。
奥に置かれた、一着の服に目が止まる。
深い紺色のワンピースに白い襟。腰は細く絞られ、スカートには銀糸で小さな花が刺繍されている。片方の袖はまだ付いておらず、裾からは糸が垂れていた。
「これは売り物?」
「はい、ですが、こちらはまだ製作中でして…」
「そう。とてもオシャレで可愛い服ね」
「本当ですか?ありがとうございます!初めて私の作った服を褒めてもらえました」
そういえば街の人達の服装は簡素な物で、オシャレさがなかった。文化の違い?
「ここの服はアナタが作ってるの?」
「はい、ここにある服は全て私が作ってます。街の人達にはあまり見ていただけませんが…」
……全部自分で作ってるんだ。ちょっと凄いかも。
「私はここの服、好きよ。何か買わせてもらうわ。」
そう言ってからお金のことに気がついた。
アイテムボックスを見るが、元の世界の所持品は入っていない。あるのは猪の魔物を倒したときに出た結晶と…可愛いだけの杖。
念じると結晶が手に現れる。
…段々、使い方がわかってきた。
「これをお金に変えられる?」
「これは…魔晶核。こんな大きくて輝きの強い物は初めて見ました!」
……あの猪、思っていたより大物だったみたいね。
「魔晶核は、ギルドで買い取ってもらえます。この街は初めてですよね? よかったらご案内します」
「ありがとう。でも、お店はいいの?」
「もう日も暮れますし大丈夫です。それに今日はアナタが初めてのお客様ですから…」
少女はそう言って、小さく笑った。
「ありがとう。頼むわね」
「はい。ご案内します」
まずはギルドで身分証を確保。
服を買うのは、それからにしよう。




