エリナさんと虫退治 後編
村へ向かう道中、何匹か虫の魔物を倒した。
依頼書で見たより、ずいぶん多い気がする。
そのたびに、エリナさんは悲鳴を上げながら死骸を燃やしていた。
……この光景にも、もう慣れてしまった。
「そういえば、何ですぐ燃やさないといけないの?」
「虫の魔物の死骸は、時間が経つと毒気や病の元になるんです。だから私が一生懸命燃やしてるんですよ……」
「……ありがとう。頑張ってね」
しばらく歩き、村に着いた。
村人に話を聞くと、最近は畑だけでなく家の近くにも虫の魔物が出るらしい。
「北の洞窟から出てきてるんじゃないかって話なんだ。前はこんなに多くなかったんだが……」
北の洞窟。
そこに巣がある可能性が高そうね。
「じゃあ、そこを見に行きましょうか」
「待ってください!」
エリナさんが、今までで一番大きな声を出した。
「虫の巣となると、依頼の範囲を超えています。一度戻って、パーティーを組み直してから出直しましょう」
「でも、私なら全部倒せると思うよ。この村の人たちのためにも、早めに駆除したほうがいいんじゃない?」
「それは、そうかもしれませんけど……足がすくんで動けません」
「お姫様抱っこする?」
「結構です!」
でも……確かに、無理強いはよくないわね。
ここまで頑張ってくれたし、仕方ないか。
「わかりました。貴女はよく頑張りました」
「……ミオさん?」
「大丈夫。貴女はここで休んでいてください。なんなら、わたくしが焚き火の火でも使って、虫の死骸くらい焼き払ってみせますよ」
私はいつの間にかお気に入りになっていた聖女ムーブで、彼女を慰める。
「何ですかそれ?大虫の死骸は焚き火くらいじゃ焼けませんよ」
彼女は小さく笑いながらそう言った。
「ミオさんの声……なんだか、あの方に似ています」
「あの方?」
「私の憧れの方です。とても綺麗で……振る舞いも、まるで聖女のような方でした。リネットさんのお店で接客をされていて」
……そういえば、あの日は徹夜のテンションもあって聖女ムーブをしていたわね。
そこから始まってしまったのか……。
「……ああ、あの人ね」
「あの方をご存じなんですか!?」
「ええ。よく知ってるわ」
「でしたら、あの方に会わせてください!
あれから何度も探しているんです。でも、どうしてもお会いできなくて……お願いします」
「ええ……でも」
そんな話をしていると、村の外れから悲鳴が聞こえた。
振り向くと、大虫が三体こちらへ向かってきている。
「エリナさん、村の人たちをお願い!」
私は駆け出し、先頭の一体を殴り飛ばす。続けて二体目、三体目も倒した。
すぐに片づいたけど、やっぱり数が多い。
このまま巣を放っておくのはまずそうね。
「エリナさん。緊急事態だから、私は巣を潰しに行くわ。できたら、巣にいる虫の死骸を焼却してほしいのだけど……」
少し考えてから、私は続けた。
「協力してくれたら、その人とデートさせてあげるわ!」
「デート!?」
「この条件でどうかしら?」
次の瞬間には、エリナさんの右手が大虫の死骸へ向いていた。
「《煉獄火炎》!」
三体の虫の死骸が、一気に炎に包まれた。
……何これ。すごい。
「中級魔法です。モタモタしている時間はありません。巣に向かいますよ、ミオさん」
……OKってことね。
私たちは急いで洞窟の前までやってきた。
「エリナさん、覚悟はいい?」
「はい。私も魔法で援護します。行きましょう」
……さっきまでとは別人みたいに強気ね。
私たちはそのまま洞窟へ入った。
しばらく進むと、奥に虫の巣らしき場所が見えてきた。
そこは……ムシ虫パラダイスだった。
見渡す限り、虫、虫、虫。
巨大なムカデ。
巨大な芋虫。
巨大なゴキブリ。
巨大なバッタ。
それ以外にも、名前すら知らない虫たちがそこら中を這い回っている。
……これは壮観ね。
「エリナさん、準備はいい?
私が突っ込むから、魔法で援護をお願い」
返事がない。
振り返ると、エリナさんはその場で気絶していた……。
……まあ、仕方ないわね。
私は彼女を少し離れた安全な場所に寝かせると、そのまま虫の大群へ突っ込んだ。
まずは、四メートルはありそうな巨大ムカデへ飛び蹴りを叩き込む。
スカートが派手に捲れたけど、今は誰も見ていない。
……久しぶりに、蹴り解禁ね。
次に飛びかかってきた巨大ゴキブリへ踵落とし。
芋虫は回し蹴りでまとめて吹き飛ばす。
……やっぱり、蹴りは威力があって楽だわ。
そのまま私は、ムシ虫パラダイスを蹂躙していった。
しばらくして、エリナさんが目を覚ました。
「起きた?あとは焼くだけよ」
「えっ……」
エリナさんがゆっくりと周囲を見渡す。
そこには、大量の虫の死骸が転がっていた。
「……これ、全部ですか?」
「全部よ」
「…………」
エリナさんは、目の前に広がる虫の死骸をしばらく見つめていた。
「全部焼きます……」
泣きそうになりながらも、頑張って死骸を燃やしてくれた。
「ミオさん、服が体液まみれですけど大丈夫ですか?」
「いいわよ。帰ったら着替えるから」
「そうですか……本当にありがとうございました。ミオさんがいたから、最後まで頑張れました」
全ての死骸を燃やし尽くし、疲れ切ったエリナさんは再び倒れた。
エリナさんをおんぶして、街へ戻る。
しばらく歩いたところで、エリナさんが目を覚ました。
「……ん」
「起きた?今から帰るところよ」
「よく頑張ったわね。ありがとう」
「いえ……私は、焼いただけですから」
「あれ……ミオさん、服を着替えたんですか?」
「ええ。なんだか気が変わったから」
そう答えると、彼女は小さく笑った。
「優しいんですね」
「……何のこと?」
心なしか、背中に回された腕に少し力がこもった。
「あの方に会えるの、楽しみです。決まったら教えてくださいね」
「……ええ。わかったわ」
……さて。
残ったデート問題を、どうするか。
そんなことを考えながら、私は街への道を歩いた。
最初は名前もなく、ただの受付のお姉さんのつもりだったエリナさん。
気づけば、ヒロインっぽい立ち位置になっていました。




