食べ歩きが楽しい
「特盛りカツ丼をください」
「あいよ!いつものね」
私の前に運ばれてきたのは、カツが四枚も乗った特製カツ丼。
まずはカツを一口。
サクッとした歯応えがたまらない。
ここのカツ丼は、揚げたてのサクサクしたカツと、ふわふわの半熟卵の組み合わせが絶妙。
煮込んで衣がしっとりしたカツ丼も好きだけど、こっちも大好き。
……美味しい。
ものの十分ほどで軽く平らげた。
「ごちそうさまでした」
「毎度!今日もいい食べっぷりだね」
「マスターのカツ丼が美味しいからよ」
……さて、明日は何を食べようかしら。
この世界に来て、もう二ヶ月が経った。
最近の私の楽しみは食べ歩き。
……というか、プチ大食い?
このゴスロリ装備を着ていると、普段の何倍も食べられることに気づいた。
しかも、最近は街の工事現場で力仕事をしているから、カロリーも消費してるはず。
これだけ動いてるんだから、太る心配もないわよね。
たくさん動いても疲れないし、好きなだけ食べられる。
……最高の異世界生活だわ。
今日の仕事は、城壁の修理現場での力仕事。
修理に使う石材を運んだり、崩れた石を片づけたりする仕事だ。
普段は他の人の仕事まで取らないように、三人分くらいの仕事量に抑えている。
でも今日は修理が遅れているらしく、現場の親方からできるだけ頑張ってほしいと頼まれた。
それなら、遠慮なく。
私は大きな石材を次々と運んでいく。
「おおーっ!」
男達から歓声が上がった。
……ざっと十人分ってところね。
「ミオちゃん、ありがとよ!」
「可愛くて怪力で、ほんと頼りになるよ!」
「ええ。でも、私に惚れちゃダメよ?」
ちょっと澄ました感じで言ってみた。
「ははは!それはないから安心しな!」
「ないない!」
男達は笑いながら口々に否定する。
……何でよ。
今日はたくさん働いたし、いつもより食べよう。
私はデカ盛りカツカレーがある店に向かった。
……デカ盛りカツカレー。
それは皆の憧れだ。
元の世界にいた頃は、大盛りカツカレーを食べるのが精一杯だった。
普通の女の人よりは、少し食べる方だったと思う。
今の私なら、その気になればフードファイター並みに食べられそう。だが、あえてそれはしない。
……腹八分目が、美味しく食べるコツ。
店に着くなり注文した。
「デカ盛りカツカレーをお願いします」
しばらくすると、店主が大きなお皿を運んできた。
「お待ちどう!」
目の前に置かれたのは、約五合のご飯に特大カツが二枚乗ったカツカレー。
……相変わらずすごい量ね。
ここのカツは、スプーンで切れるくらい柔らかい。
こだわりというほどではないけど、私はカツを一口大に切り、ルーとライスと一緒にバランスよくスプーンに乗せて食べる。
カツカレーを味わうなら、これが一番だと思っている。
……美味しい。
あっという間に平らげてしまった。
これが今の私の八分目。
食べ終えて席を立とうとしたところで、店主に声をかけられた。
「ミオちゃんは小さいのによく食べるね」
「……小さい?」
思わず座り直した。
「……私って小さい?」
「悪い、言葉のアヤみたいなもんだ。気にしないでくれ」
「そうよね……。マスター、追加でラーメン一つ」
「あいよ!」
なんとなく腑に落ちないので、もう少し食べることにした。……ラーメンは別腹。
翌日、店主に「小さい」と言われたのが、気になりギルドにやってきた。
知り合いの女性陣と身長を比べてみよう。
まずはエリナさんから、受付に向かう。
「おはようございます、ミオさん。今日は依頼ですか?」
「おはよう、エリナさん。ところで、身長って何センチ?」
「えっ、身長ですか?165センチですが……」
……私よりだいぶ大きい。
エリナさんは理想的な身長。
ここは私の負けね。
私は無言で受付を後にした。
「……あの、ミオさん?」
後ろから声が聞こえるけど、気にせず次の目的地へ向かう。
次は二階の廊下で、ギルドマスターを待ち伏せる。
しばらくすると、ギルドマスターが姿を現した。
「おはようございます、ギルドマスター」
「おはようございます。どうされました?」
……うん。
推定140センチ未満。
ここは私がだいぶ勝ち。
……ギルドマスターは小さい。
「あなた、今失礼なことを……」
「失礼します!」
私はダッシュでその場を後にした。
そんな感じで、私は幸せな異世界生活を満喫していた。
働いて、食べて、また働いて、食べて、食べて……。
そんな生活を二週間ほど続けていたある日、リネットから呼び出された。
店に行くと、リネットはいつになく真剣な顔をしていた。
「……ミオさん。お話があります」




