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エリナさんと虫退治 前編

最近は、気が向いた日にギルドの依頼を受けている。

できそうな依頼を選んで、気ままにやっていた。


そんな中、少し気になることがある。

エリナさんが、前より綺麗になった気がする。

化粧も前より丁寧だし、髪型も少し変わった。


元から可愛い人だったけど……。

何かいいことでもあったのかしら?


そんなある日。

ギルドに顔を出すと、エリナさんに呼び止められた。


「ミオさん。こちらのクエストを受けていただけないでしょうか?」


いつもより少し困った顔をしている。


「大虫の討伐です。ラト村の近くで増えているらしくて……でも、誰も受けたがらないんです」


「いいわよ」

「やっぱりダメですよね……え?いいんですか?」

「ええ、虫の魔物を倒せばいいのよね?」


「誰も受けてくれないので助かりました。

私も虫は大の苦手で……想像するだけで鳥肌が立ちます」

「そう?虫って結構可愛いと思うけど」


「可愛い虫なんていませんよ」


エリナさんは黒い笑顔を浮かべ、依頼書を取り出した。


「それでは、ラト村付近の大虫討伐ですね。倒した後、死骸は必ず燃やしてください」


「燃やす?どうやって?」

「初級の炎魔法で十分ですよ。ミオさんは使えますか?」

「あー……私、攻撃魔法は使えないのよね」


「ミオさんが使えないのは意外ですね……。初級の炎魔法なら、ほとんどの人が使えるんですが」


「エリナさんも使えるの?」

「はい。私も基本魔法は一通り習得しています」


そうなんだ?

私も基本の魔法が欲しかったな。


「でしたら、魔法を使える冒険者をサポート役に探します。ミオさんが倒してくれるなら、焼却だけなら引き受けてくれる人もいると思います」


「えー……知らない人と行くの?」

「はい。ミオさんは炎魔法が使えませんから、焼却を任せる人が必要です。虫の魔物は普通の魔物と違って、死骸が残ってしまいますから」


……うーん。

知らない人と一緒に行くのは気疲れしそうね。

やめようかな。


「今さらやめるなんて言わないでくださいよ」


……笑顔だけど、目が笑っていない。

やめるなんて言ったら怒られそうね。


私はニヤリと笑い、エリナさんの手を握った。


「じゃあ、エリナさんが一緒に来てよ」

「えっ?」

「私、知らない人と一緒に行きたくないし。

エリナさんが来てくれるなら、この依頼やるわ」


「無理です!私、虫だけは本当に……」


そこで何かを思い出したように、エリナさんはいつもの笑顔に戻る。


「いえ、ギルド職員の私はクエストに同行することはできません。これは決まりですから、仕方のないことなんですよ」


……ずいぶん嬉しそうに言うわね。


「なら、上の人が許せばいいのよね?」

「……え?」



二階にあるギルドマスターの部屋へ向かう。


コンコン。


「はい。どうぞ」

「失礼します」


部屋に入ると、相変わらず十歳くらいにしか見えないギルドマスターが机に向かっていた。


そして、私の手元を見るなり目を輝かせた。


私が持っているのは《冥府の黒猫座布団》。

誕生日特典でもらった特別な家具だけど、ただの黒猫クッションだ。


「まずは、こちらをお納めいただきたく」

「何が望みですか?」


さすがギルドマスター。話が早い。


「エリナさんを私にください」

「は?何を言ってるんですか?」


私は事情を説明した。


「なるほど……事情はわかりました。本来なら認められませんが、猫ちゃんに免じて……いえ、村人の安全のため、今回は許可しましょう」


「ありがとうございます」


話のわかるギルドマスターで助かった。

……これでエリナさんは私のもの。


私は上機嫌で部屋を出て、エリナさんのところへ戻った。


「ギルドマスターの許可をもらったわ。一緒に討伐に行きましょう」

「……行きません」

「でも、許可はもらったわよ?」

「……絶対に行きません」


どうしても動こうとしないので、私はエリナさんをお姫様抱っこした。


「きゃあっ!? ミ、ミオさん!?」


そのまま出口へ向かう。


「ちょ、ちょっと! 歩きます! 自分で歩きますから!」


そこまで言うなら、とエリナさんを降ろし、一緒にラト村へ向かった。


村の近くまで来たところで、エリナさんが少し不満そうな顔で私を見た。


「強引に連れてきて……ひどいですね、ミオさん」

「ごめんね。でも、せっかくここまで来たんだし、仲良くやりましょう」


プイッとそっぽを向かれた。

……まだ機嫌は直らなそうね。



しばらく歩いていると、茂みから体長二メートルほどの巨大なバッタの魔物が飛び出してきた。


「きゃあああああっ!」


エリナさんの絶叫が辺りに響き渡る。


「これ、倒していいやつ?」

「当たり前じゃないですか!早くなんとかしてください!」


飛びかかってきたバッタの魔物に、正拳突きを叩き込む。


グチャッ……。

嫌な音を立てて、バッタは地面に落ち、動かなくなった。


……拳には体液らしき汁がベッタリついている。


「終わったわよ」

「ミオさん、手にバッタの体液が……」

「ああ、なんかついてるわね」


私はゴスロリ服で雑に手を拭う。


「ふ、服で!?」

「どうせ帰ったら洗うからいいわよ。それより、あとはお願い」


「ひっ……こ、こっち見てる気がする……」

「死んでるから大丈夫よ」

「分かってます!」


エリナさんはしばらく死骸とにらみ合ったあと、ようやく杖を向けた。


「《火炎》!」


炎がバッタの死骸を包む。


結局、死骸を燃やすまでに三十分もかかった。

ほとんど心の準備の時間だったけど。


……一匹目でこれじゃ、先が思いやられるわね。

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