Dランクになりました
「あなたをギルドの監視下に置きます」
ギルドの一室で、私にそう言い渡したお偉いさんは、幼女だった……。
遡ること一時間ほど前。
私は四人の冒険者に絡まれていた。
冒険者というより、ゴロつきといった風貌の男達だ。
「Fランクのお嬢ちゃん一人じゃ、何かと大変だろ?」
「Eランクの俺たちが一緒に行ってやるよ」
親切で言ってくれてるのかな?
でも、私は1人で気ままにやるのが好きだからお断りした。
「まあまあ、そう言わずにさ」
一人が私の袖を軽く引いた。
……この袖、リネットにしか触らせたことないのに。
ちょっと頭に来て、振り払う。
男は、そのまま勢いよく吹き飛んだ。
「……あ」
軽く払っただけなんだけど。
人相手は、もっと気をつけた方が良さそうね。
「何しやがる!」
男達が怒って向かってきた。
……仕方ない。
今度は、ちゃんと手加減しないとね。
男達の攻撃をひょいひょいかわす。
……うーん。やっぱり、人相手は加減が難しいわね。
「ちょこまか逃げ回りやがって。このブスが」
「ブス………?」
その一言で、考えていたことが全部吹き飛んだ。
気がついたら、あたりは血の海に……
ではないが、少しやりすぎてしまったようだ。
……多分軽い怪我くらいだと思う。
私はギルドの一室に呼び出されていた。
隣には、いつもの受付のお姉さんがいる。
私と面識があるから、付き添いを頼まれたらしい。
「ねえ」
「はい?」
「私ってブスかしら?」
「そんなことは…ないと思いますよ」
「そうよね」
受付のお姉さんによると、ギルドマスターが話があるらしい。
「ねえ」
「はい?」
「今さらだけど、名前を聞いてもいい?」
「私の名前はエリナです。でも、なぜ今?」
「何となく空気に耐えられなくてね」
少し待って現れたのは、十歳くらいに見える少女だった。
その子は席につくなり話を始めた。
「事情は聞いています。今回は相手側に問題があったようなので、重い処分は考えていません。ただ、いくつか確認させてください」
「……何故ここに子供が?」
「しっ……こちらの方はギルドマスターです。
あと、子供ではありません」
えっ?
どう見ても幼女にしか見えない。
リネットより少し小さいくらいだ。
「あの、失礼ですけど、おいくつですか?」
「本当に失礼ですね。30うんさいです」
「30うんさい?すみません、もう一度お願いします」
「……30うんさい」
私の地獄耳には38歳と聞こえた。
そんなことある?
私は幼女……いや、ギルドマスターをまじまじと見つめた。
……これは、まさか、ロリババア!?
最初にその言葉を聞いたときは、意味がよくわからなかった。
ロリとババア?そんな人いるの?くらいに思っていた。
……なるほど、納得。
こういうことだったのね。
あらためてギルドマスターを見つめる。
「……あなた、今失礼なことを考えてましたね?」
「……滅相もございません」
「どうやら、反省の色が見えないようですね。」
……怒らせてしまったようだ。
でも、どうしてわかったんだろう。
顔に出てたかな?
「ねえ」
「はい?」
「エリナさんはいくつなの?」
「十八歳です」
「えっ?私と同じくらいかと思ってた」
「失礼ですね。私はそんなに歳ではありません」
……今日は年齢で怒られてばかりね。
「話を戻しますよ」
ギルドマスターが少し不機嫌そうにこちらを見る。
「あなたをギルドの監視下におきます。
今後は私が厳しく見させてもらいます。
この街で問題を起こすことは許しません!」
幼女の皮を被った悪魔……いや、ギルドマスターはそう言った。
……困ったことになった。
私は気ままな異世界暮らしを楽しみたいだけなのに、ギルドマスターに目をつけられるなんて本末転倒だ。
この状況をどう乗り切るか……そう考えていると、ふとギルドマスターの服が目に入った。
オシャレな服を着ている。
何だか見たことのあるデザインだけど……
……あれ
これ、リネットの店の服じゃない?
この間、リネットの店でたくさん服を買っていたのは、ギルドマスターだったんだ。
……もしかしたら
「大変申し訳ありませんでした。あの、ギルドマスター。お近づきの印に、これを」
アイテムボックスから《可憐な杖》を取り出し、ギルドマスターに差し出す。
その瞬間、ギルマスの顔がぱっと明るくなった。まるで、「ニパア!」という音が聞こえてきそうなくらいに。
「コホン……この私を物で釣ろうだなんて」
「そうですか。では、持って帰ります」
「いらないとは言ってないわ!」
……どうやら、かなり効いてるみたいね。
「わかりました。このような可愛い杖を譲ってくれるあなたが悪い人なわけはありません。」
「……元々、今回のことは相手側に問題がありましたし、あなたを処分するつもりはありませんでした」
「ただ……あなたから、ものすごく失礼なことを考えている気配を感じてしまって。
つい、感情を抑えられませんでした。
……あれは気のせいですよね?」
「もちろんです。私は何も考えていません」
……二度とあの単語を考えたらダメね。
「それでは今回の件は不問とします。今後も、多少の問題は私が揉み消し……いえ、ギルドで対処します」
……だんだんキャラが壊れてきてるわね。
「それにしても、ただでこんな良い物を貰うわけにはいきませんね……」
ギルドマスターは、《可憐な杖》を目を輝かせながら見つめている。
「そうですね……アナタの冒険者ランクを特例でDランクに上げましょう。」
「いきなりDランクに?でも、いいんですか?」
「本来なら、順番に実績を積んでもらう必要があります。ですが、あなたの実力はすでに聞いています」
「大牙猪は、Dランク冒険者が複数で討伐する魔物です。それを一人で倒したうえ、この間はオークも三体討伐している。実力としては十分でしょう」
「それに、Dランクになれば、今回のような質の悪い冒険者から絡まれることも減ると思いますよ」
……うーん。
あまり目立つことはしたくないのよね。
気ままに暮らせれば、それでいいし。
私が悩んでいると、ギルドマスターがニヤリと笑った。
「この街のDランク冒険者は、提携している居酒屋で最初のビールが半額。さらに、つまみ二品が三割引きになります」
「……受けるわ」
私は迷わず答えた。
「でも何故、私がお酒好きだと?」
「この間、大量にお酒を買っていくあなたを見かけました。あなたの格好は目立ちますから」
……見られていたのは私もだった。
こうして、私は可憐な杖を差し出し、ギルドマスターからはDランクのカードを頂いた。
「また可愛い物があれば、お持ちします」
「では私も、多少の問題なら目をつぶることにしましょう」
……まさに、Win-Winの関係ね。
彼女とは長い付き合いになりそうだ。
その後、私はさっそくDランク特典の使える居酒屋へ向かうことにした。
ただ、この姿でお酒を飲んでいたら、さすがに目立ちそう。
私は魔法で、リネットに作ってもらったワンピースへ着替える。
……素顔なら見られる心配はないわね。
居酒屋に入り、さっそくビールとつまみを注文した。
運ばれてきたのは、よく冷えたビールと、香草をまぶして焼いた肉。それに、揚げた芋のようなものだった。
まずはビールを一口。
「……美味しい」
元の世界のビールと似ているけど、こっちの方が少し濃い気がする。
焼いた肉も柔らかい。
香草の香りが強いけど、ビールにはよく合う。
……これは進むわね。
Dランク特典もあるし、この店にはまた来よう。
一人でのんびり飲んでいると、聞き覚えのある声がした。
「おっ、姉ちゃん一人か?」
顔を上げると、昼間殴った四人組だった。
……またあなた達なの?
当然、向こうは私に気づいていない。
「一緒に飲もうぜ」
「遠慮しておくわ」
「まあまあ、そう言わずにさ」
一人が私の袖を掴んだ。
ビリッ。
小さな音がした。
「……あ」
見ると、リネットが作ってくれたワンピースの袖が少し破れていた。
「…………」
私は立ち上がる。
「《月影の転装》」
一瞬で、ゴスロリ姿へ変わる。
四人の顔が固まった。
「あ、あのときの化け物女!?」
「……誰が化け物よ!」
気がつくと辺りは血の海に……
ではないが、前回よりやりすぎてしまったようだ。
……たぶん、まだ軽傷よね?
今回の話は、ミオに「ロリババア!?」と言わせたくて書きました。




