思ってたんと違う
数日後。
私はギルドで【ゴブリン討伐依頼】の依頼書を手に、受付へ向かう。
「おはようございます、ミオさ……」
職員さんは少し固まりながら、私の服を見る。
「失礼しました、ゴブリン討伐依頼ですね」
……今日の服は《白雪》。
白と淡い水色で、可愛さがかなり強い。
本当なら今日は着るつもりじゃなかった。
「ええ、行ってくるわ」
平然と立ち去ろうとして、出口で引き返す。
……思ったより動揺していたらしい。
「この街で家を借りたいのだけど、どこに行けばいい?」
「ミオさん、この街に住まれるのですか?」
「ええ、この街が気に入ったから、しばらくここに住むわ」
「それでしたら、中央通りの住居紹介所に行かれるといいですよ。ベテランの職員さんがついてくれますので安心です」
「ありがとう。行ってみるわ」
まずは、家問題を片付けよう。
住居紹介所に行くと、三十代くらいの女性職員さんが対応してくれた。
「条件は?」
「一人暮らしで、静かなところがいいわ」
「予算は?」
「高すぎなければ」
「曖昧ね」
「……すみません」
……少し怖い雰囲気の人ね。
そんなやり取りのあと、三軒の家を紹介してくれた。
「その服は貴女の趣味?」
「……そんなところです」
「……若いっていいわね」
小さくため息をつきながら、職員さんはそう言った。
……なかなか感じのいい人ね。
紹介された三軒を、職員さんと一緒に見て回ることになった。
二軒見たあと、三軒目の家で足を止めた。
街の外れにある、小さな庭付きの一軒家だ。
「ここにするわ」
「早いわね、いいの?」
「気に入ったから」
前金も、オークの魔晶核を売ったお金で十分足りた。
その日のうちに契約を済ませた。
……今日からここが、私の家だ。
これでやっと宅飲みができる。
1人晩酌は、元の世界での私のささやかな楽しみだった。
次は、ゴブリン討伐依頼を片付けよう。
依頼内容は、村の田畑を荒らすゴブリン五体の討伐。
この依頼を受けた理由の一つは、昨夜見たステータス画面だ。
【名前】黒瀬 澪
【レベル】8
【魔法】《月影の転装》《漆黒の浄罪》
……《漆黒の浄罪》
名前からして、黒い雷でも落とす魔法かな?
……なかなか、カッコいいわね。
やっと素手以外で戦えるかもしれない。そう思って、この依頼を受けた。
依頼書に書かれていた村に着き、村人から話を聞いた。
そのまま畑の外れまで向かう。
……いた。
五体のゴブリンが、好き勝手に作物を荒らしている。
ゴブリン達は私に気づくと、武器を構えながらジリジリと迫ってくる。
フフ……今までの私なら怪力で終わらせるだけだった。
でも、今は違う。
軽く息を吐き、手を前に出す。
周りに誰もいないことを確認し、詠唱を始める。
「黒き稲妻よ、邪の者を焼き尽くせ。
《漆黒の浄罪》!!」
ノリノリで唱えたその瞬間、ゴブリン達が纏っているボロ布に小さな水しぶきが舞い、黒い汚れが一瞬で消えた。
……まさか、これは!?
「ちょっと、タイム!」
ゴブリン達にそう言って、私は距離を取る。
衣装欄からゴスロリ服を出す。
「……《漆黒の浄罪》」
すると、何ということでしょう。
みるみるうちに汚れが落ちていく。
しかも……乾燥付き。
今までは洗面器で洗ったり、川で洗ったりしてたけど、洗剤もない上に、なかなか乾かない。
とくに、下着を洗うのは大変だった……。
思ってたんと違う……
でも、この魔法は最高ね。全部洗ってしまいましょう。
早くこの派手な《白雪》から《黒曜》に戻したいし。
服を洗っていると、後ろからゴブリンが襲ってきた。
私は、振り返りもせず、近づいてきた順に裏拳で叩き落とす。
「タイムって言ったじゃない?」
ゴブリンを倒した後、ゆっくり洗濯を終わらせ、《黒曜》に着替える。
やっぱり、この服が一番落ち着くかな。
街に戻り、ギルドで依頼完了の報告をする。外はすっかり暗くなっていた。
帰りにお酒を買い、そのまま家へ向かう。
途中、リネットの店を見ると、まだ灯りがついていた。中をそっと覗くと、リネットは服作りに集中していた。
今日は声をかけないことにしよう。
……頑張ってね、リネット。
家に着き、さっそく買ってきたお酒を開ける。
異世界に来てから初めてのお酒に、私は思わず痛飲してしまった。
……リネットが大人だったら、一緒に飲めるのにな。
そんなことを考えているうちに、いつのまにか眠っていた。




