違い
「……っっ! ヴェルハイト様、あ、あの……っ!」
お箸から直接卵焼きを食べられ、顔から火が出そうなほど真っ赤になった私。
そんな私を見て、シリス様はどこか満足そうに口元を綻ばせている。……この顔面国宝の甘い攻撃は、貧乏貴族の私には刺激が強すぎる。
***
そんな二人の様子を、中庭から少し離れた校舎の影から見つめる二つの影があった。
「はぁ〜……それにしても、あの人間がまさか専属ガイドで番だったとはねぇ。羨ましい限りだぜ」
派手な赤髪を後ろで束ねたイグニスが、呆れたように息を吐きながら言った。
「俺なんて専属ガイドすら見つかってないし、しかも『番』なんて一生に現れるかどうかも危ういのにさ」
「ふふ、そうだね。……でも、シリスはフィオナちゃんを専属ガイドにはしているけれど、彼女に『番』の話はしていないみたいだよ」
ジュリアンが黄金の髪を軽くかき上げながら、事も無げに言った。
イグニスは驚いたように目を丸くする。
「えっ? マジかよ、なんでだよ。せっかく見つけた番なのに、隠す必要ねぇだろ」
「はぁ……イグニスは本当にバカだね」
ジュリアンは呆れたように小さく肩をすくめた。
「人間に『君は僕の番なんだ』と言ったところで、理解できるわけがないだろう? 『番』という概念や絆を本能で感知できるのは、人間以外の種族だけなんだから」
「あー……そっか……そうだわ。言われてみればそうだな……」
イグニスはガシガシと頭を掻き、どこか痛ましいものを見るような視線を二人に向けた。
「はぁ……せっかく番が現れたのに、相手が人間だなんてな。龍人か鳥人、せめて獣人が番だったら、お互いに『番だ』って認識し合えたのにさ。……命をかけて死ぬほど恋い焦がれる存在を見つけたってのに、相手と自分と同じくらいの重さで思い合えないってのは……見ててつれぇよな」
人間であるフィオナにとって、シリスは「すごい貴族のシリス様」でしかない。
けれど、シリスにとってフィオナは「魂の全てを捧げてもいい絶対の番」なのだ。その圧倒的な熱量の温度差を想い、イグニスは切なそうに吐き捨てた。
「……確かに、そうだね」
ジュリアンは静かに頷き、遠くで真っ赤になっているフィオナを見つめた。
そして——。
「……本当に、ムカつくなぁ」
イグニスには聞こえないほどの極小の声で、ボソリとつぶやいた。
「ん? なんか言ったか、ジュリアン?」
「ん? ううん、何でもないよ」
ジュリアンは一瞬でいつもの完璧で穏やかな笑みに戻ると、腕時計に目を落とした。
「そろそろ僕も政務に戻らなきゃ。公欠の申請は出してあるけれど、書類が山積みなんだ」
「あー、お前も忙しいもんなぁ。……はーあ、シリスも番を見つけて全然構ってくれなくなったし、つまんねぇの」
軽口を叩くイグニスに手を振り、ジュリアンはゆっくりと歩き出した。
振り返ったその琥珀色の瞳には、誰にも見せない冷ややかな光が宿っていた。




