恋心
昨夜は自分の「好き」という気持ちに気づいてしまい、照れくささと鼓動の高鳴りでほとんど眠れなかった。
鏡の前で何度も前髪を整え、赤くなった頬を両手で叩いて気合を入れる。
(大丈夫……! いつも通り、シリス様の専属ガイドとして……ううん、普通に接すればいいんだから……っ)
そう自分に言い聞かせながら学園の大通りへ出ると、並木道の下に佇む人影が見えた。
落ち着いた佇まいに、朝の光を浴びて輝く美しい姿。私を待ってくれていたシリス様だ。
「あ、フィオナ。おはよう」
私に気づいたシリス様が、パッと顔をほころばせて駆け寄ってくる。
その優しく眩しい笑顔を見た瞬間——昨夜自覚した「好き」という感情が胸の奥で一気に弾けた。
「フィオナ? どうしたんだい? 顔が少し赤いけれど……」
「っ! お、おはようございます、シリス様! なんでもありませんっ!」
思わず裏返った声を出してしまい、私は勢いよく一歩後ろへ下がってしまった。
いつもなら素直に隣を歩けるのに、自分の気持ちを自覚してしまった今、シリス様の顔をまっすぐ直視することすらできない。胸がはちきれそうなくらいドックン、ドックンと打ち鳴らされている。
「……? フィオナ、本当に大丈夫かい? 風邪でも引いてしまったんじゃ……」
心配したシリス様が、すっと距離を詰めて私のおでこに触れようと手を伸ばしてきた。
シリス様の指先が触れそうになった瞬間、心臓が跳ね上がって、私は思わず「ひゃいっ!」と
変な声を上げて目をギュッと瞑ってしまった。
「……フィオナ?」
シリス様の手がピタリと止まる。
おそるおそる目を開けると、シリス様は目を丸くしたあと、どこか不思議そうに、けれど愛おしそうに私を見つめていた。
「ははっ!なんだか今日のフィオナはいつもと違うね?」
「そ、そんなこと……っ! いや、あの…その……っ」
顔から火が出そうなくらい真っ赤になってシタドロになる私を見て、シリス様の青い瞳にふっと甘い光が宿った。
「ふふ……そっか」
シリス様は愛おしさを隠しきれない様子で口元を緩めると、拒絶されないようにゆっくりと私の手に自分の手を重ねて、優しく包み込んでくれた。
「…もしかして……意識してくれた?」
(!!)
「もし、本当に君がそんな風に僕を見てくれるなら、なんだかすごく……幸せだよ」
「シリス様……っ」
繋がれた手から伝わってくる温もりが熱くて、胸がぎゅーっと締め付けられる。
まだ「好きです」と口に出して伝える勇気は出ないけれど、繋いだ手の力を少しだけ込めて返すと、シリス様は心底嬉しそうに目を細めるのだった。




