第9話 十一人、欠員ゼロ
帰還意思を確認》
《登録対象、十二名》
視界に浮かんだ文字を見て、俺は息をのんだ。
子ども十一人と負傷した教官。上限いっぱいだ。
俺とリゼは術者と同行者として別枠になるらしい。だが、それだけの人数を一度に運んだことはない。
「リゼ、三十秒くれ!」
「承知!」
彼女が大盾を押し出す。銀の光壁が半円状に広がり、毒羽コウモリの群れを押し返した。
俺は救助縄を円陣の中央へ通し、全員につかませる。
「絶対に離すな。装備が重い者は捨てろ!」
「でも、借り物で――」
「命より高い装備はない!」
子どもたちが剣や採取袋を床へ置く。
《撤収》で持ち帰れるのは身につけた物と、手に保持できる物だけだ。欲を出して重量を増やせば、魔力消費が跳ね上がる。
俺は教官を背負った。意識が薄いが、実習前に登録した救助同意の札を首から下げている。これなら対象にできる。
「二十秒!」
帰還紋へ魔力を流す。
十二本の青い線が、子どもたちの胸から俺の左手へ集まった。
重い。
一人を帰す時は扉を開ける感覚だった。今は、閉じた城門を十二人で押し開けているようだ。
「ユアン!」
リゼの光壁に亀裂が入った。
群れの奥から、翼幅三メートルはある母体が現れる。赤い牙を剥き、大盾へ突進した。
「十秒!」
「先に帰してください!」
「全員でだ!」
「私は止められます!」
「君だけを置いていくなら、俺たちが来た意味がない!」
リゼが一瞬だけ、こちらを見る。
その表情から迷いが消えた。
「では――必ず成功させてください!」
彼女は光壁を解き、自ら母体へ踏み込んだ。
大盾を斜めに構え、突進の力を床へ逃がす。金属が悲鳴を上げ、リゼの靴が石床を削った。
「今です!」
「《隊列撤収》!」
青光が爆発した。
胃が浮き、体が細い穴を抜ける。子どもたちの悲鳴が一つに重なった。
次の瞬間、夜風が頬を打った。
迷宮入口の石柱が、昼間のように輝いている。
子どもたちが地面へ転がった。俺も教官を背負ったまま膝をつく。リゼは大盾ごと倒れ、荒い息を吐いた。
「点呼!」
目の前が暗くなりかけても、これだけは先にする。
トトが駆け寄り、名前を叫んだ。
「ミミ!」
「いる!」
「ハンス!」
「いる!」
一人、二人。双子、ペル、教官。
最後の名前に返事が返る。
「十一人……みんな、いる!」
トトが泣きながら妹を抱きしめた。
衛兵は口を開けたまま、青く光る石柱を見上げている。
俺は地面に仰向けになった。
魔力は空。指一本動かせない。
それでも、笑いがこぼれた。
「十一人、欠員ゼロだ」
隣で倒れていたリゼが、拳をこちらへ伸ばした。
俺も拳を上げ、軽く合わせた。
「私たちも含めれば、十四人です」
「そうだな。全員だ」
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