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外れスキル《撤収》しかない転生者、全員生還の冒険者ギルドを作る ~「逃げたら負け」の異世界ですが、命を持ち帰る俺たちが攻略率一位です~  作者: kaiくん
第一章 生き残った臆病者

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第8話 「帰りたい」と言ってくれ

三層の広間で、十一人の子どもたちは円陣を組んでいた。

 中央には教官が横たわり、右肩から血を流している。子どもたちは短剣と木盾を外へ向け、周囲を飛び回る毒羽コウモリを必死に追い払っていた。

「救助だ! 盾を下げるな、そのまま待て!」

 俺の声に、何人かが泣き出した。

 リゼが円陣の前へ滑り込み、大盾を床へ突き立てる。

「《城壁姿勢》!」

 淡い銀光が盾から左右へ広がった。飛び込んできたコウモリが光壁へぶつかり、次々と弾かれる。

 俺は円陣の中へ入り、教官の傷を確認した。

 牙は抜けている。出血は多いが、脈はある。解毒薬を口へ流し込み、肩を圧迫した。

「ミミはいるか!」

 小柄な少女が手を上げた。

「トトが入口で待ってる」

「お兄ちゃんが?」

「全員で帰るぞ」

 その言葉に、教官が薄く目を開けた。

「駄目、だ……実習は、三層の魔石を持ち帰るまで……」

「実習より命です」

「逃げた記録がつけば、この子たちは……冒険者に、なれない」

 子どもたちの表情が固まった。

 銅級の初回実習で撤退すれば、不合格。孤児院に戻っても、働き口はほとんどない。だから教官は、動けなくなっても救難鐘を一度しか鳴らさなかったのだ。

「魔石なら、また取りに来ればいい」

「次なんて、ない!」

 背の高い少年――ハンスが叫んだ。

「俺たちは貴族じゃない。装備を買ってもらえるのも今回だけだ。ここで帰ったら、ずっと役立たずだ!」

 外でリゼの盾が大きく揺れる。

 コウモリの群れが増えていた。

 俺は左手を掲げた。

「俺の《撤収》なら全員を地上へ戻せる。ただし、君たち自身が帰りたいと言わなければ発動しない」

「そんなこと言えるかよ……」

「なぜだ」

「怖くて逃げたって、みんなに知られる!」

 ハンスの膝は震えていた。

 怖くないふりをするために、声だけを大きくしている。

 俺は彼の前へしゃがんだ。

「俺は仲間三人を帰せなかった」

 全員が俺を見た。告示で名を知っている子もいたのだろう。

「あの時、帰りたいと言ってくれたのは一人だけだった。残った三人は勇敢だと呼ばれ、帰った俺たちは臆病者と呼ばれた」

「じゃあ、やっぱり……」

「でも、生きているエマには明日がある。歩けるようになれば、もう一度魔法を使える。臆病者と呼ぶ声より、その明日の方が大事だ」

 俺は一人ずつ顔を見た。

「生きたいなら、言葉にしてくれ。恥じるな。君の命を、他人の評判に渡すな」

 最初に声を出したのはミミだった。

「帰りたい」

 隣の双子が続く。

「僕も」「私も帰りたい」

 泣き虫のペルが声を上げ、次々に手が挙がった。

 最後に残ったハンスは、唇を噛んでいた。

 壁の向こうで、リゼが叫ぶ。

「ユアン、長くはもちません!」

 ハンスの目から涙が落ちた。

「俺も……帰りたい。死にたくない!」

 青い光が、十二人を結んだ。

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