第66話 歩いて帰る
白鎧が監獄へ雪崩れ込む。
リゼは退かず、盾を床へ打ち立てた。
「ここから先は、患者の通路です!」
槍を正面から受け、横へ流す。二本目を盾の裏で絡め、持ち主ごと壁へ転がした。
その間にドーガが天井の鎖を切る。
鉄格子が落ち、追手との間を塞いだ。
「三分しか持たんぞ!」
「三分あれば、二つ先の角まで行けます」
フィンが先導する。
暗い排水路を怖がっていた少年が、今は三十四人の道を選んでいた。
旧礼拝堂の階段では、担架が曲がれない。
ドーガが手すりを外して即席の滑り台を作り、負傷者を一人ずつ下ろす。
香炉庫では追手が先回りしていた。
ティナが大袋の眠り香を蹴り倒し、俺たちは濡れ布で口を覆って抜けた。倒れた騎士も煙で窒息しないよう、囚人の二人が廊下の外へ引きずる。
「敵まで助けるのか」
「死なせないために逃げたんです」
脱走兵の隊長が言った。
地下厨房の先で、道が二つに分かれた。
右は荷車門。左は大聖堂のさらに深部。
左から、心臓の鼓動のような低音が響く。隙間の向こうに、巨大な赤い輪が見えた。
ドーガが一瞬だけ立ち止まり、壁の点検板を引き抜く。
「証拠じゃ。逃げながら持ち帰れる物だけ持つ」
全員が荷車門へ向かった。
最後の錠を壊すと、冷たい夜風が吹き込む。
結界の境界を越えた瞬間、三十四本の青い線が戻った。
《撤収、使用可能》
能力が告げる。
だが、俺は発動しなかった。
通りの両側に、市民が青い灯を掲げていた。
墓守が知らせ、マルコたちが出口まで道を作ってくれたのだ。
「帰還灯まで、あと三百歩です」
リゼが言う。
「歩けるか」
俺が尋ねると、脱走兵の隊長は添え木の脚を引きずって笑った。
「仲間に肩を借りれば」
担架も、負傷者も、助けに入った俺たちも。
三十四人と五人は、誰一人欠けず、自分たちの灯まで歩いて帰った。
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