第6話 地下三層の救難鐘
少年の名はトト。迷宮街の孤児院で暮らす十二歳だった。
年長の子どもたち十一人が、冒険者登録に必要な初回実習へ出たまま戻らないという。
「鐘は鳴ったのか?」
「はい。三層の救難鐘が一度だけ。でも冒険者本部へ行ったら、正規の依頼人じゃないからって……」
迷宮の各層には、緊急時に地上へ音を伝える魔導鐘がある。一回は負傷、二回は魔物の異常、三回は階層崩壊。
三層から一度なら、まだ生きている可能性が高い。
「本部が受けなかった理由は、それだけじゃないな」
俺の問いに、酒場の主人が苦い顔で口を挟んだ。
「あの実習は孤児院の教官一人と、銅級の子ども十一人だ。救助報酬は規定の銀貨二枚。三層には今朝から毒羽コウモリが出ている。割に合わん」
「正規隊は?」
「明朝、討伐依頼と一緒に出すそうだ」
「夜を越せというのか」
毒羽コウモリに噛まれれば、高熱が出る。地下で一晩は危険だ。
俺は立ち上がった。
「場所を案内してくれ」
リゼが俺の腕をつかむ。
「あなたは資格停止中でしょう」
「だから冒険者としては入らない。迷子を迎えに行くだけだ」
「言い訳にもなっていません」
「だよな」
俺が笑うと、リゼは深くため息をついた。
「装備を整える時間をください。十五分で戻ります」
「来てくれるのか?」
「勧誘されたばかりですから。雇用主を一人で違反者にするわけにはいきません」
十五分後、俺たちは迷宮入口に立っていた。
リゼは厚い革鎧を着込み、長方形の大盾を背負っている。俺は薬草、解毒薬、縄、予備の灯石をそろえた。代金はリゼが払った。
「借りにしてくれ」
「初任給から引きます」
「給料、払えるかな」
「そこからですか?」
トトが不安そうに俺たちを見る。
俺はしゃがみ、目線を合わせた。
「十一人の名前を教えてくれ。顔の特徴もだ」
《撤収》の登録には、対象を個人として認識する必要がある。会ったことがない相手でも、名前と姿が分かれば仮登録はできる。ただし最後は本人の同意が要る。
トトは一人ずつ話した。
妹のミミ。背の高いハンス。泣き虫のペル。料理が得意な双子。
十一人には、十一通りの暮らしがあった。
数字ではない。
「全員、連れて帰る」
入口の衛兵が槍を交差させた。
「ユアン・レイス。お前の資格は停止中だ」
「承知してる」
リゼが一歩前へ出た。
「私は冒険者資格を失っていません。彼は私の荷物持ちです」
「元騎士がF級を雇うのか?」
「ええ。優秀な方です」
堂々と言われると、俺の方が困る。
衛兵は呆れながらも槍をどけた。
「死んでも、本部は責任を取らんぞ」
俺は暗い入口を見た。
「死ぬ予定はない。迎えに行くだけだ」
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