第5話 臆病者の盾騎士
酒場の中央で、銀髪の女が三人の騎士に囲まれていた。
背は俺より少し低い。旅装の上からでも分かるほど鍛えられているが、腰に剣はない。壁際には、大きな長方形の盾だけが立てかけられていた。
「王国騎士団を除名された者が、まだ騎士を名乗るつもりか?」
赤ら顔の男が、女の肩を突いた。
「貴様が撤退命令を出したせいで、俺たちの部隊は魔獣を取り逃がした。功績も昇進も消えたんだぞ」
「代わりに、新人兵十四名が生きて帰りました」
「兵は死んでも命令を守るものだ!」
男の拳が振り上がる。
女は避けようともしなかった。
俺はその手首をつかんだ。
「酒場で元同僚を殴るのも、騎士の命令か?」
「何だ、貴様は」
「雑用係だよ。元、だけどな」
周囲で笑いが起きた。
誰かが俺の名に気づく。
「おい、あいつ《金獅子》から逃げたユアンじゃないか?」
「臆病者同士、お似合いだ」
騎士は俺の手を振り払った。
「腐った者同士で慰め合っていろ」
三人が出ていくと、酒場の客も興味を失ったように顔を背けた。
女は倒れた椅子を起こし、俺へ頭を下げた。
「助かりました。リゼ・カルドナです」
「ユアン・レイス。知っているみたいだけど」
「告示は読みました。でも、あなたが一人を連れ帰ったことも」
その言い方だけで、少し救われた。
俺たちは酒場の隅へ移り、一番安い薄麦酒を一杯だけ頼んだ。
リゼは北部騎士団の小隊長だったという。
魔獣の群れを追って谷へ入った時、別働隊の報告から雪崩の危険を察知した。隊長は討伐続行を命じたが、彼女は新人を連れて撤退。直後、谷は崩れた。
「判断は正しかったんだろ」
「結果だけなら。でも魔獣は逃げ、近隣の牧場に被害が出ました。私が命令に従っていれば倒せたと、皆は言います」
「崩れた谷の中で?」
「騎士なら、それでもです」
リゼは笑った。自分を嘲るような笑いだった。
「盾を持つ者が先に背を向けた。だから臆病者です」
俺は彼女の手を見た。
指の付け根に硬い胼胝がある。盾を握り続けた人間の手だ。
「盾は、誰かを帰すためにも使える」
リゼが顔を上げた。
「俺のスキルが成長した。今は十二人まで一緒に帰せる。だが、帰還を発動するまで守る人間がいない」
「それは……勧誘ですか?」
「まだ資格停止中で、仕事も金もないけどな」
「ひどい条件ですね」
初めて、彼女が自然に笑った。
その時、酒場の扉が勢いよく開いた。
泥だらけの少年が、息を切らして立っている。
「誰か、助けてください! 妹たちが迷宮から帰ってこないんです!」
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