第4話 F級スキル《撤収》
資格停止から七日目。
俺は迷宮都市ラクトの外れにある安宿で、最後の銅貨を机に並べていた。
補償金の頭金を払った。装備の大半も売った。残ったのは刃こぼれした短剣、救助縄、薬草袋、それに着替え一組。
宿代は、あと二日分。
「転生二度目の無職か」
笑おうとして、失敗した。
前世では山岳救助の仕事を辞めたあと、自分が何者なのか分からなくなった。今世では冒険者に居場所を求め、また同じところへ戻ってきた。
違うのは、十九歳の体がまだ若いことくらいだ。
左手の帰還紋を眺める。
「お前がもう少し役に立てばな」
独り言に応えるように、紋が青く光った。
《生還記録を確認》
《累計生還人数:十名》
「十名?」
エマ一人ではない。
《金獅子》に入る前、下級冒険者だった頃に帰した人々。毒に倒れた仲間、罠で足を失いかけた剣士、恐怖で動けなくなった新人。
俺は勝手に、スキルは使っても成長しないと思っていた。
魔物を倒していないからだ。
《成長条件を達成》
《《単独撤収》を《隊列撤収》へ更新します》
光が強くなる。
頭の中へ、新しい使い方が流れ込んできた。
登録上限、十二名。
同意した対象を、人数に応じた魔力消費で一斉帰還させる。負傷で意識を失った者も、事前に救助同意を登録していれば対象にできる。
再使用までの時間は長い。それでも、もう一人ではない。
「十人を帰したから……増えたのか」
剣士の技能は、敵を倒して育つ。
治癒師の技能は、傷を治して育つ。
なら、《撤収》が人を帰して育つのは当然だった。
当然なのに、誰も試さなかった。
逃げることを恥じる世界では、F級の烙印を押された時点で使い手自身が技能を捨てるからだ。
胸の奥で、小さな火がついた。
十二人を帰せる。
もし、あの日にこの力があったなら――。
考えかけて、やめた。
過去の人数を数えても、誰も帰らない。
使うなら、次だ。
俺は残った道具を背負い、宿を出た。
資格停止中でも、荷運びや迷宮外の案内なら仕事はある。まず金を稼ぐ。それから《隊列撤収》の条件を調べる。
路地を抜けたところで、酒場から女の怒鳴り声が聞こえた。
「新人を置き去りにして進めという命令が、正しいはずないでしょう!」
続いて、椅子が倒れる音。
「この臆病者が!」
俺の足は、考えるより先に酒場へ向いていた。
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