第3話 生還者への断罪
迷宮の入口は、三日間開かなかった。
救助隊は崩落した第一層で進路を失い、二日目の夜に撤収した。三日目の朝、迷宮の門そのものが黒く固まり、《攻略不能》の札が立てられた。
ガレスたちの遺体は見つからなかった。
その日の午後、俺は中央冒険者本部の審問室へ呼び出された。
「ユアン・レイス。貴様は隊長命令に背き、戦闘中に持ち場を放棄した。相違ないな?」
長机の中央で、バルガス本部長が分厚い指を組んでいる。
左右に座る審問官は、最初から俺を見ようともしなかった。
「相違あります。撤退を三度進言しました。崩落の予兆も報告した」
「記録にはない」
「記録係は俺でした。俺の探索帳を確認してください」
机に置かれているはずの帳面がない。
「提出した帳面は?」
「戦闘の混乱で紛失したのだろう」
バルガスは平然と言った。
俺の背中を冷たいものが流れた。
「エマが証言できます」
「重傷者の記憶は混乱している。治療院からも面会禁止の要請が来ている」
「では、入口の衛兵に――」
「ユアン」
低い声が、言葉を切った。
「三人の英雄が帰らず、F級の雑用係だけが帰った。民衆が納得する説明を、我々は用意せねばならん」
意味は明白だった。
迷宮管理を誤った本部にも、功績を焦ったガレスにも責任を負わせない。そのために、外れスキル持ちの俺を使う。
「真実ではなく、納得ですか」
「社会には必要なことだ」
バルガスが一枚の書面を滑らせた。
《金獅子》からの除名。冒険者資格六か月停止。遺族への補償金の一部負担。
到底払えない額だった。
「署名しろ。従えば、臆病による判断ミスとして処理する。拒めば仲間を故意に見捨てた罪で告発する」
「どちらでも、俺が悪いことになる」
「生き残った者には、説明する責任がある」
前世でも似た言葉を聞いた。
雪崩で仲間を失った時、なぜ自分だけ戻ったのかと問われた。責める意図がない人の目にさえ、答えを求める色があった。
生き残ったことが、罪のように思えた。
俺は羽根ペンを取った。
けれど、署名欄へは置かなかった。
「六か月後、資格は戻るんですね」
「処分中に問題を起こさなければな」
「補償金は払います。ただし、これは罪を認める署名ではない。俺が帰せなかった三人への金だ」
文面の下にそう書き足してから、名前を記した。
審問官が顔をしかめる。
バルガスだけが笑っていた。
「負け惜しみは好きにしろ。だが覚えておけ。冒険者に必要なのは勝利だ。《撤収》しかできない者に、居場所はない」
本部を出ると、掲示板に新しい告示が貼られていた。
《金獅子壊滅。帰還係ユアン・レイス、独断撤退により隊を放棄》
その前で、誰かが俺を見つけた。
「あいつだ」
「仲間を置いて逃げた奴」
石は飛んでこなかった。
それでも、言葉は十分に痛かった。
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