↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル《撤収》しかない転生者、全員生還の冒険者ギルドを作る ~「逃げたら負け」の異世界ですが、命を持ち帰る俺たちが攻略率一位です~  作者: kaiくん
第一章 生き残った臆病者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/71

第2話 五人で入り、二人で帰った

砕けた岩が通路を埋め、出口が消えた。

「全員、俺のそばへ!」

 叫びながら、俺は帰還紋を刻んだ左手を掲げた。

 淡い青光が指先に集まる。《撤収》が使える証だ。入口の帰還点はまだ生きている。

「ガレス、誰を帰す!」

「必要ない! ボスを倒せば迷宮の揺れは収まる!」

「これはボスのせいじゃない!」

 ガレスは聞かなかった。

 ケルベロスの中央首が炎を吐く。セシルの結界が受け止めたが、床の裂け目から噴き上がった熱風に足を取られた。

 ロルフの槍が弾かれ、その胸を獣の爪がかすめる。

「まだだ!」

「帰還に同意しろ、ロルフ!」

「俺を臆病者にする気か!」

 青い光がロルフの体へ伸び、触れる前に霧散した。

 本人が拒んでいる。

 セシルにも届かない。ガレスにも届かない。

 この世界では、迷宮から逃げる者は腰抜けと呼ばれる。撤退歴は冒険者証へ刻まれ、昇級の妨げになる。死んでも戦った者は英雄になり、生きて逃げた者は後ろ指をさされる。

 前世の俺なら、馬鹿げていると笑っただろう。

 今は笑えない。

 頭上で石が割れた。

「きゃっ――!」

 エマの声がした。

 落石が彼女の右脚を直撃していた。杖が床を転がり、細い脚が岩の下で不自然に曲がっている。

 俺は炎の余波を避け、エマのもとへ滑り込んだ。

「動くな。今どける」

「無理、よ……ユアン。私を置いて、自分だけ……」

「置いていかない」

 岩の隙間へ短剣を差し、梃子にする。刃が軋んだ。ロルフが何か叫んでいる。床が傾き、ケルベロスも立っていられなくなった。

 ガレスが初めて振り返った。

「ユアン! エマを帰せ!」

「お前たちも来い!」

「首を一つ落とした! あと少しだ!」

 あと少し。

 救助現場で、最も信用してはいけない言葉だ。

 岩が動いた。エマの体を引き抜き、肩を抱く。

「エマ。俺と帰りたいか」

 問いかけなければならない。

 スキルが求めているのは命令への服従ではなく、本人の意思だ。

 エマは涙で濡れた顔を上げた。

 ガレスたちを見る。名声を分け合い、何度も死線を越えた仲間たちだ。

「帰り、たい……」

 消えそうな声だった。

 今度は青い光が、エマの胸へ届いた。

《帰還意思を確認》

《対象一名を登録》

「ガレス!」

 最後に手を伸ばす。

「生きて戻れ! それが命令だ!」

 ガレスは大剣を構えたまま、笑った。

「階層主を倒して凱旋する。先に酒場を押さえておけ」

 青い光が俺とエマを包む。

 視界が白く染まる寸前、天井全体が落ちるのが見えた。

 次に背中へ当たったのは、冷たい地面だった。

 迷宮入口。帰還点に使った古い石碑の前だ。

 エマの呼吸を確かめる。生きている。すぐに止血帯を巻き、入口の衛兵へ叫んだ。

「治癒師を呼べ! それから救助隊を!」

 衛兵は俺の後ろを見た。

「他の三人は?」

 石碑の光が消えた。

 帰還点とのつながりが、完全に断たれたのだ。

 五人で入った。

 帰ったのは、二人だった。

---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。