第59話 無人の砦へ群れを誘う
目を覚ますと、仮設治癒所の寝台だった。
丸一日眠っていたらしい。
「起きたなら、水を飲んでください」
リゼが椅子に座っている。鎧は着たまま、目の下には疲れがあった。
「戦況は?」
「住民避難は完了。魔物の主群が河原へ向かっています」
起き上がろうとすると、肩を押し戻された。
「今度は私の命令です。あなたは帰還網を使わない」
「でも――」
「皆で作った網です。あなたが倒れても動かせるようにしました」
フィンが地図を持って入ってきた。
作戦はすでに進んでいた。
三都市から離れた旧国境砦へ、魔物が好む赤晶と餌を集める。アレクシスが主群を誘導し、無人の砦へ入ったところで門を閉じる。
各都市の帰還灯操作員は、俺抜きで防衛隊の交代を行う。
「危険なら中止する条件は?」
「砦内に民間人が一人でも残っていた場合。誘導隊の負傷三割。帰還灯二基停止」
俺が教えた形式で、フィンが答える。
口を出す場所がない。
「分かった。ここで待つ」
リゼがほっと息を吐く。
夕方、遠話水晶からアレクシスの声が届いた。
「主群、砦内へ進入。誘導隊、全員撤収する」
青い灯が順に光る。
最後に勇者が帰還し、ドーガが遠隔楔を作動させた。砦の鉄門が落ちる。
弓兵と魔術師が城壁の外から一斉攻撃を始めた。
戦いは夜明けまで続いた。
俺は寝台で報告を受け、必要な時だけ判断した。
最後の魔物が倒れた時、帰還灯網は一度も止まらなかった。
俺が現場にいなくても、全員が帰った。
寂しさより、うれしさの方が大きかった。
---




