第58話 千人帰還
ハルク迷宮が完全に開いた。
黒い霧とともに現れたのは、これまでの倍を超える群れだった。避難はまだ千七十二人残っている。
帰還灯網で一度に送れるのは百人ほど。十回以上繰り返す時間はない。
「全灯の登録を俺へ集める」
「体がもちません」
ティナが止める。
「集めるだけだ。前回の《連鎖撤収》を、都市規模へ広げる」
各中継点から名前が届く。
事前救助同意は避難登録時に取ってある。千七十二本の青い線が、帰還灯網を埋めた。
左手が焼けるように熱い。
《広域救助登録、千名を確認》
《帰還網との適合率が基準を超過》
《《広域撤収》を解放します》
青い線が、俺一人へ集まるのをやめた。
灯から灯へ、人から人へつながり、巨大な円を作る。俺は中心ではなく、流れを開く鍵になった。
「全中継点、点呼!」
遠話水晶から返事が重なる。
「ベルナ、準備完了!」
「ハルク西門、完了!」
「北牧場、全員登録!」
リゼが俺の隣へ立つ。
「一人で持たないで。私たちもいます」
「開くぞ。《広域撤収》!」
三都市の青い灯が、夜明けのように輝いた。
住民の姿が一斉に光へ溶け、河原の主帰還点へ現れる。受け入れ班が家族ごとに点呼し、空いた場所へ次の群れを誘導する。
千人を超える帰還が、一分で完了した。
最後の名を確認した瞬間、足から力が抜ける。
「ユアン!」
地面へ落ちる前に、リゼが抱き止めた。
視界が暗い。魔力だけでなく、意識まで帰還網へ引かれたようだった。
「全員……いるか」
「千七十二名、全員です」
「なら、少し休む」
「少しでは足りません」
叱る声を聞きながら、俺は意識を失った。
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