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外れスキル《撤収》しかない転生者、全員生還の冒険者ギルドを作る ~「逃げたら負け」の異世界ですが、命を持ち帰る俺たちが攻略率一位です~  作者: kaiくん
第六章 三都市大避難

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第55話 空になった町を笑う者

最初に避難を終えたのは、農業都市メルドだった。

 住民八百名が家畜と最低限の荷物をまとめ、河原の仮設村へ移った。

 翌朝、空の町を見た兵士が笑った。

「魔物も出てないのに、鍋まで持って逃げたぞ」

「農民は気楽でいい」

 メルドの住民は言い返さなかった。

 代わりに仮設村で竈を組み、ベルナから来る避難者の食事を作り始めた。大鍋で煮込まれた麦粥の匂いが河原へ広がる。

 大工は簡易寝台を作り、農婦たちは子どもの名札を縫う。老人は到着者の点呼を手伝った。

「逃げた人たちが、受け入れる側になっています」

 ティナが驚く。

「先に避難したから、準備する時間がある」

 夕方、ベルナの第一陣三百名が到着した。

 疲れた人々へ、温かい粥と寝床が渡る。

 笑っていた兵士も負傷者を運び、メルドの老人から配置を教わっていた。

 町を空にしたことは敗北ではない。

 人と時間を、次の役割へ移したのだ。

 その夜、メルド迷宮から黒い柱が上がった。

 地面が震え、城壁を越える数の魔物が町へ流れ込む。

 家には誰もいない。

 魔物は窓を割り、畑を踏み荒らした。けれど悲鳴は一つも上がらない。

「本当に来た……」

 住民たちは河原から遠い町の光を見つめた。

 泣く者もいた。

 俺は「避難して正解だった」とは言わなかった。

 家を失う痛みは、命が助かった事実で消えない。

「必ず戻れるようにする」

 約束できるのは、それだけだった。

 大氾濫が始まった。

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