第51話 大氾濫の予兆
王都地下の鐘が鳴った翌朝、ラクトから緊急遠話が入った。
「東部三都市の迷宮が、同時に膨張しています」
水晶に映るフィンは、徹夜らしく目の下が黒い。
河川都市ベルナ、農業都市メルド、砦都市ハルク。
三都市は大河セイルに沿って並び、それぞれ小規模迷宮を抱えている。過去の記録では、魔物が外へあふれる大氾濫は百年に一度だった。
「今回は三つ同時です。最短で十二日後」
「根拠は?」
「迷宮の拡張率、赤晶の発光周期、周辺魔物の移動。それと王都事故の日から、三つの迷宮へ教会の魔力が一度に流れました」
競技場の祝福が魔力管を逆流し、地下帰還網を通って東部へ届いた。
偶発的な事故か、誰かが意図したのかは分からない。
「王国へ報告したか」
「中央本部は一か月以内に調査すると」
「十二日後なのに?」
アレクシスが立ち上がった。
「俺が騎士団を動かす」
王太子も地図を広げる。
「王命で調査を前倒しする。ただし住民避難には各領主の同意が要る」
俺たちは王都から直接東部へ向かった。ラクトの仲間も移動式帰還灯を載せた隊商で合流する。
ベルナへ着いたのは三日後。
迷宮入口から、黒い霧が漏れていた。森では弱い魔物が、何かから逃げるように街道へ出ている。
フィンの予測は正しい。
城館で三都市の領主を集め、避難計画を示した。
「住民を大氾濫前に川向こうへ移し、戦える者だけ交代で防衛するべきです」
ハルク伯が机を叩いた。
「町を空にすれば、隣領が占領する! 敵も見えぬうちから逃げろというのか!」
教会司祭が続く。
「聖印を持つ者が戦えば、必ず勝利します」
三都市を救う前に、逃げることを恥じる心と戦わなければならなかった。
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