第50話 迷宮は死者を食べている
王立書庫の地下には、過去三百年分の迷宮記録が保管されていた。
発生日、拡張周期、魔物の強さ、採掘量、死傷者数。
俺、リゼ、アレクシスは三日かけて数字を写した。迷宮都市ラクトから届いたフィンの分析と重ねる。
「一致しました」
遠話水晶の向こうで、フィンの顔が青ざめている。
「死者が多い翌月、迷宮の面積が平均して増えています。魔石の純度も上がる」
「大氾濫の前は?」
「必ず大規模な戦闘があります」
アレクシスが別の台帳を開いた。
「教会は死者が増えた地域へ、鎮魂用として赤晶を運び込んでいる」
「鎮めているんじゃない。集めてるのかもしれない」
鉱山主は、死者から赤晶を通じて魔力を吸った。
世界中の迷宮も、同じなら。
人が死ぬ。
赤晶が魂と魔力を吸う。
迷宮が成長し、強い魔物が生まれる。
冒険者が送り込まれ、また死ぬ。
「勝利を求めるほど、次の戦いが大きくなる」
リゼが呟いた。
書庫の最奥で、古い地図を見つけた。
現在の迷宮を記したものではない。大陸全体を走る地下線と、その交点にある十二の円。
円の一つがラクト迷宮。もう一つが赤晶鉱山。全ての線は王都地下へ集まっていた。
地図の題名は、古代文字で《帰還網》。
「迷宮の地図じゃない」
俺の帰還紋が、地図へ近づけただけで青く光る。
同時に、王都の地下深くから鐘が鳴った。
一度。
誰にも聞こえないほど低い音なのに、帰還紋を通してはっきり分かった。
それは警告ではない。
長い間、誰にも届かなかった救難信号だった。
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