第49話 帰還を封じる祝福
事故記録を確認するうち、一つだけ説明できない空白が見つかった。
大司祭オルデンがいた貴賓席周辺の十七人。
彼らだけ、最初の《連鎖撤収》に反応しなかった。
「同意は取れていました」
リゼが救助札を並べる。
「全員が意識もあり、登録条件に問題はありません」
十七人は騎士に誘導され、歩いて避難した。結果として全員無事だったが、なぜスキルが届かなかったのか。
俺たちは競技場へ戻った。
貴賓席の床には、教会の大きな太陽紋が刻まれている。
帰還紋を起動しながら近づく。
三歩手前で、青い光が揺らいだ。
二歩。線が薄れる。
太陽紋の上へ乗ると、完全に消えた。
「帰還封じです」
リゼが盾の小さな聖印を外した。
騎士団の装備には、教会の祝福が施される。その印を紋へ近づけると、俺の光が弱まった。
「祝福が《撤収》を邪魔している?」
教会は、迷宮で戦う者へ勝利の加護を与える。攻撃力や持久力を上げる聖印だ。
代わりに、帰還系技能を封じる仕組みが隠されている。
だから聖印を持つ冒険者ほど、危機に撤退できない。
「偶然ではないな」
背後から声がした。
アレクシスが立っている。彼の胸にも、最上位の太陽紋が刻まれていた。
「俺は教会から、撤退を考えれば祝福が弱まると教えられた。精神の問題だと思っていた」
彼が聖印へ手を置く。
「本当に、技能そのものを封じているなら……」
「確かめるには記録が必要だ」
王太子の許可を得て、王立書庫と教会への魔石搬入記録を調べることになった。
赤晶鉱山の帳簿にあった宛先。
その理由が、ようやく見え始めた。
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