第44話 本物の崩落
「全員、席を立つな!」
俺の声は、最初の轟音にかき消された。
競技場の北側が持ち上がり、石床が割れる。地下を通る魔力管から青い炎が噴き出した。
観客が一斉に出口へ走る。
「走るな! 北門を使うな!」
亀裂は北門へ伸びている。人が集中すれば、床ごと落ちる。
リゼが演技用の大盾を拾い、通路を塞いだ。
「西と南へ分かれて! 子どもと歩けない方を先に!」
騎士団が王族を囲み、貴賓席専用口へ向かう。
その人数が一般客の流れを横切り、混乱が増した。
「王族だけ動かすな! 流れを分断する!」
「無礼者、下がれ!」
騎士が俺を押しのける。
次の爆発が起きた。
北側の観客席が一段落ち、百人以上が孤立する。
俺は競技場入口に置いた帰還点を探った。つながっている。だが登録したのは俺とリゼだけだ。
観客一人ずつの同意を取る時間はない。
「救助札を配る! 名前を書けない者は家族単位で手をつなげ!」
実演用に用意した木札を配る。
退屈だと笑われた手順を、観客自身が行い始めた。
「私は北側へ行きます」
リゼが盾を構える。
「一人で?」
「騎士団の顔を知っています。動かせます」
「無理なら戻れ」
「あなたも」
俺たちは別れた。
床下から聞こえる魔力管の脈動を数える。爆発の間隔は短くなっている。
王都の救助隊は、競技場外で命令系統の確認に時間を取られていた。
俺は演技用の人形を投げ捨て、そこに本物の負傷者を寝かせた。
「帰りたい人は、はっきり言ってくれ!」
今度は誰も笑わなかった。
何百もの声が、同時に答えた。
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