第43話 救助競技は見世物
王都セレストの大競技場は、五万人の観客で埋まっていた。
剣士が鉄人形を両断するたび歓声が上がり、魔術師が炎の竜を空へ放つたび花びらが舞う。
俺たちの救助実演は、その間の休憩扱いだった。
「続いて、話題の《帰還灯》による撤退訓練です!」
司会の声にも熱がない。
競技場へ用意されたのは、倒れた人形十体と木製の瓦礫。俺はまず安全確認、リゼは搬送路の確保から始めた。
「戦わないのか?」
「地味すぎるぞ!」
観客席から野次が飛ぶ。
俺は人形へ救助札をつける手順を説明した。
「意識のない負傷者を帰還対象にするには、事前同意が必要です。登録がない場合は通常搬送を――」
欠伸をする者が増えた。
貴賓席では、白衣の大司祭が王へ何か囁いている。オルデン。凱旋教会の頂点に立つ男だ。
「逃げる準備に、ずいぶん時間を使うものですね」
拡声魔法で、彼の声が競技場へ届いた。
「勇者なら、危険の原因を先に討つでしょう」
客席が笑う。
俺は作業を止めなかった。
「原因を討つ人が必要です。同時に、その間に負傷者を帰す人も必要です」
「勝利すれば、全員を救えます」
「勝つまで生きていれば、です」
空気が少し変わった。
リゼは最後の人形を白線の外へ運び、点呼する。
「十体、搬送完了」
拍手はまばらだった。
だが俺は気にしなかった。
見せるべき手順を省き、派手に見せれば、俺たちまで勝利を優先する側になる。
退場しようとした時、足元で小さな振動を感じた。
一度。二度。
競技用の演出ではない。
前世から知っている、何かが壊れる音だ。
「リゼ、止まれ」
競技場中央の床に、細い亀裂が走った。
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