第42話 留守を任せる勇気
「北門の荷車事故、負傷者三名!」
訓練初日、ハンスが報告へ飛び込んできた。
俺は反射的に立ち上がる。
「ティナ、救護袋を――」
「座っていてください」
リゼに肩を押される。
今日は俺が不在という想定だ。
ティナが救護班二名を選び、ドーガが担架を荷車へ固定する。フィンは地図を開き、混雑を避ける経路を示した。
「帰還灯は使わないんですか?」
ハンスが尋ねる。
「地上で三名。荷車の方が魔力を温存できます」
ティナの判断は正しい。
俺が口を挟む必要はない。
それでも手の置き場がなく、机の上を何度も拭いた。
「落ち着かんなら薪でも割れ」
ドーガに斧を渡された。
三日間で、俺抜きの出動訓練を五回行った。
最終日は予告なし。訓練用の救難鐘が鳴ると、ティナが臨時指揮を執った。
「フィンさん、地図。ドーガさんは移動灯。ハンス班は地上受け入れ。私は現場へ行きます」
迷いはない。
俺が作った十九枚の手順書は、三枚に整理されていた。
「減らしすぎじゃないか?」
「細かすぎると現場で読めません」
フィンが答える。
俺は皆を守るためだと思い、判断を自分へ集めていた。
けれど、それでは俺が倒れた時に全部止まる。
前世の失敗も同じだった。自分が残れば何とかなると思い、助けを求めるのが遅れた。
王都へ出発する朝、俺はギルド長の鍵をティナへ渡した。
「無理だと思ったら依頼を断っていい。迷ったら、帰す方を選んでくれ」
「はい」
「何かあれば――」
「伝令を送る前に、できることをします」
ティナが少し笑う。
リゼと馬車へ乗ると、軒先に全員が並んだ。
青い灯は、俺がいなくてもともっている。
「心配ですか?」
「心配だ。でも、任せる」
「それも撤退と同じです。手放すのは、諦めることではありません」
馬車が動き出した。
俺は振り返るのを一度だけにした。
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